第13話 あなたはあなたのままでいて

私のスマホがピコーンと鳴った。友人でもあり同僚のアマネがLINEでメッセージを送ってきたみたい。


アマネ「スミっちげんき?」


もっとも、美少女天才プログラマたる私たちの通信手段というものはLINEだけなんてことはなくて、相手によってメールかSMSショートメールだけとか、Skypeでって言う子とか様々。そのたびに新しいアイコンが私の画面に増えていく。


私「うん、元気だよ」


アマネ「さて、わたしはこうして文字だけでスミっちに話かけてるわけだけど、本当にわたしはアマネ氏でしょうか。スミカ氏の見解を聞きたいな」


私「どうしたの突然?私のLINEはアマネちゃんだって言ってるよ?」


同姓同名の登録は無いし、画面には名前と見慣れたアイコンが表示されている。


アマネ「他の誰かがわたしのスマホを拾って本人のフリしてるかもしれないじゃん?」


私「確かにそうね。本物のアマネちゃんなら、私のこと『スミカ様、ごきげんうるわしゅうございます』って言って執事コスプレでお辞儀してる写真を付け加えてくるはず。ほら、はやく」


アマネ「ないわwていうか今ヒマ?ランチ食べに行こうよ」


・・・


というわけで、繁華街でアマネとランチを食べることになったのだ。いつものデパートの前で待ち合わせ。休日ということもあり人通りは多い。時計をチラチラ見ながら待っていると、通りの向こうからアマネが歩いてきた。


アマネ「ちわーっす、どこ行く?」


私「チキン食べたい」


アマネ「よっしゃ、いくべいくべ」


とある雑居ビルにオシャレな日替わりランチの店があるのだが、ここのランチはだいたい鶏肉を揚げたものがメインに来る。


ビルの階段を上り、扉を開けると「ちりんちりん」と鈴が鳴る。


ウエイトレス「いらっしゃいませ。2名様ですね。こちらへどうぞ」


奥の窓際の席に案内された。二人掛けのテーブルに白いテーブルクロス。木の椅子に座り、窓から街の様子を眺める。


私「この街を行き交う人の流れは血液のようなもの。全ては私の皿にチキンを運ぶための脈動なのよ」


よし、こんど裏アカでつぶやくネタはこれにしよう。


アマネ「何やってんだか」


ウエイトレスが定食を乗せたお盆を2つ持ってきた。


ウエイトレス「お待たせしました……」


私「私がチキンの定食です」


ウエイトレス「ありがとうございますー」


ウエイトレスはさっていった。



アマネ「思ったけどさぁ。もし、わたしが『チキンよこせ』って言ってたら確実にわたしのものになってたわね。だって誰が何注文したのかわかんなくなってるんだもん」


私「注文するときに一人ずつIDを発行されたわけでもないからね。レストランを運営するにおいてはテーブル番号さえわかれば十分なのよ」


アマネ「そのユルい感じいいわw」



そんなことよりチキン、チキン。


大きくて白い皿の地平にそびえたつサラダの山のふもとに巨大なチキンが鎮座している。早速、ナイフとフォークをカチャカチャさせながらチキンを切る。もぐもぐ。斬る。ほぐほぐ。


アマネ「そうね。そのチキンはスミカのものよ。私のものではないのでしょうね」


私「ああん?(ふがふが)」


アマネ「貴方は貴方のままでいて。私はこのスパゲティでお腹いっぱいだわ」



私「(ごくん)。。。ごめん、意味わかんない」


アマネ「貴方の事かわいいって言ってあげてるのよ」


私「そんな当然のこと言われなくてもわかってるわ///」


アマネ「照れちゃってもうw」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る