第4話「魔気属性検査②」


「よし、少し話は逸れたが魔気の属性検査に入る。順番はそうだなぁ……うーん、先にやりたい人いるか?」


 さっきからニーナ先生の言いぐさに多分A組の生徒は、だんだん分かってきていた。

 この先生は先から結構適当だと。

 周りにに気を使っているのか、一番目は恥ずかしくて誰でも行きたがらないのでキョロキョロとし始める。

 こんな時にあのアホが居たら、真っ先に手を挙げて行くんだろうなぁと頭の中で思うリリアも手を挙げられずにいた。


「それじゃあ……」


 とニーナ先生が誰かを決めようとした時、一人の生徒が前に出て来た。


「おっ、ローグやるか、それじゃあこの先生の剣を持ってみろ」

「はい」


 ローグは表情1つ変えず先生から借りた剣を片手で握った後、少し驚く。

 ニーナ先生が余りにも軽々しくと剣を扱っていたので、どうせ軽いんだろうと思いこんでいたが実際に剣を手にとってみると、思ったよりの重圧を感じた。


「よし、まずは目をつむり肩の力を抜いて剣を前に持ってこい」


 ローグは軽く深呼吸してから目を瞑り、両手で剣を握り、ヘソの上辺りに剣を前に持ってくる。


「そしたら、お腹に力を入れるようなイメージで、その状態を保ちつつお腹に溜まった力を同時に両手で握っている剣に注ぎ込むようなイメージで……」


 最初は難しくも感じたがローグはだんだんと感覚を掴んでくる。


「っ……っ……」


 そうすること数秒後、握り上部にある鍔の方から薄っすら煙のようなものが湧いてきた。


「よし、いいぞ!そのまま続けろ」


 そして気が付けばあっという間にローグの持つ剣全体には薄い青色をした氷が張り付いていた。


「はい、もういいぞ」


 ニーナ先生の合図で目を開けると、ローグは自分の握る剣の冷気に驚いていた。


「よく覚えておけよローグ!これがお前の得意な魔気だ。

氷属性は剣全体の切れ味が格段に上がるのはもちろん、氷を使った物理攻撃も可能になる。

逆に使い方によっては人を護る盾の壁だって作る事だって出来る」

「人を護る……」


 少し放心したような表情で剣を見つめ直したが、さっきまで覆っていた薄い氷の膜はもう残ってはいなかった。


「よし、大体のやり方は皆分かったな?こんな感じでどんどんやらないと日が暮れるかななぁ~ ほら次の人」


 一人目のローグが終わったのを皮切りに後は皆の緊張感が薄れたのか、順調に進んでいった。


「はい、次の人」


 ほとんどの生徒が順繰りに終えていき残りはタケルを抜いて女の子2人となっていた。


「わ、わたしは最後でいいからリリアちゃん先にどうぞ……」

「ううん、いいよ先にナーシャちゃんが行って」


 遠慮するナーシャの背中をリリアはポンと軽く押してあげた。


「わぁああ、す、すいません。わ、私やります」

「お、次はナーシャだな。よし、じゃあこの剣を持ってみろ」

「は、はいっ」


 先生が剣を渡そうと近寄ると緊張して震える左手で剣を握ろうとする。


「おっ、ナーシャは左利きなのか。珍しいな」

「は、はいっ」


 声が裏返りそうになりながらも剣を両手で握る。


「お、重いっ……」

「よし、では皆がやっていた通りにやってみろ!」


 ナーシャは目をつむり皆がやっていた動作を見様見真似で試みる。


「ナーシャ、力が入りすぎだ。もっとリラックスして肩の力を抜け」


 まだ緊張が取れないのか剣を握る手がカチカチっと震えている。


「ナーシャちゃん、落ち着いて!大丈夫だよ。きっと上手くいくから」


 後ろからリリアであろう人物の声が聞こえてくる。

 徐々に剣の震えが止まっていきその数秒後。

 ギュッと強く握られている握りの少し上にある鍔からヒューという音と共に薄い緑色の風が剣身を纏い始めた。


「お、ナーシャは風属性だな。もう目を開けていいぞ。はい、お疲れ」

「は、はいっ、あ、ありがとうございました」


 ナーシャはすぐさま剣を先生に返し、皆の所に戻る。


「お疲れ様。ナーシャちゃんは風使いか~うん。なんか似合ってるね、ピッタリだよ」


 リリアは満面の笑みでナーシャに語りかけた。


「そ、そんな事ないよ。それに私ただの検査なのに緊張しちゃって、リリアちゃんが応援してくれたお陰で少し落ち着いたよ。ありがとう」

「どういたしまして。それじゃあ次はわたしの番ね。行ってくる」

「うん、頑張ってねリリアちゃん」


 金色の髪が吹いた風になびかれ、太陽の光が当たり更に煌めく少女の姿はニーナ先生の前に向かっていった。


「これで最後だなリリア」


 リリアは先生から剣を受け取る。


「よし、やってみろ」

「はい!」


 リリアはもうクラスメイト全員の検査を、しっかりと目に焼き付けていたので手順自体は特に困る事もなかった。

 目を瞑り、肩の力を抜く。

 お腹に意識を集中し、その力を右手の神経に注いでいく。

 そして右手がじんわりと熱くなっていく。

 黄色い粒子が刀身を舞い始める。

 そしてフワァと眩しすぎる光がその場を包み込んだ。

 生徒達全員の視界が一瞬で真っ白になった。

 急に太陽をガン見させられた様なもので、生徒達は今何が起きたのか理解できなかった。


「な、なにが起きたんだ」

「なんなの、見えない」


 クラスメイトの皆が目を擦りながらリリアの握る剣を必死に覗こうとする。

 何故かニーナ先生だけはリリアの正面にいたのにも関わらず目を擦る仕草もなく、口元が笑って小さく何かを呟いていた。


「成る程ね……」


 そして皆の視界が慣れてきた頃、リリアの剣身から全体に纏っていたのは黄色と言うのにはふさわしくなく、薄く黄金じみた色のオーラが剣全体を纏っていた。


「OK、リリアもういいぞ。お疲れ」

「はい!ありがとうございました」


 リリアは軽く頭を下げ、ニーナ先生に剣を返す。


「それよりも、今の自分が見せた属性は分かるか?」

「い、一応何となくは……」

「そうか。まぁ今となっては珍しい光属性だな」


 クラスメイトがざわつく中の一人の生徒がニーナ先生に質問した。


「先生、このクラスには一人も光属性を持つ人はいませんでしたが、やはりそんなに珍しいものなのでしょうか?」

「うむ、そうだなぁ~まぁ率直に言えば珍しいのだが……」


 ニーナ先生はリリアに近づき耳打ちをする。


「リリアは他の皆にまだ話してないのか?」


 はにかんだ様子でこくりと頷くリリア。


「まぁ昨日の今日だし当たり前か。ではお前のタイミングで皆に話すといい」


 そう言ってニーナ先生は皆の前に戻る。


「まぁリリアの光属性は珍しいが、別に一人もいないって訳でない。今は魔気を使って戦うのが当たり前のご時世だ。

 お前たちに話した火・水・風・光・闇属性以外を持つ人間は結構いるものなんだ。

 お前たち中にも何人かいただろう、そういう奴。

 強者になったら複属性の魔気を持つ者もいる、逆に言い換えれば今持っている属性が成長する。上位進化する者もいるんだ」


 クラスの男子は多いにテンションが上がった。


「お、俺の魔気もいずれかは進化するのかもな」

「俺もいつか複属性の魔気を扱うスーパー剣士になるのかもな」


 などと、中二心をくすぐられた男子勢は盛り上がり始める。


「バカかお前たちは。そんなもの簡単になれる訳ないだろう。軍の中でも死闘を繰り返してやっと身につくかつかないものなんだ。

 大体な、お前たちみたいな何の実力の欠片もないやつが、戦場に出たら即死も同然だ」


 ニーナ先生の喝に勢いづいていた男子勢の顔から元気が消えていく。


「とにかく、今日はもうすぐ日が落ちる。

 明日からはかなりハードな授業になっていくだろうから夕食を済ませて、しっかりと休息をとって明日に備えること」

『はい!!』


 ニーナ先生に言われるまで驚きの連続であまり気づかなかったが、確かにお昼過ぎから始めたであろう真上にあった太陽は、オレンジ色の夕焼けとなってゆっくりと沈みこもうとしていた。


「それでは本日はこれにて解散!」

『ありがとうございました!!』


 ーーーー


 A組の皆は林間合宿一日目の開放感からか、

 和気あいあいとして宿泊施設に戻って行く。


「昨日の今日でなんだか色々が急だったから疲れたね~」

「そうだね。あ、そうだナーシャちゃん。一緒に夕食食べてからお風呂入ろっか」

「うん!あれ、でもなんか私、とても大事な事を忘れいるような……」

「忘れ事?まぁお風呂でも入ってたらきっと思い出すよ」

「そ、それもそうだね!」


 こうして林間合宿一日目のプログラムが幕を閉じた。

 そう、赤髪の少年あいつを残して。

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