第26話 異次元レイヤからの強襲

アリマという青年は悪い組織に所属している。


アリマはとある企業にハッキングを仕掛けようと企てていた。その企業が次回リリースする製品についての情報を探るように命令されたのだ。


…………


俺はアリマ。先程電話で受けた命令を思い返しながら、マンションの自室のノートPCの電源を入れた。


まず会社のホームページを見るが、新製品に関するページは無いようだ。検索エンジンから検索してみるが、思いつく限りのキーワードでも引っかかる気配がない。まあ、当然だ。そうでなければそもそも俺にハッキングの命令など来ないだろう。


産業スパイ、掃除のおばちゃんの買収、社長同士の対談でぽろっと漏らすとか、ハニートラップや美人局つつもたせで引っ掛けるというのは他の部署が試みているだろう。俺は俺のやり方で奴らから情報を盗まなければならない。そのために磨いたスキルと度胸があればなんだってできるはずだ。


まずは腹ごしらえだ。ピザの出前を頼もう。


とぅるるるるるる


アリマ「俺だ。ソーセージと焼肉のピザを頼む。あと唐揚げもだ。サラダ?いらん」


ピッ。


このケータイは組織から貸与された秘密のケータイだ。どこへかけても俺には電話代が請求されないすぐれものだ。このままターゲットの会社に電話をかけてもいいがいかんせん俺の声がオモテに出るのはまずい。それこそ有名声優にメッセージを代弁してもらう程度の慎重さがなければこの先生きてはいけないだろう。


ピザが来るまで時間はある。もう少しターゲットの会社を調べてみるか。


とあるビルの2階にあるらしい。株式会社ミドリカワエンタープライズ……って、ホームページや掲示板の情報じゃこんなもんか。今どきホームページの運営を社内サーバオンプレミスではやらないよなぁ……ほら、このIPアドレスはクラウドのそれじゃなねーか。


とはいえ、社内の重要な情報をクラウドで管理してたりしないかなぁ……取引先とのやり取りでセキュリティのゆるいファイル共有サービス使ってたりしないか?


この会社の通信を解析したい……が、そんな物理的なスキルはないので却下だ。


ゴミ箱を漁ったら間違って捨てたUSBメモリとか転がってないかな……が、そんな物理的な接触は他部署の仕事だ。


隣のビルから望遠鏡で中の人のPCの画面のぞく……これも他部署の仕事だな。


夜のお店に行けばターゲットの偉い人が店員相手にべらべらと機密情報を喋っていたり……これも他部署の仕事……




あれ、俺、会社のホームページ見るくらいしかできなくね?おい、ざけんじゃねえぞ。使えねえな俺!


その時、


PING PONG!ピンポン!


玄関のチャイムが鳴った。くくくっ。ついに来たようだな。


配達員「ピザの出前でーす」

アリマ「よく来たな。いくらだ」


配達員「2200円です」

アリマ「このクーポンは使えるか?」


配達員「はい、大丈夫です。毎度あり!」



…………



もぐもぐくちゃくちゃ


気づけば俺はピザを食べていた。あと唐揚げも。


俺は(もぐもぐ)とあるサイトの(くっちゃ)記述を(ごくごく)思い出し(げほっげほっ)ていた。「バタフライエフェクト」という言葉がある。ある場所で蝶が羽ばたくと、地球の反対側でハリケーンが(もぐもぐ……ん!?)発生す……(げほっげほっ)る的な言葉だっ(ぐはー)たと思う。


……げほっげほっ。……こほん。


この理論を応用した作戦はこうだ。俺はパソコンでターゲットのホームページを開く。そして「情報漏洩しろ」と毎日つぶやくのだ。そうすればバタフライエフェクトによってターゲットの重役が俺に機密情報を添付したメールを誤送信するはずだ。


だが行動の前にこの理論を検証する必要がある。


俺は俺の大好きなアイドルのツイッターを見ながら「愛してる」をつぶやいてみることにした。


アリマ「あ……あいしてる」


俺の理論が正しければ24時間以内にダイレクトメッセージが俺のアカウント宛に誤送信されるはずだ。



PING PONG!ピンポン!


配達員「すいません。Amezonでーす」


アリマ「はぁっ!?」



俺は何かとんでもないものを誤送信されたのではないだろうか。



アリマ「俺は何も頼んだ覚えがな……」


配達員「『ドキドキ!?ブレークエンジェルちゃん抱き枕』お届けに上がりましたーっ!」


アリマ「あーっ!あーっ!」


慌てて大声で配達員の声をかき消す俺。大声で商品名呼ぶな−っ!先週注文したやつだ。俺もたまにはオタクらしいグッズが欲しいと思って、思いっきりモフモフしようと思って、盛大に勇気を振り絞って通販サイトにお届け先個人情報を登録していいのかどうか3日くらい悩みながらやっとの思いで注文した、それはもう超絶かわいいブレークエンジェルちゃんの抱き枕……


配達員「サインお願いしまーっす」

アリマ「……あ、はい…………さっきのわざとだろ?」


配達員「え?いえ、弊社の規定でそうするように決まっております。笑顔と元気が当社のモットーですから!」

アリマ「まるでブラック企業だな」


配達員「ええ、まあ」


くっ、Amezonめ。ヘンテコな配送会社使いやがって。



私「わー、その抱き枕のイラスト可愛いですね。『魔法少女フォールトエンジェルちゃん』のライバルのブレークエンジェルちゃんですよね」


!?


アリマ「だ、誰だ!!!」


そこに立っていたのは同じマンションに住んでいる女だった……今、凄まじく俺の機密情報が漏洩しまくっている気がする。


こ、こんなはずではなかった。


俺はクールな超絶ハッカーで、人々から現代のルパンみたいな扱いをされるべき逸材だと言うのに!!!!!!


畜生。俺はサイバー攻撃なんか微塵も受けてない。物理アタックを受けたわけでもない。ただの偶然!事故!それらが積み重なって、俺がアニメキャラの抱き枕でモフモフしようとしてることがご近所さんにバレてしまうなんて。



目の前の女はどことなくニヤニヤしている気がする。きっと内心で俺のこと残念な奴だと思ってるに違いない。どうすればいい……俺の名誉のために何ができる?




アリマ「おい。名誉を卍解するチャンスをくれ」


私「へっ?」



アリマ「俺がクールな美青年だってところアピールさせてください!このとーり!」


私「あの、すいません。いきなりそんなこと言われても困ります。別にツイッターで言いふらしたり、インスタグラムで現場写真を拡散したりするわけじゃないので、そんな大げさに考えなくてもいいかと」


アリマ「でも会社の同僚とかお友達にはお話するでしょう!?」


私「ええ、まあ」



そこは否定しろーっ!!!!!!!



私「さ、最近はやりのアニメじゃないですか。大丈夫。キモくないですよ!素敵な趣味だと思います(汗)」


アリマ「……いや、俺はキモいとか言ってないからね!やっぱ客観的にキモいと思ってるんでしょ。そうですよね!だから俺は隠したかったんだ。でも俺自身はキモいなんて1ミリも思ってない!でも空気読めるから!だからこっそりモフろうとしただけなんだ!」


私「(め、めんどくさい……)」


配達員「あの、サインもらっていいすかね?」


私「ファンの方ですか?」


配達員「ナイスジョーク!」

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