スターゲイザー.8

「次の質問です。テレポートした先って、天球儀以外の物もありますよね。具体的に言うと、何か敵性を持つ物が」

慎重に言葉を選んで、ミオは言う。多分飛ばされる場所は何もかもが魔力でできている場所だ。この世のどこにも存在しない場所ということになる。そんな場所は維持し続けるために、歴戦の凄腕魔術師が腕試しのために全力で戦うような怪物ナイトウォーカーを場所そのものが用意している。

「よく知ってるじゃない。話が早くて助かるわ」

「私一人であんな連中と戦えって言うんじゃないですよね?」

なんだそんなことを心配してたのね、とマヒルは笑って言った。

「そりゃあ勿論、片っ端からやっつけてあげるわよ。ただし」

マヒルが人差し指を立てる。促せ、ということなので仕方がないから促す。

「ただし?」

満足げに笑ってマヒルは言った。

「残念だけど私は直接テレポートできないから、敵の攻撃は頑張って避けて」

突然の死刑宣告にミオは間髪入れず答える。

「無理です」

「嘘をおっしゃいな。リッケルハイムの連中はみんな糸術で全身を守っているでしょう?」

マヒルが不思議そうに言うので、ミオは首を激しく横に振る。マヒルが糸術を小さく補足張り巡らせることで自らを操り、人間の限界を超えた能力を発揮させるあの術のことを言っているのが分かった。

「できません。私にはあんな全身の神経全部ピアノ線にしてかき鳴らすみたいな芸当習っていませんもん。所詮私は分家なんです。いくら女系魔術の家系だからって、本家の秘伝を全部伝授されたわけじゃないんです」

じっとマヒルが見つめる。視線が痛い。分かっているぞ。嘘を言うなと眼差しが雄弁に語っている。大方本家の伝承者の使用人辺りとでも繋がっているのだろう。本家も若い女の生き血をすすって生きてるような怪物連中だ。好みが似通っていても不思議じゃない。信じて欲しいと眼で言い返すが、マヒルは聞く耳を持っていない。

「……五分です。それ以上は本当に私にはできません。五分以内で天球儀に着けないと、本当に私の実力じゃ何もできません」

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