第20話 道しるべは霧にかすむ(2)

今を遡ること4年前。ここは株式会社ミドリカワエンタープライズ。とあるビルの二階全体のフロアを借り切って、50人程度の従業員が机を並べてパソコンの画面とにらめっこしている。


コンドー「クロシマ。ファイルの読み書きとPUSH通知したいからマニフェストの設定よろ」


クロシマ「あれ?こないだ設定してなかったっけ……ああ、してるしてる。git更新してみて」


コンドー「あ、そうなの?……ああ、開発ブランチの方ね。ピックしとく」


クロシマとコンドーが他愛もないやり取りをしていると、突然課長がやってきた。



課長「ごほん。今度、ガフメレアの子を中途採用することになったから、コンドー君のところで面倒見てもらえるかな?今の仕事の見習いをさせる感じで」


コンドー「ガフメレアってWeb寄りの会社ですよね。実際どんなスキルの方なんですか?」


課長「よくわからんが、彼女はキーボードを打つのが得意だそうだ」


コンドー「えっ」


課長「ていうかまだ内定出してないし、最終面談もやってない」


コンドー「おい、おっさん」


課長「だからそのへんよろしく」


コンドー「どういうことですかーっ!」


…………


そして次の日。噂のガフメレアの人がやってきた。



ミフネ「はーい!ハロー!ハロー!エブリワーン!私が世界のミフネちゃんでーっす!気合い入れて最終面接受けに来たのだわっ!キリッ!」


コンドー「申し訳ありません。もう少し真面目にお願いできますか?」


ミフネ「あ、はい。すいません。課長さんにアイドルっぽく登場してくださいって言われたもので。空気読めなくてごめんなさい(どよーん)。あの、一応、私、アイドル枠でってことで課長さんに今日の面接を案内されたんですけれども……」


コンドー「(あのクソ課長め……)ああっ!なんだ!そうだったんですか!いやーこれはこれは失礼いたしました!少し行き違いがあったみたいです!いや面接の方は大丈夫ですよほんとに。課長の方からきちんと引き継いでますから……このクロシマが」


クロシマ「えっ」


ミフネ「あ、ホントですかっ!じゃあアイドルモードでもう一回挨拶からやり直させて頂いても?」


コンドー「ええ、ぜひお願いします。そのためにわざわざおいで頂いたのですから!というわけでクロシマ君。後は任せた」


クロシマ「(あ、逃げた……)かしこまりました。ミフネさん、こちらです」


クロシマはミフネを会議室に通すと、お茶を他の社員に頼んで、ミフネの前に座った。さっきコンドーからさり気なく渡された書類にさっと目を通す。


ミフネ「…………ごめんなさい。なんか恥ずかしくなってきたので、アイドルとか抜きで普通に面接お願いします///」


クロシマ「あ、はい。かまいませんよ」


彼女の名前はミフネ。株式会社ガフメレア。インターネット広告の会社だ。独自のアフィリエイトプログラムを展開しており、スマホやWebサイトに広告を埋め込むための仕組みを提供している。


クロシマ「履歴書の方、拝見させていただきました。すいません。特技の欄に『アルティメット・ライトニング・エンター』とありますが、これは一体どういったものか教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


ミフネ「必殺技なのだわ」


クロシマ「ええ、そうかとは思いましたが、具体的にはどういう?」


ミフネ「月が闇を覆う時、天地創造の息吹は人類を滅ぼす禁断の戦いの序章となるのだわ。そして人類最後の決断の時に押すボタンはもちろんエンターキーなのだわ」


クロシマ「序章からいきなり最後の決断とはヘビーですね」


ミフネ「もーうっ!そこはどうでも良いのだわ」


クロシマ「いいんですか」


ミフネ「いいの!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る