第37話「奪還作戦①」

 メルに導かれるように、タケルとローグは小麦畑にある不自然な一本道を走り抜ける。

 あれから、降っていた小雨の勢いが更に強くなったいた。

 三人は既に全身がびしょ濡れだが、気にしている暇は無い。


 そうして一本道を走り抜けた先に一つの家があった。

 メルはそこで立ち止まり、二人も急ブレーキをかける。


「メル、リリアはどこなんだ?」


 タケルは息を整えながら、メルに問いかける。


「これ以上は分かりません。じぃじが二人をこの道に呼んで来いって言われてたので」


 ローグは目の前に見える一軒家の家を見つめていた。


「おい、あの家の玄関、開いてねぇか?」


 ローグに言われ、タケルとメルも目を細めて見る。


「ほんとですね……さすがです、ローグさん」

「って事はあそこにリリアやじぃさんが!?」

「分からない、ただの空き家かもしれない。とりあえず外の窓から中の様子を伺うぞ」


 ローグはそう言って、足早に庭に侵入して行った。

 二人もローグの後を追いかける。


 窓際に近づいてローグは中腰の姿勢になる。

 そっと、中を覗き見る。

 不幸な事に横雨がガラス窓に当たって結露をおこし、普段よりも見えにくい。

 ローグはじっと鋭い目をより細めていく。


「いた!!」


 ローグは後ろにいた二人にひそひそ声でそう告げた。


「ほんとか!?」

「ほんとですか!?」


 タケルとメルも興味津々の様子で、ローグを追い抜いて中を覗こうとする。


「馬鹿、前に出るな、敵にばれるだろ!」

「委員長、何でばれたらダメなんだ?」


 タケルは何故なんだとばかりに不思議なそうな顔をしている。


「リリアの他にも誰かいる」

「え?」


 タケルは驚いた様子だったが「でもじぃさんも先に向かったんだろ、メル?」とメルに質問を投げかけた。


「はい。それに私とじぃじも本当にリリアさんが攫われたかは分からないんです。

 実際にその現場はみてませんから。可能性は高いというだけで……」


 ローグが後ろの二人に、片手を伸ばして静止するように会話を止めさせる。

 数秒後、ローグの背中がビクッと動いた。


「中で血を流しながら倒れている人が多分……ローズヴェルトさんだ……」


 普段表情をあまり変えないローグだったが、今は奥歯を噛み締めながらしかめ面をしている。


『え!?』


 二人は声を同時に上げた。


「まずいな……。変な貴族みたいな奴にリリアが襲われようとしている」


 タケルはそれを聞いた途端、玄関の方に向かおうとする。

 ローグは声を押し殺しつつ、タケルの腕を掴んだ。


「待て、今お前が行ってもリリアを人質に取られるだけだ!」

「でも、もう正面突破しかねぇだろ?」


 呼び止められたタケルは焦った様子だった。


「落ち着け、今正面から挑んでも人質に取られたリリアが殺されるか、お前が何も出来ないままリリアが攫われるか、それだけだ」


 タケルはやるせない気持ちを我慢するように強く地面を蹴った。


 その時、「くっしゅん!!」と可愛らしい声が近くで聞こえた。


 くしゃみの正体は後ろにいたメルだった。

 さっきまでどうやってリリアを助けるかで、頭の一杯だった二人は気付かなかったが、後ろでメルは肩から小刻みに震えていた。

 それもそのはずでこの雨の中ずっと濡れている状態なのだから。


「大丈夫か?」


 ローグはメルに珍しく喋りかけた。


「は、はい!! 心配してくれてありがとうございます、ローグさん」

「そうか、ならいい」


 メルは顔を赤らめながら三つ編みお下げを詰った。


「すいません、でも、私どう考えても足手まといですよね……」


 ローグはそう言うメルを黙って見ていた。

 その時タケルがメルのに近づき肩に手を置いた。


「何言ってんだメル。お前がここまで案内してくれなかったら、俺達はリリアが攫われた事すら知らないままだったんだ。それだけで大仕事だぜ!」


 タケルは二ッとした笑顔を見せた。


「は、はい。そう言って頂けると嬉しいです」


 励まされたメルの元気も少し戻ったようだった。


「でもな~流石にこんなけ雨振られたら、俺の炎も威力半減だぜ」


 ローグは左手を顎に置いて、考え込んでいた。

 もちろんタケルのボヤキなど、右からの左に聞き流すつもりだったが。


「雨、炎……」


 じっと空を見上げる。

 ローグの額に無数の雨が降り注ぐ。

 落ちた雫は容赦なく身体中へと流れていく。


 必然的に三人の体温も着々と下がりつつあった時。

 ローグはふと、ある事に気が付いた。


「……はっ、もしかして!?」


 ローグは再び家の中を覗き込む。

 二人もローグの行動に気が付き、首を傾げる。

 そしていきなりその場を離れて庭の反対側に向かって行った。


「お前達はここにいろ!」

「おい、どこに!?」

「ローグさん!?」


 ローグは一分くらいですぐに戻って来た。

 先程よりどこか表情に活気が戻っているように二人には感じた。


「行ける!」

「おい、委員長。雨に打たれすぎてついに頭でもおかしくなったのか?」

「いい作戦を思いついた」


 自信あり気に話すローグを二人は不思議そうに見つめていた。


 ーーー



 現在、タケルは雨に打たれながら、家の壁をよじ登っていた。

 屋根から突き出る煙突を目指して。

 家は煉瓦レンガが交互に重ねて建築されており、幸いな事に凹凸が結構あって足が引っかかりやすい。


 しかし、今は雨が降っており滑りやすくなっているので、一段一段ゆっくりとよじ登っていく。

 更にタケルの背中にはまきが数十本と木剣が結び付けられていた。


「タケルさーん、もっと早く登れって、ローグさんが!!」


 タケルの真下で声を出来るだけ押し殺しながら、声を掛けてくるのはメルだった。


「あー? ふざけんな! 落ちたらどうすんだよ!」


 __あのクソ委員長覚えてろよ、この作戦が終わったら絶対ぶっ殺す。

 とタケルは半ギレしながらペースを上げていく。


 少しでも安定しそうな、凹凸に手をかけようとした時、ボロッと煉瓦の一部が崩れた。

 タケルは慌てて別の凹凸に手をかける。

 欠けた煉瓦は地面に落ちていったが、メルに当たる事は無かった。


「あっぶね~。死ぬかと思った」


 タケルは一度、下を見た。

 地面から七メートル程は登ってきたみたいで、下にいたはずのメルがだいぶ小さく見える。

 身体に妙な緊張が走り、力が入る。


「まぁ、煙突まで後少しだ、待ってろよリリア!」


 タケルが何故この様な状況になったかと言うと、これはローグが発案した“奪還作戦”の為だった……

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