第32話「女子会と入浴」


 夜の十時を過ぎた頃。

 タケルとベルはリビングで遊び疲れたのか、仲良く寝てしまっていた。

 ベルはタケルの腹を枕にして寝ている。


 ローズヴェルトさんとローグも途中で何処かに行ってしまい、二人は戻って来ない。

 そんな中リリアとメルにクレア叔母さんは女子会を開いていた。

 テーブルにはクッキーと紅茶がセットされいる。


「あの、リリアさん……」


 メルは恥ずかしそうに頬を紅潮させている。

 さらに、もじもじと三つ編みのお下げを指に絡ませている。


「どうしたのメルちゃん?」

「あの……ロ、ローグさんって恋人とかいるのですか?」

「ブッ!!」


 メルのあまりに直球すぎる質問に、リリアは飲みかけた紅茶を吹きこぼしそうになる。


「ど、ど、どうしたのメルちゃん急に!?」

「あらまぁ」


 クレア叔母さんもびっくりした様子だったが、孫の成長が嬉しいのか微笑ましそうにメルを見つめていた。


「その……言葉の通りです……」


 恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にするメルは下を俯く事しか出来ない。


 リリアはとにかく頭を整理しようとした。


 その一、確かにメルちゃんも14歳というお年頃なのでそういう事もあるか。


 その二、でもメルちゃんって今日の夕食でローグに初めて会ったばかりなんだよね?


 その三、あれ、でもメルちゃんとローグが喋ってる所なんてあったかな?


 その四、え、それってつまり一目惚れ??


 頭で整理を終えたリリアは、俯いているメルを取り敢えずどうにかしなくては、と考えた。


「あの……メルちゃん?これは多分だけど、私が知ってる限りローグに恋人っていう感じの人は学園でも見かけた事ないよ?」

「えっ……!?」


 メルはその言葉を聞き、今まさに飼い主にでも救われたような子犬の目をしている。


「そ、そうなんですか!?」

「う、うん。プライベートまでは分からないけど……」


 メルの食い気味なテンションに少し気圧されるリリア。


「そっか~でも、メルちゃんはローグに恋した乙女なんだ~」

「お、お、乙女なんて……そんなこと……ありません」


 再び顔を真っ赤にするメル。


「それも気になるんだけどさ、なんでメルちゃんとベル君ってタケルの知り合いなの?」


 リリアは夕食の時から一番気になってた事を聞いてみる。

 確かに、とクレア叔母さんも興味深々な様子。


「それはですね……私達姉弟にとってタケルさんは命の恩人なんです!」

『え!?』


 リリアとクレア叔母さんは同時に唖然とした。


「どういう意味なの?」


 メルは二人になるべく詳しく当時の事を説明した。

 出会った経緯からチンピラ男から守ってくれた話まで。


 その話を聞いて、クレア叔母さんは何故自分に言ってくれなかったのか?と少し不安になったが、言えなかったのは誕生日サプライズが出来なくなるからという事だったらしい。


「でもメル。これからはどんな理由があっても、そういう危険な事があったら必ず私に報告する事ね」

「うん、クレア叔母さん。ごめんなさい」

「分かってくれたらいいのよ。それにアップルパイを作ってくれた時はとても嬉しかったんだから」


 リリアは二人の会話を聞きながら、ある疑問がふと、頭に過った。


「メルちゃんはその、命の恩人のタケルよりなんでローグが好きなの?」

「えっ……」


 突然の質問に動揺するメル。


「そ、それは、タケルさんに恩はありますが、恋愛対象ではないっていうか。ローグさんを見てると何故か胸が痛くなるんです……」


 何故か寝てる間に振られたタケルは可哀そうな事この上ない、しかし。


 リリアとクレア叔母さんは同時に同じことを思った。

 つまり、顔ね__。


「それはきっと恋だわ!メルも結構お目が高いわね~」

「クレア叔母さんまでからかわないでよ~~」


 リリアは再び頭を整理する。


 その一、メルちゃんは女の子として可愛い。うん、こうして照れてるのも可愛い。


 その二、確かにローグは顔立ちもしっかりしている。あの鋭い目付きに女子がノックアウトされるのも分からなくはない。私は無かったけど、性格は少し無口な所はあるが常識もある。


 その三、噂で結構モテると聞いた事がある。この前も医療科の女子が何人か告白してるのを見たと。結果は知らない、多分駄目だったのかな。


 その四、あのローグが女子と付き合いそうな想像が全く想像できない。ましてや年下の女の子に興味とかあるのかな?うん、分からない。


 リリアは二回目の頭の整理を終えた、ちょうどその頃、クレア叔母さんは席を立った。


「そろそろベルを部屋に運んでくるわ。

 あなた達もキリのいい所で切り上げなさいよ。

 まだお風呂にも入ってないでしょ」


 気付けば夜の十一時なろうとしていた。

 明日から本格的なインターン研修が始まるリリアも急いで席を立った。


「メルちゃん私、そろそろお風呂に入ってくるね」

「分かりました、こんな夜遅くまで付き合わせてごめんなさい」

「別に大丈夫だよ?それに、初日でこんなにメルちゃん仲良くなれたのは私も嬉しいよ。また明日も一杯お話しよ」

「リリアさん……私も嬉しいです。では、また明日、お休みなさい」

「うん、お休み」


 こうしてそれぞれの初日が終わっていった。


 ーーー


 翌日からは本格的なインターン研修が始まった。

 三人の仕事は主に小麦収穫の手伝いで、ローズヴェルトさんが育ててる小麦畑は結構広い。

 他の農家さんの土地よりも1.5倍はある。


 三人はブラウン色の作業着を来て仕事をする事になった。

 リリアは自前で持って来た白リボン付きの麦わら帽子を被っている。


「じぃちゃんはいつも一人で仕事してるのか?」


 タケルは口を動かしつつ、鎌を麦の根本に近づけ不慣れに鎌を引いた。


「違うタケル!もっと下からじゃ。大体はワシ一人じゃが、妻や孫達がこっちに居る時はたまに手伝って貰とる」

「でも、凄い広いさですよ?これを全部?」


 リリアは驚きながら、遠方に広がる小麦畑を見渡す。


「あぁ。ワシは特にする事も無いしな」


 ローグは昨日の晩、ローズヴェルトの鍛冶場でこのインターン研修の班決めやニーナ先生の意図を理解した。


 しかし、何故鍛冶師という立派な職業を辞めてまで、農業なんかやってるのかは理解できなかった。

 こうして、ひたすら午前中は収穫を続けた。


「よし、この辺で昼休憩にするぞ」


 ローズヴェルトはそう言って、芝生が生えた木の陰に向かって行った。

 三人も同じようについていく。


 昼食はクレア叔母さんが四人分のお弁当を作ってくれていた。

 そうして午後も午前と同じように収穫をしていった。


 ーーー


 夕焼けが金世界をより煌かせる。


 沈みかけた夕陽は疲れ果てた精神に染み渡る。

 ローズヴェルトの合図で一日の労働が終わった。


「よーし、今日はこの辺で切り上げるぞ~」

『疲れた~』


 三人は既にへとへとだった。


 そもそも同じ作業を、これだけ長時間続ける集中力と体力が三人にはキツすぎた。

 しかし、ローズヴェルトは疲れた様子など微塵も無かった。


『ただいま~』

「あら、お帰りなさい。随分と疲れてるようね、夕食は出来てるわよ。それとも先にお風呂に入って来てもいいわよ、順番は仲良く決めてね」


 三人の疲れ切った様子を見て、クレア叔母さんは気を使ってくれた。

 結局全員お腹が空いていたので先に食事を取る事にした。


 昨日のような元気は三人に残って無く、メルやクレア叔母さんも少し気を使って静かにしていた。

 ベルは相変わらず元気にぺちゃくちゃ喋っていたが。


 それからは、自由時間なので、リリアはメルと一緒にお風呂に入る事にした。


 ーーー


「はぁ~~。気持ちいぃ~~」


 リリアとメルは湯船に浸かる。

 木製で作られた湯船の雰囲気や香りが全ての疲れを癒してくれる、そんな気がした。

 メルは自分の腕で胸を隠す様にして、顔を赤くしている。

 もちろん、この短時間でのぼせた、訳では無いだろう。


「どうしたのメルちゃん?女の子どうしでも恥ずかしい?」


 メルはコクンと一度頷いた。

 普段の三つ編みは解けており、ピンク色の髪は胸の辺りまで伸びており、いつもより大人な雰囲気に見えた。


「恥ずかしがる事なんかないよ、メルちゃんのお肌凄く透き通ってて、綺麗だよ?」


 リリアに褒められ、メルは更に恥ずかしそうな様子だった。


「そ、そんな事ないです。それに私、胸だって小さいし、Bカップだし……それに比べてリリアさんの胸大きいじゃないですか!!」

「む、胸!?」


 リリアも段々とメルの事が分かってきた。この子は自分に自信が無いのかも知れないと。


「メ、メルちゃんはまだ14歳でしょ?まだまだ成長すると思うよ、きっと」

「Dカップ」

「え!?」


 リリアは胸のサイズを当てられ、少し自分の胸を触る。


「メ、メルちゃん……」

「リリアさんの方こそ、お肌白くて羨ましい。一体どうやったらそんなに育つのかな……」


 メルは口を尖らせながら自分の胸を軽く揉んだ。

 リリアの胸をジロジロと観察しながら。


「そろそろ上がろっか……私のぼせてきたかも」


 リリアは逃げようと立ち上がる。


「リリアさんは……」


 メルが何か言いかけたが立ち上がった時の水音であまり聞こえなかった。


「うん?何か言った?」

「何でもないです……」


 何か言いたげ様子だったが、メルは口元までお湯に浸かりブクブクさせていた。


 ーーー

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