ヒイラギ.7

ほどなくして広い空間の前に来たフィリップは、その場に立ちつくしてしまった。大量の偽装用の外装コードに覆われ、表面上こそ下水道であるものの、赤外線センサーに映るは。

「街だ……!」

窮屈ながらも都市インフラの全てを備え、所せましと住居が並んでいる。フィリップと同じように下水道に興味を持った誰かが作成したものらしい。これほどの規模の物を一人で作り上げたとすれば称賛に値するが、下水道は監視されていないし、都市区画の監視にしても時間が決められている。知識と経験があれば女神の目を欺いて下水道の中に別の都市を作りだすことは不可能ではない。以前にも女神の目を盗んで都市区画以外の場所で暮らす者が処罰されたことがある。違法改造の規模こそ大きいが、特筆すべきことはその程度だ。都市の作りに美的センスや才能があるようにも見られない。それに、人格データが発する信号が全く検知できなかった。要のところはシュミレーションゲームプログラムを走らせる趣味を、この電脳空間を改造することで行っただけなのだ。

目の前の景色に納得したフィリップは、慎重に外装コードを解除した。左手はナイフを逆手に持っている。広場の手前にはノイズの痕跡が見られなかったものの、ノイズやノイズの協力者が関係している可能性はかなり高い。とにかく慎重に行動すべきだと考えての行動だ。


外装コードが消えて現れた都市は、大部分が金属でできていた。様々に塗装されたパイプ群に、鉄骨にベニヤと布、プラスチックにセラミックを駆使して積み上げられた住居。住居の中には広場の外壁にへばりつくようにして作られたものもある。どれもこれも色鮮やかで、余計に悪ふざけで作り上げた印象を強くさせる。

足元を見ると、ここにもノイズの痕跡があった。ここも通ったことは間違いない。

「僕は神徒だ。都市区画の改造はたとえ下水道であろうと違法行為である!これから一分待つ!それまでに姿を見せぬ場合、我らが女神への反逆行為とみなし、処罰を実行する!!」

広場中に響き渡るようにフィリップは叫んだ。

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