第3話「魔気の属性検査①」


 向かいには緑が一面広がりあり、巨大な山が見えるその森林からは鳥のさえずる声が聞こえてくる。


「ここ本当に大自然で何もないんだなぁ〜 でも空気がうめぇ〜」


 などと今朝の遅刻とバスで怒られた事など、とうに忘れ子供のようにはしゃぎ背伸びをする赤髪の少年。


「よし、まず荷物を馬車から降ろしたら各宿泊部屋に置いてくるように。

 そこで運動着に着替えて三十分後にもう一度このグラウンドに戻ってくる事。以上、解散!」


 ニーナ先生の指示が終わり、A組の生徒達は木造で建築された千人は余裕で寝泊まり出来るであろう、宿泊施設に足を運んだ。

 見た目は横に長い校舎の様だった。


 男女ごとの部屋がズラーっと数え切れないほどあり、自分達の部屋を探すのも一苦労しそうなほどではあったが、幸いな事に各科ごとに塔が違う事や玄関ロビーに部屋割と地図が用意されていたので大きく迷う事はなかった。


「えーっと、俺の部屋はローグって言う奴と一緒なのか。どんな奴なのか楽しみだな」


 ヘヘッと少しにやけたような表情を見せるとタケルはすぐさま自室に向かっていった。

 そして長い廊下を歩きようやく自室の部屋の扉を見つけ勢いよく開けると。


「げっ!?」


 タケルの視界に入って来た人物は、ついさっきまでバスの隣りの席で喧嘩していたクールな少年だった。

 少年はベットに腰掛け、窓から見える景色を眺めていた。


「最悪だ……何でよりによってお前が俺の部屋にいるんだよ。

 部屋間違えてんじゃねぇよ!

 俺はローグって奴と一緒の部屋なんだよ」

「最悪はこっちのセリフだ。あいにくそのローグって奴だ」


 タケルは確かに銀髪の少年の名前をまだ知らなかった。というより何故かバスの時答えてくれてなかった事を忘れていた。


「お前と三日間ここで寝泊まりするとかどれだけ運が悪いんだよ、俺はクソッ」


 ボストンバックをやけくそに床に投げつけベットにダイブしたタケルは、表情一つ変えないローグにさらにため息をついた。


「お前、今から寝るつもりか?

 早く運動着に着替えてグランドに行かないと行けないというのに、やはり遅刻する奴は性根から怠けものなんだな」

「だぁれが寝るつったよ。お前は嫌味しか言えないなんてお前の性根も大概だな!」


 そんな2人の罵詈雑言のやりとりの最中ピンポンパンパーンとアナウンスが部屋中に響いた。


「え〜剣聖科1年に告ぐ。先程、各担任の先生から運動着を着用するようにと指示があったたら思うがプログラム変更によりサーコートを着用してくるように。

 集合場所は各クラス毎に異なるので一回目の指示があった場所に来るように、以上」


 アナウンスの声はニーナ先生による凛とした声だった。


「サーコートっていきなり実技戦とかやるのか?おいおい、いきなりお前をぶっ飛ばすチャンスじゃねぇか」

「やはりそんな幼稚な考えしか思いつかないなんて本当にバカだなお前は。そんな訳無いだろ、昨日の集会所の先生の言葉聞いて無かったのか?魔気の属性検査だろ」

「ま、魔気の属性検査?」


 ーーーーー


 三十分後。

 A組の皆はサーコート姿でグラウンドに集められ、ニーナ先生を待っていた。


「よし全員揃ったな!急な変更申し訳ないが今から魔気の属性検査に入る」

「えっ、?」

「実践じゃないのかよ……」


 先程のアナウンスで勘のいい子たちは気づいていたものもいるが、タケルと同様に全く何をするのかも分からない生徒も何人かはいた。


「そうだ、お前たち剣聖科に入学出来る条件の1つに魔気の相当量も含まれている。入学試験の時に剣に触れるだけの試験があったのを覚えているか?」

「そう言えば………」


 ちらほらと生徒たちのそんな声が聞こえてくる中、ニーナ先生は説明を続ける。


「試験の時は自分たちの魔気の相当量を調べさせてもらったが、今回はその自分たちはどの属性の魔気を得意とするかを知ってもらう」


 確かに入学初日の集会場でそんな事を言っていたような気がしたが、タケルは殆ど寝ていたので覚えていなかった。


「そこでだ、まずお前たちにはまず魔気について一から説明をしないといけない。えーっとそうだなぁ、よしタケル少し前に出て見ろ」


 いきなりの指名にに少し戸惑いながらもタケルは先生の前に現れる。

 そしてニーナ先生はいきなり腰にしまってあった剣の鞘をスッと抜いたと思った次の瞬間、タケルの首元に剣先があった。


「ヒッ!?」


 寸止めとは言え、その風圧と行動に生徒たち皆が唖然としていたが、一番驚いていたのは当のタケルだった。

 それもそうだ、一瞬でも間違えて先生に話しかけたり調子に乗ってむやみやたらに近ずこうならば今そこの地面に自分の首が転がっていてもおかしくはないのだから。


「なっ、何するんですか、、こ、殺す気ですか……」


 タケルは少し泣きそうに、いや泣いていたのかもしれないが声を振るわせながら問いかける。


「すまない、少し手荒すぎたか。いい方法が思いつかなかったんでな、ハハハ」


 ニーナ先生の美人の顔が少し悪魔のように微笑んだが、すぐに真面目な表情に戻る。


「と、とにかく先のは魔気を使っていない状態の剣技だとするだろう?」


 真面目な表情なのだが、何故か少し楽しそうになってきたんじゃないこの人ってA組の生徒の大半が思った。


「しかしだな、先のタケルに向けた剣に魔気が含まれているとだな…………」


 次の瞬間ニーナ先生の持つ剣全体にバチバチッ、バチバチッと紫電のようなものが纏っているのが見えた。


 まるで自然災害の落雷時にある、白く紫がかった細い線状のものが、小さくなって剣に纏わり付いている状態にも見えた。


「まぁ見て分かる通り、この状態で先の寸止めをすれば間違いなくタケルに首は吹き飛ぶ。決して剣先を体に当てずともな!」

「いや、いや、先生。なにそんな危ない事さらっと俺で試そうとしてるんですか……」


 タケルは少し青ざめたような顔になって、肩からブルブルと震えていた。


「いやぁ、そんな手荒な事は君にしかしないから他の子たちは安心するように!」


 タケル以外の生徒は、ホッとしたように表情で胸をなでおろした。


「お前たちは安心しないで、俺の心配をちょっとはしろよ!!」

「ヴッホン、と、とにかくだ。お前たちにまず分かって欲しいのは魔気を扱えるようになるだけで剣での戦い方は大幅に変わるってこと。

 だが、同時にそれは危険な場所に向かうイコール死ぬ確率が高まるって事だ」


 先生が最後に言い残した言葉に半数の人間が唾をのんだ。


「もちろん、この時代の戦いに魔気は必須だ。戦争や軍の任務に付けば必ずといって魔気を使った戦いになる。

 任務になれば戦術班や医療班の命も出来るだけ守って上げるのもお前たちの仕事だ」


 戦争や任務という単語はより生徒たちにはまだ実感が湧かない絵空事に聞こえた。


「しかし魔気だけに頼ると、いくら魔気量や技が優れようが剣技が劣れば間違いなく白兵戦で殺される。

まぁ、どうしても剣技が劣るならば魔気を上手い事使って、遠距離戦で戦う事も出来るが………それはまた別の機会の授業で」


 そしてニーナ先生は生徒たちに背を向ける。


「慣れてくればこんな事も出来る」


 と言い残し剣先を斜め上空に向ける。


「サンダーボルト!!」


 強めなニーナ先生のかけ声の直後、剣に纏っていた電気とは非にならないような稲妻が二十メートル先にある木を丸焦がしにした。


 拳銃を撃ったような後に出てくる硝煙を吹き付けるマネ事のように、フッと剣先に向かって口から息を吹きかけるニーナ先生の顔はどう見てもドヤ顔だったが、何よりも生徒たちの顔はドン引きだった。



「まぁぶっちゃけると魔気は本当に極めれば色々な使い方が出来るって事だ。

 それはおいおいやっていくとしよう。

 色々長くなったから最初に戻るとして、私は見ての通り雷属性の魔気を得意とする。

 そして魔気の種類には火・水・風・雷・光・闇など他にも様々な種類があって、軍の最前線で戦っている猛者たちの中には複数の属性を扱う人もいる」


 生徒たちは先程までドン引きしていたのも束の間、自分が何の属性を持つのか興味津々の表情になっていた。


「よし、それでは、今から順番に検査していくから!あ、あと忘れてたけど、タケルは遅刻したバツとしてグラウンド20周だから、ハイ、行った行った!!」

「えっ、えええええええええ!!」


 検査が始まるこの瞬間にクラスで一番目を輝かせていたであろうタケルは、今まさにこの人は本当にドS女教官だと心の中で泣きながら、グラウンドに走って行った。


「サボったらもう十周だからね!!」

「なんで今なんだよ~~!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る