第19話 道しるべは霧にかすむ(1)

さかのぼること10年前。クロシマは株式会社ミドリカワエンタープライズに入社した。卒業制作のシューティングゲームの評価が高く、そのプログラミングスキルが買われての入社だった。少なくともクロシマ自身は自分のスキルに自信を持っていた。


当時はC++シープラプラと呼ばれるプログラミング言語が注目されており、その言語がサポートするオブジェクト指向という考え方がソフトウェア開発において革新をもたらすムーブメントであると誰もが信じていた。


クロシマも学生時代はC++を駆使し、WindowsのAPIエーピーアイDirectXダイレクトエックスを学び、いくつも失敗作を作りながら、ついにシューティングゲームを作るに至り、就職活動においてもそのクオリティが表向き評価されていた。


しかし入社直後に言い渡された仕事は、自らが研鑽したスキルを発揮できる場所であるとは言い難かった。3ヶ月の研修。社会人としてのお辞儀の仕方、電話応対、来客応対、名刺の渡し方、コピーのとり方。美味しいランチが食べられる店の把握。etc, etc...


何年も卒業制作一本で勝負してきた……わけでもないが、それでも学生時代の大半を捧げてきたプログラミングスキルを活かしきれないのは不満だった。


クロシマ「先輩。名簿の整理終わりました!次は何をしたらいいですかっ?」


先輩「ああ、じゃあゴミ箱のゴミ集めといて。今日ゴミの日だから。あと課長のパソコンでエクセルがうまく開けないみたいだからちょっと見といてくれる?」


クロシマ「あ、はい……」


研修後もクロシマにとって興味の無い仕事ばかり振られる、そんな日々がしばらく続いた頃、JavaジャバObjective-Cオブジェクティブシーによるスマホアプリ作成の部署に異動となる。


コンドー「クロシマさんですね!コンドーです。よろしく。Javaとかやったことありますか?」


クロシマ「自分はJavaは初めてですけど、C++をやっていたのでオブジェクト指向とかは全然いけます!」


コンドー「OK。PCはありますね?こちら開発用のスマホになります」


クロシマ「はい!」


コンドー「まずはこのマニュアルに従ってEclipseエクリプスAndroid SDKアンドロイドエスディーケー入れてください。そしてサンプルプログラムをスマホにインストールして実行してみて」


クロシマ「了解です!」



カチカチッ カタカタ カチッカチッ



クロシマ「……すいません。開発用のPCが遅いです」


コンドー「……ごめんね」


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