ヒイラギ.6
慎重に下水道に残ったノイズの跡を辿る。入口の蓋は閉めたので光はないが、所詮はデータ上の肉体だ。視力は関係ない。女神のことだから悪臭は発生させていないが、念のため嗅覚の回路はオフにしてある。物音は今のところ聞こえず、自分の靴音がよく響く。
角を二つ曲がったところで、フィリップはノイズの痕跡ではないものを見つけた。
「偽装用の外装コード……?」
恐らくはノイズの偽装と自らの姿を隠すために使ったと思われる物の端切れがそこに落ちていた。電脳空間の闘技場でよく用いられるもので、闘技場外部で使用できないように制限がかけられている。手を触れて、フィリップはまじまじと観察した。違法改造の形跡も、大量にコピーされた形跡もあるとなれば、自ずと答えは出る。
「やはり敵対者がいる、か」
人格データがノイズに汚染された結果別人と成り果てた者、女神に反旗を翻すためにあの手この手でノイズを生み出した者。齢14にして歴戦の神徒フィリップは、女神の敵を何人も「駆除」してきた。今回も証拠は既にフィリップの手にあるのだから、あとは
フィリップはそっと腰に装備している二本のナイフの感触を確かめた。二本とも魔術の行使を目的とした武器だ。振ればその刀身を数倍に伸ばして殺傷能力を高める、フィリップ愛用の武器でもある。初仕事の際に女神が護身用にとフィリップに渡したもので、黒い柄のものが背中に、白い柄の物が左腰に装備されている。この二本のナイフさえあれば魔法の矢によって敵を射抜くこともできるし、目の前の空間を爆発させることもできる。そのナイフを二本とも、静かに地面に突き刺した。ナイフは音もなく刀身を半分ほど沈め、鈍く光り出す。
「ソナー、起動。……?」
自分以外の反応は得られなかったが、妙なことに気がついた。ここから更にノイズの痕跡を辿って行った先が、大きく開けた場所になっているのだ。本来存在しないはずの空間である。正体を探るべく、フィリップは駆け出した。
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