第12話「ビギニング(前)」
タケル達がオークの前に立ち塞がってくれた隙に、リリアはナーシャの下に駆け寄る。
「ナーシャちゃん!!」
「リ……リリアちゃん……なに、これ……?」
「大丈夫ナーシャちゃん!? しっかりして、今は二人を助けなきゃ!」
「二人……そうだ、助けなきゃ!」
リリアの言葉にナーシャは恐怖から目を覚ました。
二人は協力してローグとレフトを、タケル達から引き離す。
流石に力の抜けた男の身体を、女二人で運ぶのは苦労したが、そうも言っていられない状況だったので出せる限りの力を出した。
そうして無事、入り口付近に運び出す事に成功した。
「とにかく息はまだあるけど、血を流しすぎてる。リュックの中身に確か救急箱があったよね」
「うん。確かそこに包帯とかもあったかもしれない」
二人は急いで二つのリュックから、救急箱を探した。
「あった! ナーシャちゃん、まず止血を!」
「うん!」
ローグとレフトは、うなされるように眠っていた。
ーーー
「おい、あちこちに転がってるこの骨はなんだ?」
タケルは真っ直ぐオークを睨み、問う。
「そんなもん見りゃ分かんだろが、骨だ、お前達人間のな!!」
二匹のオークは大きく高らかに笑う。
それを見て、タケルは奥歯をギリッと嚙み締めた。
「てめぇら……本気で言ってんのか……?」
「ああん……?なんでいちいちお前に嘘つかなきゃいけねぇんだよ!
ちょうど街のはずれで、上手そうな女とそのガキがいたから
続けて隣のオークも会話に入ってきた。
「まぁ、ガキはあんまり喰ったらダメなんだけどな!」
再び大笑いするオーク達。
「どうせだから聞いてやるよ!
お前たちはどうやって喰われたいんだ?生か?それとも焼いてか?
ま、結局はその辺の骨と一緒になるんだけどな!」
『ガッハッハッハッ』
タケルは辺りに転がっている骨を見つめ、剣を握りしめた。
ボワッと刀身に炎が纏い始める。
それを見たオーク達も笑いを止め、右手に持つ棍棒を肩に担ぐ。
「なんだガキィ、お前もやろうっていうのか?」
「もう黙れよクズ……」
「タケル殿!!」
カレンの呼び声にも反応する事も無く、タケルは右側にいるオークを対象に定めた。
そして、右足に力を込め、地面を蹴った。
「うぉぉおおおお!!」
タケルは敵の体を真上から斬り下ろすモーションに入る。
「ダァッツ!!」
「ッ……!!」
バチンッツ!!
オークは余裕の表情で、タケルの炎を帯びた剣を、棍棒で受け止めた。
「へっ、お前も軽すぎるんだヨッ!!」
オークはガラ空きになったタケルの横腹を右足で蹴り飛ばした。
そのままタケルは壁に打ち付けられ、口から血が溢れ出した。
その場で両膝をつく。
「ウッ………」
「タケル殿ッ!!」
「魔気が使えるからって、調子に乗りやがって!所詮クソガキだなぁおい!
よし、次はお前らだな」
オークは不気味にニヤついた。
「まだ、だ……」
「あん……?」
「まだ終わってねぇんだよ!!」
タケルは剣を地面に刺して、立ち上がり、手で口元の血を拭う。
「ほーう、いっちょ前に負けん気はあるのか、さっきの奴たちは瞬殺だったからな?」
二匹のオークは笑いながらタケルを見つめる。
「お前達……手ぇ出すなよ、このクズ野郎は俺が倒す!」
カレンとアルンは黙って頷いた。
というより、今のタケルを邪魔する事など、二人には出来なかった。
もちろんライトも。
タケルはありったけの魔気を剣に注ぐ。
その炎は先よりも強く、刀身を包み込む。
「来いよ!」
「ぶっ殺す!!」
タケルはさっきと同じく全力でオークに突っ込んで行く。
両手で剣を握り、力のまま剣を振り下ろす。
オークも再びタケルの剣を棍棒で受け止めるように構える。
バチンッツツツ!!
先よりも大きい衝撃が洞窟内を響かせる。
「ヴォォオオオ!!」
「あっち!?」
オークが少し焦ったよう顔になったが、すぐさまニヤッと頬を釣りあがらせた。
「なーんてなッ!!」
「ッ!!」
オークは剣を押し返し、その反動を使ってタケルの後頭部を狙う。
「ヒィェェェエ!!」
オークは奇声染みた声を荒げて、棍棒を振りぬく。
後頭部を狙ってきた棍棒を、タケルは間一髪で剣を当てたが、その力を受けきる事が出来ず、地面に吹っ飛んだ。
「っ………」
タケルは頭からぬるい液体が、地面に流れていく感触を感じた。
それと同時に、視界がグラグラと揺れ、意識が暗闇の中に落ちていった。
「タケル殿ッ、タケル殿ッ!!!」
カレンは急いでタケルに寄り添う。
身体を揺らしても、全く返事が返って来ない。
そこで、オーク達は余裕と判断したのか、もう一匹のオークは後方に下がって再度食事を始めた。
「おい、終わったら言ってくれ」
「おうよ。手ぇ出すなよ~こいつらは俺の獲物にするからよ。その代わり後で少し分けてやるから。ガッハッハッハッ」
そして、一人の少年がオークの前に立ちはだかった。
「おい、化け物、貴様の相手は俺だ!!」
「ああん?お坊ちゃまに何が出来るってんだ?
ガッハッハッハッ!!」
アルンは剣を両手で握り、胸元に引きつけ、目を瞑り、魔気を込める。
「風よ……来いッ!」
ゴォオオっという音と共に刀身から風が吹き上がる。
その風は舞うように回転し、剣先にかけてより鋭く、鋭利な剣となった。
アルンは左手を前に添え、右手を後ろに引き、腰を据える。
長年の型が染みついているような、そんな構え。
「ほほう……ガッカリさせるなよ!!」
そう言ってオークは、アルン目掛けてドシドシと突進を仕掛けた。
突進の勢いを利用し、棍棒を持つ右腕を大きく捻り、アルンの頭に振り下ろす。
「シネェェエエエィ!!」
アルンはその大振りを、サッと軽快に躱した。
空を切った棍棒が、ドガン、と地面を叩きつけ、地面に亀裂が入る。
「遅い!!」
大振りを躱したアルンは、剣を素早く突きの構えに戻し、風を纏った鋭利な剣でオークの横腹に突き刺した。
「セェェイ!」
グサッ
「ギャァァァァアアアアアア!!」
耳が痛くなるような悲鳴を上げるオーク。
そしてオークは雑に棍棒を振り回し始めた。
「この、クソッ!!……ちょこまかと、オラッ!!」
乱暴に振り回した攻撃は当たるどころか、もうそこに、アルンの姿は無い。
「本当にただ脳筋のようだな、貴様は!」
いつの間にかオークの背後に回っていたアルン。
そのままガラ空きになった背中を斬り下ろした。
「セァァアアアッ!!」
紫色の血飛沫が飛び散る。
アルンは返り血すら、剣に纏う風が薙ぎ払った。
「ギャァァァァアアアアア!!」
もろに攻撃をくらったオークは、背中と横腹からダラダラと血を流し、膝をついた。
「今だ!」
アルンはカレンに叫んだ!!
「は、はいっ!!」
カレンは慌てて、魔気を剣に流し込む。
ビシャ、と水飛沫が鍔の方から弾け飛んだ。
そのまま凄い回転で、水流が刀身を飲み込んでいく。
常に水飛沫が弾ける中、水流の回転速度は上がっていき、鋭さを増していく。
「いきますッ!!」
カレンは剣を振り払い態勢を整え、膝をついているオークに斬りかかる。
「セヤアアアアア!!」
午前中の授業で、習った通りの上段斬り。
少々動きは固いが、当たれば確実にダメージを与える事が出来るだろう。
剣先にかけて、水流がスッと引き締まり、オークを切り裂こうとした。
ギャインンン!!
甲高い音が洞窟内に響き渡り、カレンの剣は後方に弾き飛ばされた。
「なっ!?」
その正体は、後ろで食事をしていたはずのオークだった。
口元は赤く染まっている。
カレンが斬るギリギリ寸前の所で、棍棒を使って剣を掬い上げたのだった。
オークは地面に唾を吐く。
「ちっ、こんなクソガキ共に何やられてんだよ。だっせなぁ」
剣を吹き飛ばされたカレンは、自分の何倍も遥かに大きいオークを見上げ、腰が抜けそうになる。
「お前、うまそうだな。カカッ」
不気味に笑ったオークは、腕で口元の血を拭う。
そして、怯え佇むカレンに、ゆっくりと近づく。
「うぁ……あ……」
「田舎娘ッ!!」
アルンは急いでカレンの元に走る。
しかし、オークが先に図太い左足で、カレンの頭部を蹴り飛ばした。
「ヤッ…………!!」
まともに足蹴りを食らったカレンは、軽々しく真横に吹き飛び、背中を壁に強く打ち付け、血を吐いて地面に倒れた。
「カレンッ!!」
アルンは吹き飛ばされたカレンの方に、急いで向かい、頭を抱きかかえる。
何本か結ばれた水色の髪はほどけ、顔面は蒼白だった。
カレンの頭から流れた血が、額に流れる。
アルンは黙ってカレンの顔を見つめ、額の血を拭ってあげた。
「………よかった。アルン殿が……自分の事を……名前で……読んでくれて」
最後の気力で言葉を残し、安心した表情でカレンの意識が途切れた。
「田舎娘の分際で……ちょっとは黙って寝てろ」
アルンは優しくカレンを地面に寝かせた。
「おい、そこの巨体のガキ、お前はどうする?」
「えっ!?」
今までただ、怯える事しか出来ず、その場で立ち尽くしていたライトにオークは問いかけた。
「えっ!?、じゃねぇよ。逃げるなら今のうちに一人で、とっとと逃げろ。
女は柔らかくて美味いけどな、お前みたいな男は、肉が固くてマズいんだよ」
オークは戦うのも、めんどくさそうな仕草を見せた。
「ぼ、僕は……」
「黙れ、クソ野郎ッ!お前の相手は俺だ!」
そこに、激怒したアルンが戻って来た。
「ちっ、おい、お前いつまで休んでんだよ!
肉は俺が全部貰ってもいいのかよ!!」
オークは後ろに振り返り、アルンに斬られ、負傷していたオークに喋りかける。
傷を負わされオークは、下を向きながら座り込んでいたが、仲間の言葉を聞いた後、拳で地面を殴りつけた。
「んなわけねぇだろが。あのクソガキっ……ぶっ殺す!」
こっちも激怒した様子で、ゆっくりと立ち上がった。
アルンは敵に聞こえない様に、隣にいるライトに、コンタクトを取る。
「いいか。俺が先に突っ込んで陽動するから、隙が出来たらお前があの化け物を殺れ!」
「えっ!?で……でも僕は魔気を使えないんだ……」
「ハァ? 使えないだと!?
お前確か、検査の時の砂使いだろ?
大きい方の」
2人がコソコソと話している間に、二匹のオークは準備を整えるように首をゴキゴキと、鳴らしていた。
「もう作戦会議は終わったか?
ま、殺すだけだからもういいよなァアア?」
そう言って、傷を負っているオークは棍棒を肩に担ぎ、アルン目掛けて突進した。
「シネェェェエエ!!」
「おい、もう何でもいいから斬れ!」
アルンはライトにそう言い残した後、オークの突進とは向き合わずに横へ走り出した。
「クソ野郎、着いて来い!!」
「チッ! 逃げてんじゃねぇぞゴラッ!」
オークの動きは、傷のせいか、アルンより遅く、追いつけない。
アルンは焚火がある場所に先回りし、火を手前に「
すると、剣先からトルネードのような風が吹き出し、その風に火が纏って、追いかけてくるオークに直撃した。
まさに、火炎放射のような、凄まじい一撃だった。
傷を負ったオークの全身に、火の渦が包み込む。
「グワァァァアアアアアアア!! 焼ける、ヤケル、ヤケル、おい、助けてくれェェエエエ!」
火に包まれたオークは、必死に仲間のオークに助けを求める。
「てめぇ、ガキ一人になんて様だ、お前はそこで燃えながら反省してろザコ!
俺が先に、そのガキから殺してやる」
ライトの前にいたオークは、すぐさまアルンの方に走り出す。
その時、アルンの口元がニヤッと、釣りあがった。
「やっぱり魔物は所詮、脳筋集団なんだな!」
アルンは再度、焚火の残り火を使ってエアリアルを放つ。
走ってくるオークに火の龍が襲いかかる。
先よりは、威力が落ちたが、当たれば申し分ないダメージを与えれるはずだ。
しかし、二度同じ現象は起きなかった。
オークは足を止め、棍棒に力を込めた。
そして、襲ってくる火炎放射を棍棒で思いきり叩き潰した。
バァァンン!!
凄まじい衝撃が壁に打ち付けられ、壁の一部が
「なっ、に!?」
オークは勝ち誇り気に、右手に持った棍棒を持ち上げる。
アルンは自分の目を疑った…。
オークの持つ棍棒には、濃ゆい紫色をしたオーラが、禍々しく纏わり付いている事に。
「おい、ガキィ……もうお遊びはここまでだ!」
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