第28話「わくわくのインターンシップ??」


「ていうかなんで……この三人メンツなんだよーーーーーー!!」


 タケルは自席を立ち上がり叫びだす。

 周りにいた乗客が何事かと一瞬戸惑ったが、すぐに学生の無駄騒ぎだと気付き、迷惑そうにそっぽを向いている。


「うるさい黙れ」

「私が聞きたいわよ」


 ローグとリリアは乗客と同じようにタケルを、迷惑そうに扱い窓際の映る景色を見つめている。


「クソッ。せっかく楽しみにしてたインターンシップも台無しだぜ」


 タケルの発言を聞いてローグの眉は少し釣りあがる。


「お前遊びに来てたのか?それなら今すぐ次の駅で降りろ」

「ほんとよ、降りなさい」


 タケルは二対一というこの圧倒的不利な状況に、ムムッと我慢する事一秒で決壊。


「誰が遊びに行くなんて言ったんだよ!!お前たちと組まされるこの俺の身にもなって見ろってんだ」


 タケルは心底悲しそうに態度を取った。


「それをお前が言うのか……」

「それをあんたが言うの……」


 二人は呆れた様に同時に喋り出す。


「はぁ。もういいよお前ら。で、挙句の果てにそのインターン先が農業だと?この二週間俺はどうやって生きていけばいいか分かんねぇよ……」


 タケルは腕を組み一人反対側の席に座っている。


 そう、あれからどういう流れで今に至るのかは至ってシンプルだった。

 結局中間テストは無事に終了し、タケルはレフトのお陰もあって何とかギリギリ赤点を回避した。

 その後のインターンシップ班決めをニーナ先生の独断と偏見で決められた。


 ただそれだけだった。

 タケルは非常にインターンシップに行きたかった(主にレフトとアルンと)。


 アルンとは林間合宿以来、タケルとは昼飯を食べるなど、タケルが無理やり誘ってだがそれなりに交流はあった。


 レフトとアルン、この二人はタケルにとっては立派な友達だった。

 相手はどう思っているか分からないが、タケルは少なくともそう思っていた。


 そうしてやって来た青銀学園の一大イベントの一つ__インターンシップ研修。

 密かに頭の中で、この二人は当たり前に一緒だと思っていたのだが……



『え~次の班言うぞ~委員長。リリア。そんでタケル』


 ニーナ先生の一言でタケルの幻想は儚く散った。

 三人ともこの班決めを聞いた時は、顔を引きつっていた。

 ナーシャ一人だけが珍しく悔しそうな表情をしていたのは誰も知らない。




「なんで他の班の奴らは四人とかなのに、俺たちは三人なんだよな」


 誰に向けて言っていいのか分からず、タケルはブツブツと小言を漏らす。


 そんなこんなでラタリアの街を出て一時間半が経った。

 蒸気機関車のスピードはゆっくりと速度を落としていく。


「わぁ~綺麗!」


 リリアは窓際に映る景色が一面小麦色の畑になっていく事に感動していた。


 ローグも無表情でその金世界を見つめている。


「もうすぐ着きそうね。ローグ、場所は大丈夫?」


 リリアの呼びかけにローグは「あぁ」と一言クールに答えた。


 ーーー


「着いた~~!!お〜空気がうめぇ~」


 タケルは大きなリュックを抱えながら元気そうに駅構内を動き回っている。

 二人はタケルを置いていく様に駅の出口に向かっている。


「っておい!!お前らどんだけ寂しい奴なんだよ!!」


 タケルは肩を落としながら、出口の階段に向かって行く二人の後を追う。


「………知ってたけどな……」


 そうして、駅を出て歩く事十五分。

 歩いても歩いても小麦畑が続いており、たまに民家がちらほら見えてくる程度だ。


 六月とは思えない程に陽射しが強く、太陽が金世界を反射させ、より暑く感じる。


「本当に田舎なのね~」


 リリアは麦わら帽子を被り直し、人生で初めて来たであろう田舎街がとても新鮮に思えた。


「あと、もう少しだ」


 ローグは自分より後ろにいたリリア、そしてかなり後ろをのそのそと歩くタケルにそう告げる。


「ローグ、私達がお世話になるインターン先の人ってどんな方なの?一応教えといてくれない?」


 ローグはポケットにしまっていた、紙を広げる。


「確か……名前は、ローズヴェルト……」

?」

「あぁ。先生が言うには気難しい人かも知れないから、そこは何とか上手くやってくれって」

「そうなんだ……」


 リリアは即座にタケルが何か問題事を起こさないか、とても不安になった。


 そうして歩く事数分。

 普通の民家より気持ち大きめの民家が見えてきた。


「着いた」


 ローグは門の前で大きめの荷物を地面に置いた。

 民家は石造りで出来ており、庭は自然を感じさせる緑の芝生や花が咲いている。


「綺麗なお庭~♪」


 リリアはテンションが上がったのか、麦わら帽子を首にかけ色々敷地内を見渡している。


 二階建ての一軒家にしては少々横に長く、部屋の数が多いのかも知れない。

 三人が通ってきた時に、見た民家はここまでの広さはなかった事を察するにここの民家は少しお金持ちなのかも知れない。


「すいませーん、どなたかいませんか~」


 リリアは透き通るような声で玄関であろう方向に呼び掛ける。

 暫くしてから「はーい」という女性の声が聞こえてきた。


 石造りの家とは対照に木造の扉がゆっくりと開く。

 見えてきたのは五十代くらいの如何にも温厚な叔母さんだった。


「あら、いらっしゃい。あなた達が……」

「はい、青銀学園からやって来ました。今日から二週間、宜しくお願いします」


 リリアは礼儀正しく挨拶した。


「まぁ、こちらこそだわ。こんなに可愛くて礼儀のある子が来てくれて嬉しいわ~」


 叔母さんはとても喜ぶように家に手招きした。

 ローグとようやく辿り着いたタケルもその流れで家に入っていった。


 何の変哲もないない玄関を通り過ぎ、居間に案内される。


「ここまで来るの、遠かったでしょう?さぁさぁその辺に適当に座って」


 言われるがままに三人は、左からタケル、リリア、ローグの順にソファーに腰掛けた。


 叔母さんはいつの間にか居間から姿を消していた。

 残された三人の沈黙が続く。

 三人はグルグルと居間の様子を観察するしかなかった。


 外は石造りの壁だったのに、内装は所々がレンガで出来ている。

 壁には絵画が三枚程飾ってあった。


 その内二つはよく学校の教本で目にした事があるような絵画だったが、残り一つは目を引きつけるような美しさだった。


 背景は青空に小麦畑。

 その真ん中に麦わら帽子を被り、バスケットを腕に抱えている女性が描かれている。

 その女性が美しく見えるのか、背景の金世界がそうさせるのかタケルとローグには到底理解出来るはずもない。


「綺麗な絵画~」


 リリアは感心するように呟く。

 城で幾つもの絵画を見てきたリリアだったが、この絵画はさぞかし美しかったのだろう。


 そうして数分後叔母さんはお茶を三人分用意して持って来てくれた。


「さぁ、まず一息ついて」


 この田舎街は都市よりも陽射しが強く、正直な所三人は来る途中で喉が渇き切っていた。

 そういう経緯もあってか、三人は叔母さんが用意してくれたお茶を勢いよく飲み干した。


「なにこれ……美味しい……」


 叔母さんが用意してくれたお茶は、いつも自分達が飲むお茶とは違った風味だった。


「あら、お口に合って良かったわ。これはゲンイ茶と言ってね、収穫量も少なくてね、あまり都市では出回らないものなの」

「そうなんですね~」


 リリアは心の中で今度お母さんに教えてあげよっと思った。


「あら、そうだったわ、失礼失礼。まだ自己紹介まだだったわね。私はクレアよ。

 呼び方は……そうね、孫たちもクレア叔母さんっていつも呼んでくれるわ。

 この家の事で分からない事があったら何でも聞いてちょうだい、もちろん好き嫌いとかもあったら気軽に言ってね。これから二週間宜しくね~」


 クレア叔母さんは見た目通り温厚で、とても親切に三人を歓迎してくれた。


「私の名前はリリアです。こちらこそ短い間ですが宜しくお願いします」

「ローグです。迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします」

「俺はタケル。宜しくな、クレア叔母さん」

「あらあら、可愛い孫が三人も増えたような気分だわ~」


 クレア叔母さんの頬は紅潮し、とても上機嫌な様子だった。


「あ、そうだった。今はまだ帰って来ていないんだけど、主人と孫が二人いるの。

 また夕食の時に紹介するわね。先に貴方たちが寝泊まりする部屋を案内するわ」


 そう言ってクレア叔母さんは三人を2階の客室に案内してくれた。



 ーーー


 タケルはイライラしながら、ベットの上で膝を何度も揺すっている。

 その視線の先は銀髪にピアスが目立つクールな少年を睨みつけている。


「だ~か~ら~なんでまたお前と一緒の部屋なんだよーーーーー!!!」

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