第27話「屋上と勉強会」


「じゃあ話すから黙って聞くんだぞ!黙ってな!」


 ニーナ先生は“黙って”と念を押すように二度唱えた。


「お前はな、私の電撃を横っ腹に喰らって、二回目の気を失いかけたんだ。その辺は覚えてるんだろ?」

「あぁ。それ以降が……」


「その辺くらいかな、いや、もうちょっと前辺りからか私はお前の異変に気付き初めていたんだ。

 お前の魔気量は上がっていき、炎は燃え上がってくるんだけど、一向に熔岩マグマらしきものは感じなかった」


「あぁ。それは俺も思ったよ、何かいつもより炎の調子は良かったような気がしたけど」

「そこでお前が言ってた事を思い出してな。オークとの戦いの時の記憶が曖昧だって言ってだろ?」


 タケルはコクリとだけ頷く。


「で、未熟者のお前には、熔岩の発動条件があるんじゃないかと思った。

 むしろコントロール出来る方がおかしいって事になんで気付かなかったんだって」

「それは……」


「これはまだ絶対っていう確証が無いんだけどな……タケルの使う熔岩は多分精神性に強く感化されてるんだと思う」

「精神性?」


 タケルは分かりづらいのか頭を横に傾けた。


「あぁ。お前が過去にどんな経験や体験をしたのか分からないが精神の疲れや、強い怒りで限界を超えた時だけ、熔岩が使える、いやこの言い方は正しく無い。

 使と言った方が良いのかもしれないな」

「使わされる??」

「でもオークの時は完全に記憶が無い訳では無かったんだろ?」

「先生の時程では無かった」

「それはお前に精神的疲れや怒りが、限界を超えてないかも知れないな。その戦いでは熔岩はどれくらいら使えたんだ?」

「確か、そんなに長く無かったと思う。

 持続出来たのは一分あったかな、ってくらいだったかも知れない」


「やっぱりな。私の時はもっと長く熔岩を使ってたよ。

 お陰でこっちも大人気ない力使うハメになったしな」

「そうだったのか?」

「けどそれは、記憶が無くなるくらいにお前を追い込んだ、無意識にそう身体が危険と感じたのかも知れないな」


 ニーナ先生が言っている事を完全には理解できなかったが、何となく分かったような気がした。


「でもまぁ、これがお前の魔気切れを起こした理由だ。とにかく今のお前にはまだ早いし、扱える程のものでも無い。

 今は地道に火属性の魔気を自在に操れるようになる事が目標だな」

「あぁ。鍛錬は欠かさずやってるよ」


 剣聖科の生徒は入学してから、必ず家で鍛錬する用の木剣を渡される。


 これは実際タケルがニーナ先生と戦った時に使った剣と同じで、学校から帰っても魔気の稽古や型、素振りなどの鍛錬を怠らないようにと青銀学園からの入学祝いというささやかな贈り物だそうだ。


「それはいい事だが……筆記試験の方は大丈夫だろうな?」

「ぎっ……だ、大丈夫に決まってんだろ!?」


 ニーナ先生は薄ら笑いを浮かべながら顔を近づけてくる。


「もし、赤点取ったら一人だけインターンシップ行けなくなるから気を付けるんだな……」

「えっ!? ほんとに??」

「あぁ。もちろん、私は嘘はつかないよ……」

「俺、レフトに教えて勉強教えてもらうよ……」

「あぁ、そうしろ」


 何故かずっと薄ら笑いのニーナ先生は不気味に感じた。


 ーーー


「お願いだ。俺に勉強を教えてくれレフト!」

「タ、タケル?? どこか頭でも打ったのかい?今から一緒に医務室に……」


 レフトは唖然としたその後、凄い困った顔でタケルを見つめていた。


「な、なんで急に勉強を教えてくれなんて……しかもあのタケルが? 嘘だろ?」

「ホントなんだよ。今度の中間テストで赤点取ったら六月のインターンシップに俺だけ行けなくなるってニーナ先生が」


 レフトは物事をようやく理解したのか、なるほどねと頷いた。


「と言ってもタケルほとんど授業まともに聞いてなかっただろ?間に合うの?」

「間に合うとか間に合わないとかじゃないんだ、間に合わせるんだよレフト!!」


 タケルは何故か言い切ってやったぜ、みたいな満足気になっていた。


「うっ……なんかそれっぽい事言ってるけど、もうテストまで一週間ちょっとしかないけど大丈夫なの?」

「とにかくやるしかないんだ、毎日放課後一時間だけでいいからさ、頼む!!」


「毎日って……」


 レフトはしばらくその場で目を瞑り考え込む仕草を取る。


「分かった、分かったよ。でも僕だってテストはあるから毎日ってのは無理だけど。

 あとライトの勉強も見てやらなくちゃいけなかったからついでに教えてあげるよ」

「ほんとか!? さすがレフト!!

 やっぱ持つべきものは優等生の友達だよな~、なっライト」


 レフトはやれやれと呆れた様子だが、教室の端にいた巨体のライトはいきなり声をかけられた事にビクッとした。


 とにかくこれで赤点は間逃れた、タケルはそう確信した。

 でもそれは後々大きく後悔する事になるとは、今のタケルは知らない。


 ーーー



「違うタケル!もう一回、やり直し!!」


 レフトはいつもメガネをかけてない筈なのに、何故か今はメガネをかけ、片手には教科書を持ってやる気満々のご様子だった。


 一人はタケル、そしてもう一人はレフトの双子の弟こと巨体のライト。


「おい、ライト、お前の兄ちゃんいつもこんな感じなのか?」


 タケルはひそひそ声でライトに話しかける。


「う、うん。レフト兄ちゃんは勉強を教える時はやけに厳しくなるんだよ……」

「そこ!何喋ってんの!!」


 ハッと二人の背筋がピンとなる。


 今日で勉強会が始まって四日目。

 毎日、放課後一時間とタケルは確かに頼んだ。

 でも、もう時刻はとっくに夜の七時を回っている。

 これが連日のように続いている。


 当然、教室には三人以外誰もいない。

 修練所も試験期間なので使用している生徒も多分いないだろう。


 という事でこの学園内に残っている生徒はタケル達だけかも知れない。

 それはそれで興味あるなとタケルの童心が疼き出す。


「な、なぁレフト。ちょっと学園内を散歩しないか?夜の学園なんて珍しいし、ワクワクするだろ?」

「えっ……それはやめたほうが……」


 ライトは怖がるようにタケルに囁きかける。


「何言ってんのタケル!?

 今自分がどのくらいやばいか分かってるの?」


 レフトの目は一ミリたりとも笑ってない。

 というか怒っているようにすら見えた。



 勉強会初日の時、タケルに魔気基礎Ⅰを教えている時にレフトは驚愕した。


「嘘だろ……タケル。こんな事も分かんないの……」


 レフトは驚愕し、タケルのやばい現状を突きつかられた。


 普段の授業態度からタケルの成績が、クラスで一番悪い事は予想していたのだか、それを上回ってしまうくらいタケルはバカだった。


 そこからは持ち前の責任感の強さからか、自分が面倒を見るからには、徹底的にタケルを更生させなくてはという使命感に駆られているらしい。



「だよな~ハハハ。勉強勉強~」


 タケルは誤魔化す様にプリントを見つめる。

 しかし問題の意味が全く理解出来ていなかった。


「タケル!! やる気あるの?

 インターンシップ行かなくていいの!?」

「行きたいです!!」


 そうしてテスト期間までの放課後は、レフト先生による勉強会が毎日行われた。


 テストまで残り5日。

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