第33話「小麦畑での決闘」
すっかり三人も収穫作業に慣れ、仕事のペースもかなり早くなった。
夜にはメルやベル、ローズヴェルトと一緒に、クレア叔母さんが作ってくれた食事を食べ、各自、日々の鍛錬は欠かさず行う。
三人のインターンシップは思いの外、充実していた。
そうして、インターンシップが始まって一週間が経った夜の事。
リリアは、食事を終え、庭でいつもの素振りから始めていた。
基本の型はここ数カ月で染み付いた。
剣を持つ感覚を肌に覚えさせておけ、と剣聖科の生徒は日頃から口酸っぱく言われているからかもしれない。
そして、何より大事なのは“魔気”を使う事。
魔気は使えば使う程、質が上がっていくと言われている。
最近の実技では、魔気を使って放出や変化など様々な事を授業で教えてくれる事が多くなった。
だか、リリアは自分の魔気をどう使えばいいのか、正直な所、まだいまいち分からなかった。
「ハッ、ハッ!!」
「あ、今日もやってるんですね、リリアさん」
「メルちゃん」
「毎日欠かさずなんて、偉いですね~」
メルはリリアにミニタオルを渡してあげる。
「ありがとう、でも、これくらい皆やってるよ?」
「えっ!? あのタケルさんも?」
「う、うん……多分。なんでか毎日外に出かけるけど……」
「何でなんですか?」
「なんか、一人で集中したいから別の場所行ってくる、とか言ってすぐどっかに言っちゃうの。ホントに鍛錬してるのかな、あのバカ」
メルは困った風に話すリリアを見てニヤッとした。
「もしかして……寂しいんですか?」
「はっ!?な、何言ってるのメルちゃん?」
「嫌、なんかですねーここ一週間くらいリリアさんを観察していたんですけどね、そうなのかなって」
「な、何言ってるのかな……メルちゃんは」
リリアは疑わしそうに言い寄ってくるメルに、苦笑いをした。
「いいんですよ、リリアさん、隠さなくても。いつもタケルさんには厳しいリリアさんですけど、目の奥は常に乙女……」
「ち、違うから!! メルちゃん勘違いしすぎ!!」
「あれ、そうなんですかー? てっきりそうなかなーっと。
私なんか、リリアさん達が来てからもう一週間も経つって言うのに、まだ全然ローグさんとお喋り出来なくて……」
メルは大きくため息をついた。
「アハハ……。ローグも毎日仕事が終わったらご飯食べて、すぐに外へ行っちゃうもんね……」
「そうなんですよ……。あ、ごめんなさい話し込んじゃって、、稽古続けて下さい」
「全然、大丈夫だよ。ありがとね」
リリアは笑顔でそう言って、素振りを再開した。
「リリアさん……あのっ!!」
突然、呼ばれたメルに振りかえるリリア。
「どうしたのメルちゃん!?」
「その……一つ気になる事があって……」
「気になる事……?」
「はい。最近、ローグさんが、怪我してるんじゃないかって思うんです」
「怪我……本当に?」
「私、毎日ローグさんを観察してるので……。
最近のローグさんの歩き方、ちょっと違和感ありませんか?」
リリアは一緒に仕事していたが、全く気が付かなかった。
「そ、そうだったかな……アハハ。全然知らなかったよ……。
今度会った時、聞いてみるね」
「はい、お願いします……。
もし怪我してるなら、私が診てあげなくちゃ!!」
「そ、そうだね……。きっとローグも喜ぶよ……」
リリアは苦笑いしながら、素振りを再開する。
「リリアさん……あのっ!!」
「今度は何!?」
流石のリリアも強めに突っ込んでしまった。
「私に……その、剣術を教えてくれませんか!?」
「え……?えぇぇぇぇええええええ!?」
「私もリリアさんみたいな美人で素敵な、強い女性になりたいんですっ!!
あと、胸も大きいし……」
リリアは唖然と、頭を下げるメルを見つめる。
「ち、ちょっと、落ち着こうよメルちゃん。どうしたの急に」
メルは何故か恥ずかしそうにお下げを詰りだした。
「タケルさんも強くて私達を護ってくれたけど、ローグさんもきっと強い剣士さんだと思うんです。
で、私考えたんです、好みの女性はどっちかっていうと強い女性の方が好みなのかな~って思ったんです!!」
言っちゃった、とメルは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そんなメルを見つめ、リリアは大きなため息をついた。
「そ、そうね……。でもきっとか弱い女性もありだと思うよ……私は……」
「そうですか!?なんでそう思うんですかリリアさん!?」
食い気味に質問されるメルに困り果てている時、居間からローズヴェルトが顔を出した。
「リリア。なんか小麦畑の方で、馬鹿二人が夜な夜なアホな事しとるけどあれ、ほっておいていいのか?」
「え?」
リリアはその場で考えた。
馬鹿二人。
二秒後。
タケルとローグが思いつく。
三秒後。
メルがローグが怪我してるという。
四秒後。
インターンシップに来てから、毎日二人は外で鍛錬する。
五秒後。
シバク。
「ローズヴェルトさん、それってどの辺……」
「東の方じゃ、ここからだと走って六~七分くらいで辿り着く」
「ありがとうございます。行ってきます!」
リリアは木剣を握りしめ、夜の小麦畑走って行った。
「わ、私も付いてく!!」
メルもリリアを追いかける様に走って行った。
「メル!お前はここに残っ……ったく、ワシも行くか……」
メルは呼び止めを聞く間も無く飛び出し、孫の後を追うようにローズヴェルトもゆっくりと歩いて行った。
ーーー
「ハァハァ。よし、これで十勝九敗二分け……俺の方が強い」
「黙れ、俺が十勝九敗二分けだ……勘違いするな、馬鹿」
タケルとローグは、今日も誰もいない夜の小麦畑で決闘を行う。
月の明かりだけが、唯一の便りと言ってもいい。
お互いフラフラになりながら木剣を握り、構え直す。
そして魔気を込める。
タケルの刀身には燃え上がる炎。
ローグの刀身には凍える氷結。
そして、幾度となく斬り合う。
最初の何日かはお互い、魔気は使わなかった。
それが二人で決めたルールだった。
剣術だけで闘うという事。
完全な実力勝負。
お互いが参ったというか、気切するまでやり合う。
だが、そのルールはあっけなく終わった。
ある日、タケルの負けが増え始めた時、タケルは魔気を使ってローグに勝った。
ローグは腹が立ったが、同時に笑った。
そうだよな、最初からそうすれば良かったんだ。と言って。
そして今に至る。
小麦畑の周りはちょうど円形の広さがあり、小麦が良い感じに二人を外部から目立たない様にさせている。
『ヴォオオオオララッ!!』
灼熱の炎と、冷気が漏れ出す氷が、お互いを認めないかのように、何度もぶつかり合う。
タケルは嬉しそうに笑い、ローグは不気味に笑う。
二人はここ数日の闘いで、お互いの弱点を分かり始めていた。
タケルはバカ。
つまり、簡単なフェイントでもすぐに引っ掛かる。
ローグは賢すぎる。
タケルの予想外な変則的攻撃に弱い。
しかし、二人には共通する事も一つあった。
“こいつだけには絶対負けたくない”ただ、それだけだった。
実戦で最も手っ取り早く強くなる方法は、実戦しか無い。
それに、お互いの実力が近いと、その効果はより向上する。
「ローグッ!!
お前、林間合宿の時、オークに、瞬殺されてたらしい、なッ!!」
「黙れ、バカ猿!!
お前も、ほとんど、同じような、者だろう、がッ!!」
二人は笑った。
お互いの顔を近づけながら鍔迫り合いをする。
ローグはタケルの力を利用して、一気に後方に下がる。
まるで、手押し相撲のように。
態勢を崩された、タケルは前のめりになり、ふらついた。
「
ローグがは地面に剣を刺した。
直後、剣先から冷気が地面に伝って、メキメキと氷の棘道がタケルに近づいていく。
タケルはすぐさま、その攻撃に対応しようと、前のめりから前転し、自分に襲っててくる氷の棘道に、逃げずに真正面に立った。
そして両手で剣をギリギリまで後方に引き、氷が自分に近づいた瞬間、剣を本気で振り下ろす。
「
タケルの刀身に込められた、ありったけの炎が、氷の棘道を溶かしていく。
やがて氷は白い煙に変わり、その場には何も無くなった。
「ちっ、なんだそのマックスなんとか。いかにも馬鹿丸出しなネーミングだな」
ローグは鼻で笑い、すかざす剣を構え、魔気を込め直す。
「お前だってかっこつけた名前して、俺に止められてやんの、だっせぇ~バーカバーカ!!」
タケルはおちょくる様に変な顔をして見せた。
「ちっ、お前本気で殺さないと馬鹿は治らなさそうだな、いや、死んでも無理か……」
そう言ってローグはタケルに斬りかかる。
「それはこっちのセリフなんだ、よッ!!」
タケルは間一髪で斬撃を交わし、すぐさま反撃に転じる。
そんな二人の攻防は、まだまだ続く。
きっと、誰かが止めない限り……
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