スターゲイザー.11

「天球儀が見えました!」

段々と天球儀の姿が大きくなっていく。

「ねぇ、ミオ。あなたの糸術って、どのくらい先まで届く?」

唐突な質問に、ミオの足が止まる。残り四分十五秒。敵影なし。天球儀はゆらゆらとリングを回転させている。防壁があるという話であったが、防壁特有の光の屈折は見つからない。この距離ならば楽々触れる距離まで走れるだろうといら立ちながら、ミオは答える。

「この間合いなら、ギリギリなんとか届くかなってとこです」

嫌な予感がして、糸術の展開を維持したまま鞭を出す。糸術の負荷は増大するが、これでも三分は維持できる。全力疾走しても問題ない。呼吸を整えて、意識を鞭に集中させる。届くかどうか、確信は持てなかった。どうしても糸術をより集めるとその分長さが短くなるのだ。

「残念だけど、それ以上近づくことはできないわ。ついでに言うと、今まで走ってきた距離の五倍くらいの距離がまだあるわよ。最初あなたの命と引き換えになんとかするつもりだったけど、ちょっと気が変わった。私の魔力をあげるからちょっと待って」

「えっ」

ミオは、突然全身を大きな分厚い布でくるまれる感触に襲われる。間違いなく、マヒルの持つ膨大な魔力だ。ミオの魔術とマヒルの魔力が近いということを踏まえて、ミオが何もせずともミオの魔力量を増大させられるように細工が施されている。鞭の長さが伸びるのが分かったが、これではいくらなんでも伸びすぎである。

「よし、これなら問題ないわよね。私、リッケルハイムの術に適性持ってるわけじゃないからさっさと済ませて。何千年も生きてるけど、まだ死ぬつもりはないもの」

「長すぎます!こんなの振れません!!」

「そういうことは」

手が自然に動く。確信があった。生還できるだろう。だが、自分ではマヒルのように『星々の果て』こんなところで星を見ることはできない。止めなくてはいけないと思い、全身で叫んだのに、魔術と体術を叩き込まれた肉体が、自然と最適解今すべきことを導き出してしまう。

「振ってから言うものよ」

天球儀が真っ二つになって、視界を閃光が覆い尽くした。

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