ヒイラギ.3

「神徒。年齢なんか関係ないわ。今もまだ地球に人間が暮らしている。それだけで大きな価値があるのよ。今にみんな帰ってくる。その時にきっと、地球にきちんと人間が暮らすことができるんだって知って、みんな勇気と元気を貰うの。絶対にそうよ」

自分に言い聞かせているのか、フィリップに説いているのか、あるいはその両方なのか。おちゃらけたトーンを止めて、複雑な気持ちに蓋をするようにそう言った女神の寂しげな背中を思い浮かべながら、フィリップは亜空間へ接続ダイブする。


「ようこそ、神徒フィリップ。お待ちしていましたよ」

ダイブするとすぐに、目の前に女神が現れる。向こうの少女の姿ではなく、20代前半ほどの若い女性の姿だ。髪は短く、外套のない純白の鎧に身を包んでいる。伸ばした背筋と左腰に差した二本の剣――片方は見慣れた反りのない両刃の剣だが、もう一本は元々東洋の剣で、刀と呼ぶそうだ――がよく映える。女神は電脳空間管理用にサブ人格を設定している。神徒ではないれっきとした「人間」――肉体を持たず、電脳空間のみにするデータに過ぎないが――にとって最良の空間を提供し続けるためだ。女神本体であるところの少女の人格では凶行に走った人間に対し、「一通り暴れて満足することが最良である」という結論を出し、放置する。しかし、この電脳空間には、物理法則を無視した容量があるとは言え、限界もある。つまり、少女のままの人格では、例えばたった一人の「電脳空間の限界を超えてしまいたい」という好奇心さえも止めることができない。サブ人格に電脳空間を防衛させることによって、治安維持を図っているというわけだ。

本体がいつもあんなにも生命力を余らせているのかサブには分かりませんが、あなたには分かりますか?」

「分かりません、女神様」

一言で言えば寂しさを紛らわすためだろうということは、データによる学習で分かっていた。しかし、サブ人格この女神にその情報は必要ない。だから、嘘をついた。

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