第14話 本当の気持ちを伝えるインタフェース

ミフネ「スミカぁーーーー聞いて欲しいのだわ。コンドーにフラれたのだわ。だから今晩ごちそうしてーーーーー優しくなぐさめてほしいのぉ!」


私が出社して早々、ミフネが駆け込んできた。金髪碧眼きんぱつへきがんの彼女はモテるが、なぜか長続きしないようだ。


私「へぇ、コンドーがミフネをフッたの?」


ミフネ「コンドーってば、毎晩『僕は幸せだ』とか『キミは素晴らしい人だ』とか言ってくるのよぉ。だから言ってやったのだわ。『はぁ?白々しいよバカぁっ!もっと他に言う事あるでしょう!』って。そしたらコンドーの顔色がみるみる変わっちゃってさあ、別れようとか言いだしたのよぉ!」


私「はぁ。ミフネさんは何て言われたかったんですか?」


ミフネ「そりゃもちろん、『ミフネちゃん今日もかわいいね(はあと)』って……///」


私「……」


ミフネ「うわーーーーーーん!ごちそう!肉!酒!」


私「はいはいわかりましたから、そこのファミレスでいいですか?」


ミフネ「……おほん。スミカさん。適当なこと言わないで欲しいのだわ。VIP待遇を要求します」


めんどくさいVIPだわ……


ミフネ「仕方ないわね。私がおしゃれなレストランに連れて行ってあげるのだわ」


私「はぁ」


……


そんなこんなでその夜。私はミフネに連れられてとあるレストランに来ていた。


ウエイター「いらっしゃいませ、ミフネ様ですね。お待ちしておりました」


!?


なぜか予約済み。なぜか通された4人がけの四角いテーブル、白いテーブルクロス付きのそれには男の人が二人座っている。私はこういう状況を知っている。合コンとかいうアレではないかっ!


ミフネ「この子は同僚のスミカちゃん。だまくらかして連れてきちゃった♪スミカちゃんこちら私の飲み仲間のカシモトさん、ユウキさんです」


私「え、あ、はじめまして(おどおど)」


カシモト「はじめまして。まあ見ての通り合コンぽい何かなんだけど、ミフネさんはこんなだし、楽しく飲んで、食べるだけでぜんぜんおっけーだから!ほんと!ぜんぜんおっけーだよ!」


ミフネ「ちょっとちょっと!『こんな』ってなに!」


カシモト「かわいいから見てるだけで楽しいって意味だよ!」



ユウキ「ちょっ、おまwそんな恥ずかしいセリフwww」


ミフネ「きゃはww」


微妙に場のノリについていけない私はぽかーんとしていた。その横でウエイターが各自のワイングラスに赤ワインを注いでいる。


カシモト「じゃあ、かんぱーい!」


ガチャッ!ゴチャッ!


胸の高さまで上げたグラスに他の人のグラスがガツガツ当たる。


カシモト「スミっちはプログラマなの?C言語とかバリバリ書いちゃう系?」


スミっち……いきなり馴れ馴れしいやつだ……


私「Cもわからなくは無いですけど、真面目にプログラム書いたことはないかな……」


ミフネ「そんなことより、今度出る新作のキーボードが気になるのだけど、"買い"かな?買いよね!ねっ!ライトが青くてチョーきれいなのだわ!」


ユウキ「この枝豆チョーうめぇwwww」


私「キーボードなんていくつあっても仕方ないんじゃ……」


カシモト「スミっちわかる!わかるよその気持ち!でも、彼女には金髪碧眼の打ち手として避けられない戦いがあるんだ!!」


ミフネ「そうよスミカ。キーボードは心で打つのよ」


私「いや、指で打ちなさいよ」


カシモト「スミっち、きびしぃぃぃっ!www」


ミフネ「ぐすん……スミカがいじめるのだわぁぁ」


ユウキ「お姉さん!イカリングまだぁ?」


すごいハイテンション。これがお酒を飲んではしゃぐということなんだろうか。私は大人になってから……というより、就職活動をしてた頃から他人と接するときは大人らしく振る舞うことだけ考えてたから、こういう場でどういう風に人と接していけばいいのか、今ひとつ掴めないままでいた。今も例外なく戸惑っている。


酒の席だからって自分の言いたいこと言うだけはなんか違うと思うし、ミフネだってめちゃくちゃ言ってるように見えて、自分だけが延々と喋り続けることもない。


でも私は別に言いたいことがあるわけでもない。なんかこの場にいることがきゅうくつで、もどかしくて、煮えきらなくて、もやもやしていると、ユウキが話しかけてきた。


ユウキ「もしかしてこういうの初めてですか?」


私「あ、いえ、初めてってわけじゃないですけど。よくわからなくて」


ユウキ「ああ、そうなんだ。空気が読めないとか?」


私「はぁ、、ええ、まぁ……」


ユウキ「ミフネさんみたいになりたいの?」


私「ええーそれはちょっと……」


ユウキ「はははっ!」


ユウキはヒザをぽんっと叩きながら笑いだした。


ユウキ「スミカさんの話を聞かせてよ。うーんとそうだなぁ、このカシモトって男はミフネに惚れてるんだけどさぁ……」


カシモト「おい、ユウキ!お前何言ってんだよ」


ミフネ「えーなにそれ初耳ぃー。私のどこに惚れたの?教えて欲しいのだわ!」


カシモト「……金髪碧眼のくせに中途半端なキーボードオタクなところ///」


照れてる…………


ミフネ「中途半端ってひどいのだわ!バカぁっ!それに”金髪碧眼のくせに”ってどういう意味よぉ!」


カシモト「いや別にけなすつもりは(汗)」


ミフネ「バカっ!バカバカぁっ!」


ミフネがカシモトをポカポカ叩きだした。


カシモト「ユウキ助けてー」


ユウキ「今のはカシモトが悪い」


……


ユウキ「で、スミカさん。好きな人とかいるの?」


私「はへっ!?」


ユウキ「スミカさんの話を聞きたいって言ったじゃん」


私「いや……そんな……」


ミフネ「私が代わりに言ってあげよーかー?」


私「やめてください!」


ユウキ「どうして?恥ずかしい?」


私「う……はい」


ユウキ「それが聞けただけでも今日は収穫があったというものです」


カシモト「お前意味わかんねwww」


私も意味が分からないが、「恥ずかしい?」という問いかけに「はい」と答えたことは、これまでの会話の中で一番素直な言葉だったと思えた。同時に、胸の中でつかえていたものが取れるような快感をわずかだが感じていた。


ミフネ「むむーっ!ユウキさん。私にも聞いて欲しいのだわ!」


ユウキ「ははっ。ミフネさんの好きな人は誰ですか?」


ミフネ「えっとねー、イケメンでかっこいい人が好き!」


ユウキ「ホントのところは?」


ミフネ「えー!ホントなのだわ!」


ユウキ「くすくす。今日はそういう事にしておいてあげます」


カシモト「俺が毎日使ってる洗顔料、500円もするんだぜ。すごいだろ?」


ユウキ「……カシモトのそういう所、嫌いじゃないよ」


ユウキの顔にはどことなく悲しそうな空気が漂っていた。




……どうでもいいか。店員を見つけると私は手を振った。


私「すいません。この『カシスオレンジ』っていうのください」


もう少しだけ素直な自分を出してみることにチャレンジしようと思った。

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