第29話「怒りの金髪少女」


「それは俺のセリフだ」


 ローグはイライラしているタケルに即座に反論した。


「ていうかなんで客室が二つだけなんだよ!」

「知るか、そんなに嫌だったらお前が外で寝ればいいだけだろ!」

「だ~れ~が外で寝るかよ!ローグ!お前が外に行けっ!」


 隣りの部屋に居たリリアは、いつも気がついたら聞こえてくる口喧嘩に大きくため息をついていた。


「もう~二人とも五月蝿うるさいッ!!」


 リリアはすぐさま隣の男子部屋に文句を言いに行く。

 だが悲しいかな、そんなリリアの叫びもヒートアップした二人には届かない。

 気が付くと二人は掴み合いを始めだした。


「はぁ~仕方ない……」


 流石に、男の掴み合いに素手で混ざるのは危ないと判断したリリアはある事を決意し、急いで自室に戻る。


 リリアの客室は素朴なベット一つと小さい机が一つと蠟燭がある程度だった。


 窓から見える景色は小麦畑を一面見渡せる程度で、特にそれといって他に何か凄い事がある訳でも無かった。


 ホームシックとかは流石に無いだろうな、と思いながらも“二週間”という長い間、リリアは家を離れた経験が無いので、一応お守り替わりに父と母、そして幼少期のリリアが三人が笑っている小さな写真立てを持ってきていた。


 のでリリアはまず一番はじめに、部屋に入ってからその写真立てを机に置いて、心を落ち着かせようとしたものだ。

 しかし、落ち着く暇も無くこの有様だ。


 まだ荷解きを済ませていない大きめのカバンに、立て掛けるように置いてある細長の布包みを手にする。

 上部で結ばれている白いヒモを解く。


 そうして手に取り出したのは普段、実技授業の時に使う木製用の剣だった。


 剣聖科の生徒は皆、インターンシップ先でも日々の鍛錬を怠らないようにと、稽古用木剣を持っていくようにと決められている。


 リリアは木剣を握りしめ、自室を飛び出す。本来とは少々違う目的で……



 戻った頃には二人の顔の所々が膨れ上がっていた。

 未だに掴み合っている。

 リリアは心底疲れた様子で一声掛ける。


「二人共、いい加減喧嘩は辞めて!!」


 もちろん二人は聞く耳を持たない。


「呆れた……」


 リリアはギュッと右手に握る木剣に力を込める。

 刀身に黄色い粒子が舞い始める、そしてすぐにバァンと弾ける様に視界を一瞬真っ白にさせる程に輝いた。


 流石にこの異常現象には二人も気が付いた、が、もう遅かった。

 時すでに遅し、収束した光の剣はまず赤髪の頭部を目掛けて振り落とされる。


「ちょ、リリア……さん?」

「五月蠅いッ!問答無用!!」


 ゴツンと鈍い音とが鳴った直後、ローグを掴む手が放れると共にタケルは真後ろに倒れた。


「フッ。よくやったリリア」


 ローグは安心したように自分の乱れた服を整える。


「あんたも同罪よッ!!」


 ローグは見た、自分の頭上に輝く黄金の剣を。


「いやこれはあいつから……」

「言い訳無用ッ!!」


 ゴツン、バタンという鈍い音がした後、怒りの金髪少女の地面には少年二人がノックアウトしていた。


「フンッ!これは私悪くないから!!」


 ーーー


『すいませんでした……』

「声が小さい!!」

『すいませんでした!!』


 二人の少年を正座させる一人の少女。


「なんかこの感じ前もあったような気が……」

「五月蝿いタケル!!」

「すいません……」


 怒りの金髪少女ことリリアはベットで膝と腕を組んでいる。

 普段なら決してこのような姿勢を取る事は無いが、よっぽど怒っているのだろう。


「いい? 二人共ここに何しに来たの、喧嘩?」

「働きに……」


 タケルはしょんぼりした様子で答える。

 ローグは相変わらず黙ったままだ。


「ローグは!?」

「インターンシップ研修の為に、だ……」


 今この三人の中で一番の主導権はリリアにある。


「でしょう。別にあんた達が喧嘩するのは勝手だけど、今は研修先だって事忘れないで!

 それに、クレア叔母さんにも迷惑掛けない事。分かって??」


 リリアは今までに見た事ないくらい怒っているとローグは実感し、我ながら反省した。


 が、「でも人間は迷惑かけながら生きていくものだろう」と間抜けな発言をする赤髪少年一名。


 ブチっと音がしたんじゃないかと思われる程にリリアの額には青筋が立っている。

 もう怒りマークが見えてもいても可笑しくないくらいリリアは頬を引きつらせながら笑っている。


「今なにか言った? タ・ケ・ル??」


 語尾がやたらと強く、ベットの傍に置いてあった木剣を手に添えるリリア。


「いや何にもありません……ごめんなさい……」


 フンッとリリアはそっぽを向いて間を置く。


 数分後。


「じゃあ宜しくね」と、最後の“二人共”という語尾を強調して怒れる金髪少女は笑顔で部屋を出て行った(木剣をちらつかせて)。


 ガチャと扉がしまったのを確認する。


「怖かった~~」

「あぁ、ちょっと怒らせ過ぎた」


 二人は怯え切っていた。


「よし、ローグ。こうしよう、この続きの決着は剣で決めようぜ!」

「なに?」


 タケルはいきなり何を言い出したかと思えば、次は剣で喧嘩を売った。


「お前今のリリアを……」

「大丈夫だってローグ! いいか、俺の作戦はこうだ。まずリリアには日々の鍛錬とか言って誤魔化す。

 これなら二人で剣を持って外に出ても怪しまれないだろう」

「いやどう考えても二人一緒に出たら怪しまれるだろ??」


「そう言われると確かに……流石委員長!

 じゃあこうしよう、まず片方が先に外に出てもう片方が後から外に出る」

「良いだろう。でも場所はどうするんだ?」


 タケルは一瞬深く考えたのち、ハッと何か思い出した様な顔になった。


「あれだ、利用するんだよ。夜の小麦畑を!」

「なるほど……確かにここは都市と違って夜はあまり外灯の明かりもない、か」

「いけそうだろう?この作戦」

「あぁ。これでお前とケリが着けれる」


 ヒッヒッヒッと二人は不気味な笑いをしながら、お互いを見つめていた。

 仲が良いのか悪いのやら。


 数時間後。

 夕食の支度が出来たとクレア叔母さんが呼びに来てくれたので、三人は一階のリビングへと向かって行った。

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