スターゲイザー.2

魔女。それも、魔物ナイトウォーカーの唯一の弱点を克服したデイウォーカー超危険人物の一人とくれば、それはもうとびっきりの化け物であることは間違いないという思い込みがあった。それだけの想像を裏付けるだけの情報もあった。

その1、寿命というものが存在せず、神出鬼没である。音もなく、敵の背後に出現し、息の根を止めて事を済ませてしまったら誰にも気づかれずに姿を消す黒ずくめの幽霊の都市伝説。何千年という昔からそれが実在し、しかも件のデイウォーカーであると聞けば、それだけでも会いに行くのは恐ろしい。その日を最後にこの世から蒸発しかねないという不安にしめつけられた。

その2、杖と二本の短剣、そして多くの装飾品を用いるタイプの魔術の使い手である。魔術の中でも自然環境との親和性が高く、扱いやすさに長ける魔術である反面、ナイトウォーカーと呼ばれるほどになるにも永い年月がかかる。件の魔女の魔術が全て事実であると仮定した場合、習得にかかる年月は最低二千年。その1を裏付けるものであると同時に、同じ魔術の使い手としては憧れと畏怖の対象にもなる。だから、引き返すわけには行かなかった。

その3、多くの固定観念と偏見に塗れた評価の中に燦然と輝く、簡易事象干渉装置最先端技術の試作に関わったという経歴。今はまだ量産できていないが、彼女のおかげで量産の見通しが立ったとなれば、一科学者魔女の一人として黙っていられない。それに、彼女は尻尾付き《私たち》でも鱗付きでも羽付きでもなく、耳長なのだ。簡単に言えば、魔法にも科学にも向いていない。今ならば取材のチャンスもある。

そしてその4、私の上司から宇宙からの来訪者人類すべての敵退治に長けた様々な秘密を抱えているので、何がなんでもとっちめてふんじばって引き摺って帰ってこいと言われた。よくよく聞けば、かつて私の故郷を来訪者アイツ等から守ってくれた彼女と特徴が一致する。それだけの恩人を、社会みんなは大罪人のように扱い、正義を盾に振る舞うべき相手だと言う。気が重くないわけがなかった。

「帰りたい……」

魔女のいる街の駅に立ち、私――ミオ=リッケルハイムは大きなため息をついた。

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