第25話 bless(ブレス)

ミフネ「何でも一人で思ってるだけじゃ不安になるの。だから言葉や行動にしてそれを表現してこの世界に問いかけるのだわ。問いかけには然るべき結果が返ってくる。でも世界から返ってくる結果というものは時々ウソをつく。だから私はこう言うの。本当に問いかけているのは自分自身に対してだと。そうすることで全てを受け容れられる。全てを納得できると思うから」


私「何それ、ナイチンゲール?」


ミフネ「ちっがーう!スミっち!最近、私に対する態度がいいかげんすぎるのだわ。もっと敬意をもって接して欲しいのだわ」


ここは株式会社ミドリカワエンタープライズ。昼休みの貴重な時間はもっと有意義に過ごしたい。


私「昼寝したいんだけど」


ミフネ「私の話を聞くのだわーーーー」


私「ぐこーぐこー」


ミフネ「こらぁ寝たふりしちゃだめ!」


私「私の眠りを妨げるのは誰かしら」


ミフネ「はいはい!私かしら私かしらー!」



私「すごく懐かしい夢を見ていたわ」


ミフネ「そんなことより今日の天気午後から雨だってマジ最悪なのだわ!」



私「昔々、ミフネさんていう元気の良い人が居てね」


ミフネ「過去の人にしないで!」



私「んもー。なんなのいったい」


ミフネ「だーかーらー、今夜飲みに行くのだわ」


私「えーまたー?」


ミフネ「じゃあ食べに行くのだわ」


私「大差ないし」


ミフネ「じゃあプールがいいの?」


私「そういう選択肢を持ってるミフネさんを尊敬する」


ミフネ「でしょでしょ!」


あ、しまった。敬意を示してしまった。敗北だ。



ミフネ「ふっふーん♪今この瞬間、スミっちに敬愛されるミフネちゃんが現実のものとしてこの世に降臨したのだわ!」



私「くっ、不覚」



その時、コンドーが席を立ち、私とミフネの元へとやってきた。かつて許嫁だなんだと言ってただけあって、未だになんとなく意識して目をそらしてしまう……


コンドー「あーミフネさん。こないだ話のあった加湿器の購入に関して、稟議が通りましたので明日には届きます」


ミフネ「やったー。これでうるおいもバッチリなのだわ」


なんかミフネの思うままに事が運んでいるように思えてきた。


こうして見るとミフネは人の協力を得て何かを実現させるのがうまいように見える。自分が言ったことを人に説明する、承認させる、そういうのに長けているのだろうか。


キシダ「perl っていうプログラミング言語に bless っていうメソッドがあるんですよ」


私「ぬおっ!?」


突然キシダさんが割って入ってきたので驚いた。


キシダ「変数をblessするとオブジェクトとして扱われるようになります。オブジェクトはシステムの一部として扱われる。つまり、システムの機能を利用することができるようになるわけです」


私「別に普通の変数でもシステムの一部として動けるはずでは?」


キシダ「そういうシステムもありますね。ただここでいうシステムとは、オブジェクト指向で設計された全体を指します」


私「はぁ……」


コンドー「もっと簡単に考えたらいいよ。例えば婚姻届を出すと、社会から結婚したと認められて、夫婦としてふるまうことを許されたり、夫婦だけの制度を使えるようになる。みたいな話だよ」


私「はぁ?」


コンドー「で、キシダさんは何か欲しいものがあるの?」


キシダ「……もっと腰の痛くならない椅子がほしい…………です……」


コンドー「じゃあどんなのが欲しいか教えて。あと見積もりもね。稟議上げるから」


キシダ「前回もそう言って相見積もりも必要だから安いところ探せって言われたあたりで炎上案件ぶっこまれてうやむやになった気がしますね」


コンドー「むむむ……ガンガン欲しいものを要求できる人とできない人の差は確かにありますけど、要求はしてもらわないことには対処のしようがないというか……」


キシダ「それはわかりますけど、実際に欲しい商品を選んで安いところ探して……ってやったら、上からこっちの安い商品じゃダメなの?とか言われて最初からやり直しだし、やってられないですよ」


コンドー「それは申し訳ない。じゃあミフネさん、キシダさんに何か椅子を見繕ってもらえませんか?」


ミフネ「それはつまりここの全員に王侯貴族が座るような玉座を用意しろってことかしら?だったら手加減しないのだわ!」


コンドー「……ちょっと上と相談して予算付けてもらってくるわ」


…………


コンドー「ダメでした!壊れてもないのに新しいの買えないってさ」


キシダ「仕方ない。腰痛を理由に休暇とりまくるか」


ミフネ「うはwwww私もだんだん腰が痛くなってきた気がするのだわww」


うっ、私も腰が痛くなりそう。


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