第6話「魔気属性検査③」
林間合宿2日目。
時刻は午前9時を回っており、生徒は昨日と同じくサーコートを身に纏っていた。
「昨日はよく眠れたか?午前中は剣の基本授業を徹底的にするぞ」
何人かはまだ眠そうな生徒もいたが、今日は誰も寝坊せずに揃った剣聖科A組。
「先生、剣の基本授業って具体的には何をするんですか?」
ハイハイと元気よく手を挙げながらニーナ先生に質問するのは、砂色のような髪色に顔にあるそばかすが目立つ少年だった。
「そうだな。まずは剣の振り方からだ。そして基本の型だ」
ニーナ先生は自分の後ろにあった剣が四、五十本くらい傘のように積まれている鉄籠から適当に一本の剣を取り出す。
「まず初めに言っておくが、実践になると型なんてなんの役にも立たない!」
生徒達はニーナ先生の発言に唖然としていた。
「いや、これは教師としては失言だったな。そう言う事を言いたいんじゃんくて……うーん」
一瞬、ニーナ先生は顎に手を置き、考える。
「型は剣の基礎中の基礎なので大事なのだが……お前たちがこれからやっていくのは生きるか死ぬかの戦いなんだ。相手はお前たちを本気で殺しにくる、もちろん魔気を使ってな。
そんな相手が型通りに斬りに来てくれる訳もないし、でも、だ。
型が無いお前らにはまだ剣筋が無いと言ってもいい。それを教えてくれるのが型だ」
そうしてニーナ先生は右足をバンと前に踏み込み、両手で握っていた剣を上段から真下に振り下ろし、すかさず右に水平斬りを行う。
続いて2連撃くらいあったが、余りにも早すぎてほとんどの生徒はその剣裁きのスピードを見切れなかった。
直後、ニーナ先生から生徒達に向けて軽い風圧が押し寄せ、とにかく凄い事だけは伝わったのでパチパチと拍手した。
そして咳ばらいをした後のニーナ先生は、何故か恥ずかし気に頬を紅潮させていた。
「まぁ、今から私が型を一から教えていくから、お前たちはそれをマネしていけ。よし、じゃあ一人一本ずつ剣を持って。
ぶつからないように一定の距離は離れろ!」
そこからはニーナ先生のマネをするように、生徒たちは剣を振り続けた。
そうして、あっという間に一時間が過ぎていった。
「よし、10分間休憩!終わったらまたこの場所に集まるように」
生徒達は剣を1時間振り続けるだけで、限界だった。何人かの生徒を除いて。
ほとんどの生徒はその場に座り込んでしまう。
「手が痛たいよ~」
今にも泣きそうな声で、左手をブンブン振っているナーシャの目尻には涙が溢れていた。
手は真っ赤に腫れ上がっている。
「さすがに、一時間ずっとは辛いよね」
リリアは髪を耳に掛け、タオルで汗を拭っていた。
「リリアちゃんや他の皆も、まだまだ余裕がありそうでホントに凄いなあ。
それに比べて私なんか、まだ基礎なのに型も全然まともに出来ないなんて本当に剣士なんて向いてるのかな……」
「そんな事ないよ。ナーシャちゃんだって、素質があるから剣聖科の試験に受かったんだよ?」
「ホントにそうなのかな……」
ナーシャの自信の無さは少し心配になったが、リリアはナーシャが自分の弱さをさらけ出してくれている事を素直に嬉しく思った。
「大丈夫だよ。ナーシャちゃんもきっと強くなれるよ!あ、もうすぐ休憩終わっちゃうね。戻ろっか」
「うん。ありがと。そうだね、次も頑張らなきゃ!」
先程よりも少し自信のある顔つきになったナーシャを見てリリアは良かった、と安心した。
ドテッ
と鈍い音が聞こえた。
リリアは後ろを振り返るとナーシャは歩き出してすぐ、大きめの石につまづいて顔から突っ込んでいた。
「ウッ……」
「ナ、ナーシャちゃん!?大丈夫??」
「……ぅう……わたし、やっぱりだめだ~」
ナーシャの泣きそうになった顔を見てリリアは苦笑いしながら、やっぱりこの子大丈夫じゃないかも、と不安になった。
ーーー
「よし、全員集まったな!まず、お前たちには昨日の検査で人それぞれ得意な魔気がある事が分かっただろ。
そこで今からやる授業は魔気に慣れる事だ。
取り敢えず剣を持って、二人一組のペアになれ」
ニーナ先生の指示通りに生徒たちは2人組のペアを作っていく。
そこでタケルは先生に疑問を問いかける。
「ニーナ先生!俺まだ魔気の検査受けてねぇから魔気の使い方知らねえんだけど?」
「あっ……」
__そう言えば昨日、こいつを気絶させてからベットに放り投げてほったらかしだった。
ニーナ先生はとてつもなく面倒くさそうな顔をした。
「そ、そうだったな。じゃあお前は私と一緒に属性検査だ。
他の皆は昨日やったように魔気を剣に纏い、それを限界まで持続してみろ。
そして片方はよく相手の魔気の特徴を観察する事。敵の魔気を知っているか知らないかでは、戦い方が大きく変わるからな。これ結構大事だから」
そう言って生徒たちはさっそく実践に入る。
気付けばあちこちに様々な色を発する剣が現れ始めた。
「みんなすっげぇな~」
「タケル!何してる、さっさとついて来い!」
タケルはニーナ先生の後を付いていく。
A組がいる場所から少し離れた林の近くまで移動して行った。
「よし、じゃあこの剣を持ってみろ」
タケルはニーナ先生から渡された剣の鞘を抜く。
タケルが時折見せる、嬉しそうな顔は年相応というよりも、もっと幼い少年に見えた。
「じゃあまず目を瞑って肩の力を抜け、そんでもってリラックス出来たらお腹に力を溜めてみろ」
タケルは深呼吸をし始めたのちスムーズに自然体になり、腹に力を入れ始める。やけに自然体の入りだけはいいな、とニーナ先生は珍しく関心した。
「よし、じゃあその溜めた力を剣に……って」
タケルは先生の話している途中にも関わらず剣に力を込めていた。
「おい、話を聞け!!」
ニーナ先生の事などまるで聞く耳を持たないタケル。
直後、剣先からフワァっと赤いオーラが纏い始めた。
暫くの間、薄っすらと赤いオーラが刀身を包み込む。
大概の生徒たちは、この辺で魔気を持続するのが難しくなる。だが、そのオーラはやがて炎に変わりそして、更に大きく燃え始め剣先には白っぽい色が垣間見えた。
「何!?」
「あ、熱っち!!俺の剣燃えてる!?」
あまりの熱さにタケルは剣を地面に投げ捨てた。
「馬鹿者!!魔気を消してから剣を離さんか!」
「いや、この剣熱すぎだろ!こんなのずっと持ってたら火傷するわ」
林の近くではあったが、幸いタケルが投げた捨てた剣は土が多い場所だったので、火が林に燃え移る事はなかった。
剣の火はしばらく燃えつづけた後、ゆっくりと消えていった。
燃え切った剣の姿は丸焦げだった。
線香花火の最後みたいな虚しさが二人を襲った。
「……す、すいません……グラウンド走ってきます」
ニーナ先生は黒焦げになった剣を見て、深いため息をついた。
「今日はもういいから、皆の元に戻って魔気の持続稽古に参加しろ」
「え!?」
予想外の返答にタケルは驚く。
「マ、マジか先生!?なんかいい事でもあったのか?この後雪でも降りそうだな……」
ニーナ先生の目に殺気が灯る。
「お前、殺されたいのか?」
「いや……」
「いいからさっさと行けっええええ!!」
「あああぁあぁ……すいませんでしたァァアアア!!」
タケルは途中で何度か転んだが、無事に殺される事無く皆の元に戻って行った。
ーーー
私は、あのバカが皆の元に戻った事を確認し、その場にしゃがみ込んだ。
そして、地面に転がる黒焦げの剣をもう一度確認する。
あれ?
なんだこれ。
少し剣の状態がおかしいな。
黒焦げになった時点で状態がおかしいのは当たり前なんだけど。
何か黒く濁ってるな、なんだ。
私はもっと近くで確認しようと黒焦げのグリップを持つ。
おいおい、これ……もしかして溶けてないか?
剣先ニセンチくらいだけど、というより剣先が無いんだけど。
まさか、そんな馬鹿な事あるか。
まだ魔気の使い方もロクにしらないガキだぞ。
私は動揺を抑えるように、溶けたと思われる場所にそっと触れてみた。
固い、反り返る様に固まってるな。
でもいくら安物の剣と言っても、いちおう鋼なんだけどな。
でもあいつ、魔気の使い方なんか知らないって言ってたもんな……
はぁ、ひとまず頭を整理させよう。
まず、タケルのあれは間違いなく火属性だ。
いきなり炎が出た時は少し驚いたけど、魔気量が少し多い生徒にはよくある事だ。コントロールの仕方も知らないしな。
でも問題なのは、最後にタケルが熱いと言って剣を投げ捨てた時、一瞬刀身の先が白くなってた。
あれだ、あの現象が今のタケルに起きるのがおかしい。
結局、私はその答えを見つける事が出来なかった。
まぁ、たまたま魔気が暴走したって事もある。
それにしてもなんなんだよ、今年の新入生。
ただでさえ内のクラスは、リリアやローグの件も今年は抱えなきゃいけないっていうのに。
さて、どうしたものか。
私はいつの間にか空を見上げて神に祈っていた。
これから一年間、厄介事が起きませんように……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます