第30話「再会」


 一階のリビングに降りていく三人。

 タケルとローグは、まずリリアの機嫌を伺った。


「別に、もう怒ってないから」


 女がこういう時は絶対に怒っているから、とタケルは昔お爺ちゃんに習った事があった。


「そ、そうか。それは良かった。な、ローグ!」


 二人は何故か仲良く高笑いした。

 リリアはそんな二人を鋭く睨みつける。


「あんた達そんなに仲良かった?」


 リリアの問いに二人は不意を突かれたようにビクついた。


「あ、あぁ。さっき俺達で話合ってリリアにも迷惑掛けたし、仲直りしておこうって決めたんだよ」


 頭を異様に掻きむしるローグ。


「いや、仲直りはしてないぞ」


 ローグの咄嗟に出た嘘に本気で突っ込むタケル。


(黙ってろ、このバカ!)

 タケルの耳元で強く囁くローグ。

(誰がバカだよ!今すぐやるか?あぁ?)


「別に二人の仲はどうでもいいから。

 とにかく、夕食の時に初めて会うローズヴェルトさんやお孫さん達に失礼のないようにね」


 気が付けば、すっかりいつものリリアに戻っている。


 そうして三人はいい匂いのするリビングに顔を出した。

 まず目に入ってきた豪華な料理に驚く。


 真っ白で清潔なテーブルクロスの上に何品もの大皿に料理が積まれている。


 まるまる贅沢に一羽を使い切ったローストチキン。

 ムース状の生クリームソースに香味野菜とエビやニョッキ絡み合う和え物。


 チーズの表面はこんがり焼かれており、深皿から今にも溢れ出しそうなグラタン。


 スープは大量に野菜が角切りにされたミネストローネ。


 余計な物は入れない主義なのかシンプルなトマトとバジルのピッツァだが、こんがりとした焼き目にふわふわした生地は圧倒的に食欲を掻き立てた。

 三人は目の前に広がる料理に唾をゴクリと飲み込む。


「降りてきたわね。さぁさぁ好きな席に座って頂戴。あ、縦の席以外でね。そこは主人と反対側は私が座るから」


 クレア叔母さんは長方形のテーブルに取り皿やグラスの準備を始めている。


「私、ナイフとフォークを出しますね」


 リリアはとにかく何か手伝わなくちゃ、とクレア叔母さんに言い寄った。


「あら、別にいいのよ、でも助かるわリリアちゃん。

 じゃあそれが終わったら主人と私以外のジュースもお願いしてもいい?」


「はい、お任せください!」


 リリアが率先して手伝う最中、棒立ちする事しか出来ない少年二人。


「別にあんた達は座っててもいいんだよ」


 クレア叔母さんは気を使って二人に声を掛けてくれた。


 そうしてる内に一人の男がリビングに顔を出した。

 男の髪は、真っ白な白髪がオールバックにまとめられており、無精髭も真っ白。

 まるでサンタクロースの叔父さんみたいだなとタケルは思った。


 服装は水色のTシャツにベージュのズボンを履いている。

 仕事から今帰って来たのだろうと、誰もが理解する程にあちこち泥が付いている。


「今帰った」

「あらあなた。お帰りなさい。皆さんもう来てくれてるわよ、さぁ席に座って」


 多分この人が噂のローズヴェルトさんなのだろうと三人は理解した。

 ローズヴェルトはチラッと三人の顔を見渡すと無言で自分の席に座った。


 数分後には全員席に座っていた。


「あの子たち遅いわね……せっかくの料理が冷めちゃうのも勿体ないし頂きましょうか」


 クレア叔母さんは心配そうにぼやいていると。


『ただいまーー!!』と玄関から元気な声が二つ聞こえてきた。


 クレア叔母さんはその声を聞くなりホッとした様子で玄関に向かう。


「今日はどこ行ってたのあなた達」

「どこでもいいでしょ、それよりもう来てるの?」

「もうとっくに来てるわよ、あなた達を待ってるの、さぁ早く手を洗ってリビングに来なさい」


『はーい』と元気な声がまた二つ聞こえてきた。


 リビングは全員無言の気まずい状態だった、料理に興味津々のタケルを除いて。

 ローズヴェルトはじっと目を瞑っている。


「ごめんなさいね~。もうすぐ来るから」


 クレア叔母さんは戻ってくるなり、失礼しちゃうわと微笑した。


 そうして待つこと一分。

 二人の孫はリビングに顔を出した。


「あ……。え~~~~~!?」


 いきなり大声を出したのは桜色の髪に三つ編みお下げの少女だった。

 突然の大声に全員が振り向く。

 ローズヴェルトも何事かと瞑っていた目を開ける。


「タケル」


 もう一人、少女と同じく桜色の髪をした可愛いらしい見た目は六歳くらいの少年が、タケルの名を読んだ。


「えぇーー!? お前たち……なんで?」


 タケルは驚きを隠せず席を立つのと同時に「知り合いなのーーー??」とクレア叔母さんとリリアの声が同調した。


「なんでって私が聞きたいんですけど、クレア叔母さん、もしかして今日から泊まりにくる学生さんって青銀学園の生徒だったの??」

「あら、言ってなかったかしら」

「聞いてない!!」


 クレア叔母さんはに楽しそうに微笑んでいた。


「なんで知り合いなのかはとにかく置いといて、先に料理が冷めちゃうから頂きましょうか」


 クレア叔母さんの呼びかけに全員が席に着席した。


 長方形のテーブルに左側からローグ、リリア、タケルの順で座る。

 向かいの席に少女とその少年。

 そして縦にはローズヴェルトと奥にクレア叔母さんという並びで豪華な食卓を囲った。


『いただきます』


 色々と聞きたい事やそもそも自己紹介がまだだったのもあるが、全員に共通している事、それは猛烈にお腹が空いている事だった。


 食べて始めて最初の数分間は、ナイフとフォークを動かす音と「うめぇ。これもうめぇよ」というタケルの独り言のみで割と静かだった。

 そんな光景をクレア叔母さんは微笑ましそうに見つめている。


 食事が胃に行き渡り、空腹感が消え始めた頃。


「ではそろそろ、もう一度自己紹介しましょうか。何故かタケル君と知り合いな二人は置いとくとして」


 クレア叔母さんはそう言ってあなたからねとローズヴェルトに振った。


 ローズヴェルトは少し嫌そうな顔をしたが、食事の手を止めて口を髭をなじった。


「ワシの名はローズヴェルト。お前たちの話はニーナから聞いておる、これからビシバシこき使ってくれと」


 無愛想な態度だったが、いつもこんな感じの人なのだろうと三人は何となく理解した。


「ごめんなさいね、別にこの人怒ってるとかじゃないからね。昔からなの」


 クレア叔母さんはすかさずフォローする。


「いえ、お気になさらず」


 リリアも苦笑いでその場をやり過ごした。


「じぃじはいつもこんなん」


 少年は口元を汚しながらフォークを三人に向けた。


「こら、ベル!フォークを人様に向けたらダメっていつも言ってるでしょ」


 ベルは隣にいた少女に注意された事を気にする様子も無く、食事を再開する。

 ローグは一瞬ベルをチラ見した。


「私はメルです。14歳です。こっちは弟のベルです。最近7歳になったばかりです。どうかこれからもよろしくお願いします」


 メルは礼儀正しく、軽く頭を下げた。


「俺はタケル。また二人に会えるとはなあ!メル、ベル宜しくな!あ、爺さんも」


 タケルはニッシッシッと笑顔で挨拶した。

 ベルは再びフォークをイェーイ!、とタケルに向けた。


「こらっ!!」


 姉であるメルは再び強く注意した。


「俺はローグです。これから二週間お世話になります。宜しくお願いします」

「私の名前はリリアって言います。ローズヴェルトさん、メルちゃん、ベル君にクレア叔母さん、短い間ですがお世話になります」


 こうして軽い自己紹介は終わった。


 食事を終え、食後の紅茶で一服している頃。

 もう既にタケルとベルは剣術ごっこ遊びをしている。

 そんな光景をリリアは微笑むように見つめていた。


「どっちが子供なんだか……」


 クレア叔母さんは食事の後片付けをしている。

 リリアは手伝おうとしたがクレア叔母さんに今日はゆっくりしてて頂戴。と甘えさせて貰った。


「ごちそうさま」


 無愛想に一言そう言って席を立つローズヴェルトはリビングを出る前に足が止まった。


「お主、ローグといったな?」


 食事の際にほとんど喋る事が無かったローズヴェルトローグに喋りかけた。

 あまりにも急な質問に少し驚いたローグだったが、すぐさま返事をする。


「はい、そうですが」

「ちょっと来い。話がある」


 ローズヴェルトはそう言ってリビングを出ていった。

 呼び出されたローグは慌てて席を立つ。


「クレア叔母さん、ごちそうさまでした。美味しかったです」

「あら、お礼なんていいのよ。あんな人だけど仲良くしてあげてね」

「はい」


 ローグは洗い物をするクレア叔母さんにお礼を言ってローズヴェルトの後を追って行った。








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