第2話「いきなり林間合宿??」


 生徒達は、あまりにも唐突すぎる発言にざわつきを隠せない。


「うるさい、黙れぇえ!!」


 厳つい顔は更に凄みをましていく。


「これは青銀せいぎんの恒例行事だ!!

 これからお前たちは剣聖の軍団ラタリア軍に入って敵国や悪党集団デットロームたちと戦う為に即戦力になってもらうんだぞ!

 しっかり気を引き締めろ!」


 坊主頭の先生らしき人物が言ってる事は確かにその通りなのだが、予告なしに林間合宿はやりすぎだろうと思う生徒は多くいた。


「とは言ってもお前たちは所詮まだ学生だ。入学したばかりの右も左も分からない、自分の能力すらまともに扱えない。何も出来ないのは当たり前だ」


 図太い声が更に低く圧が増していく。


「この林間合宿の目的は三つある。

 まず一つ目、基礎体力の向上。

 これは剣聖科はもちろんだが、戦術科や医療科だろうとだろうと関係ない。軍に入れば自分の身は、自分で守らなければいけない」


 剣聖科は戦場で戦うのが仕事なので当たり前なのだが、戦術科や医療科の生徒達の表情は、あまり良いものではなかった。


「二つ目、自分たちの能力や役目を知る事。

 これは各科に分かれて専門的な基本を習う。例えば剣聖科は戦場になれば剣技だけでは強い敵には勝てない。

 もう知っていると思うが剣聖の軍団はというものを剣に宿して敵と戦う。その中で自分がどの属性の魔気が得意かとかな」


 リリアは魔気まきと言う単語を確かお母さんから聞いた事があったし、実際それっぽい試験もあった。

 そしてかつてお父様は魔気を使って戦場で戦っていたと。


「そして最後はチームワークだ。

 戦場において連携が何よりも大事だ。これが出来ない軍は統率力が無く、圧倒的に弱い。とにかく今回は同じクラスから少しずつ、チームワークを向上していけるように努力しろ!」


 リリアは、“チームワーク”という言葉を聞いて一瞬であのタケルバカを思い出した。


⦅あいつチームワークとか絶対守らないだろうな~⦆


「以上が林間合宿の三つの大まかな目的だ。

 荷物の用意や集合時間などの詳細は、この後クラスに帰ってから各自担任の先生に説明してもらう。以上解散!!」


 そう言って坊主頭の先生は、嵐のように去っていった。


 残された生徒たちはいきなりの現状に混乱し、理解するのに時間がかかりそうだった。

 しかし、そんな時間もほとんど残されていないのも事実だった。


 そしてA組の生徒達は、教室に戻りニーナ先生から明日のスケジュールや用意などの説明がされ、あっという間に入学初日が終わっていった。


 大きな不安を残して……


 ーーー


 入学二日目

 時刻は午前七時三十分。


 青銀学園校門前には、四両の大型の箱馬車が横一面に並んでいる。

 生徒は剣聖科A組とC組の生徒しか残っていない。


「よし、もう全員揃っているな?」


 今日もニーナ先生の凜とした声がよく通る。


「先生、タケルがいませーん」

「なに?」


 クラスメイトの一人が、すぐさまタケルがいない事に気づき、ニーナ先生に告げた。


 ――あのバカ、何してるの。

 とリリアは頭を抱えるような仕草で本来タケルが来る方向を眺めていた。


「あ、あ、あの………リリアさんですよね?」


 隣から突然自分の名前を問いかけてきたのは、黒髪が肩にかかる位のボブに赤渕のメガネをかけた少し気弱そうな女の子だった。


「は、はいそうです!!」


 タケルを除いてまだクラスメイトに、話しかけられた事すらなかったリリアは、少し声が裏返りそうになりながら返事を返す。


「い、いきなり話しかけてごめんなさい、そ、そのリリアさんは、あの……タケル君と仲が良さそうなので何か知っているんじゃないかと思って……」


 気弱な少女からタケルというワードが出てきた事に少し驚く。


「あ、あいつ?あいつは仲が良いとかとかそんなんじゃなくて昨日クラス発表の前にたまたま知り合っただけだから、アハハ、アハハ」


 金色の髪をくしゃくしゃ掻きながらリリアは苦笑いで誤魔化した。


「そ、そうだったんですね…」


 気弱そうな女の子は何かに安堵するような表情を見せた。


「あの~あなたのお名前は?」

「ご、ごめんなさい。そうですよね。いきなり自己紹介もせずに失礼なことを聞いて!!」


 何度も頭を下げ謝るような様子を見せる。


「わ、私はナーシャって言います。あ、あのよろしくお願いいたします!!」

「ナーシャさんね。同じクラスなんだから敬語じゃなくて大丈夫だよ。よろしくね」


 リリアはニコッとした笑顔をナーシャに向ける。


「あ、あの私の事も呼び捨てで大丈夫です。そ、そのリ、リリアちゃん……」

「うん。じゃあよろしくねナーシャちゃん」

「は、はい!!」


 リリアにとって初めて、まだ少し友達と言うのにはまだ早いかもしれないがとクラスメイトと仲良くなれた気がした。

 そうしている間についにC組の箱馬車が先に行ってしまった。

 ニーナ先生の足の揺さぶりが止まらない。


 そんな最中、町側の方から全速力で走ってくる人の姿が見えてきた。


「うおおおおおおおお!!セーフ!!」


 赤髪の男は校門まで急ブレーキをし両手を横に広げ、息を切らしていた。


「何がセーフだ!!とにかくお前のせいでA組は一番最後に馬車を乗る事になった。向こうに着いたらグランド二十週!!」


 タケルはその後も、あと五分遅れていたら完全に置いて行ったとか、お前二日目なのにいい度胸してるなとかニーナ先生にさんざん脅されていた。


 大型の箱馬車には二十人乗せる事が可能で、A組は二つの班に分けて山に向かう事になった。


 そんなこんなでようやく馬車に乗り込む事になり、いよいよ三日間の林間合宿が始まろうとしていた。


 ーーー


「あ、リリアちゃん、隣なんだね、良かったぁ~」

「ナーシャちゃんが隣かぁ、よろしくね」


 先程仲良くなったナーシャちゃんと仲睦まじく話していると、前の席からリリアは嫌な視線を感じた。


 ジーーーーーー


「なに?先からジロジロ覗かれて気持ち悪いんだけど……」

「いやぁ、お前に仲のいい人がいるなんて知らなかったからなぁ~」


 タケルはさっきまでの反省などとうに消え去った様子で喋りかけてくる。


「わ、私だっているんですぅ!この子はナーシャちゃんっていうの、どこかのお馬鹿さんが遅刻してハァハァ息切らしながら走ってる間にあいつ馬鹿だねぇって言ってたら仲良くなったの、フン!」


 何故か自分でも分からないがタケル相手だとついムキになってしまうリリア。


「お、同じクラスのナーシャです。よ、よろしくお願いします!!」


 ナーシャはどさくさに紛れて、聞こえたか分からないくらい小さな声で挨拶した。


「誰がお馬鹿さんだよ、しかも俺は息なんか切らしてねぇし。遅刻も知らないおばあちゃんに道教えてたからだし。あ、俺はタケル、よろしくなナーシャ」


 赤髪の男は前にリリアに見せたニッという顔を作ってナーシャに振り向く。

 ナーシャは少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


「と、とにかくナーシャちゃんにはあなたみたいな人は悪影響でしかないからあまりヘンな事言ったりしたら許さないから!」


 いえ、そんな事は、と小さな声で呟くナーシャの言葉はタケルには聞こえない。


「何が悪影響だよ。これだから女は味方作ったらすぐに顔色変えやがる。あぁあ女は面倒くさいねぇ~お前もそう思うだろう?」


 タケルは拗ねたように口先を尖らせながら、隣の席に座る見た目はいかにもクールで少し目つきが鋭く銀色の髪にピアスが目立つ男に話しかけた。


「…………………」

「いや、お前もそう思うだろう?」


「…………………」

「いやなんでフル無視?聞いてる?もしもーし聞こえてますかー?」


 タケルは無視し続ける少年の顔の前に手を振る。


「黙れ」

「はぁぁあ?お前いきなり黙れとか何なの?」

「黙れと言っているだろが。聞こえないのか。あと、俺にあまり喋りかけるな」

「いやいやお前何なの?初対面の相手に何その態度??」


 クールな少年はいかにも嫌がるような態度をとった。


「お前みたいなバカと喋っているとバカが移る。ただそれだけだ」

「だぁれがバカだよ、こらぁぁあ!!」


 タケルは怒りをあらわにしバスの座席に膝立ち上から少年を見下ろす。


「タケルうるさいぞ!もっと静かに出来んのか貴様は!!」


 あまりの騒がしさにニーナ先生の怒号が飛んできた。

 周りの皆はもう二日目にして慣れたのか、それとも呆れているのかは分からないが、恐らく両者なのかもしれない苦笑いだった。


「そもそもお前みたいな周りの事を、何一つ考える事が出来ない男が、本当に剣聖になれるとでも思っているのか?

 お前みたいなやつは戦場でも真っ先に死んで足しか引っ張らないタイプだ。軍に入る事すら出来るわけがないだろ」


 銀髪の男は冷静すぎるほどの目つきで外の景色だけを見つめ、タケルなど一切相手にしなような口ぶりだった。


「お前に何が分かるってんだよ!じゃあお前は剣聖になれんのかよ、に」

「なれるか……なれるかじゃなくてなるんだよ……」


「……っ……お前いちいち人をムカつかせるタイプだな」

「お前程ではない」

「…………っあああムカツクこいつ!お前、名前なんていうだよ!」

「……………」

「いやいや、バカに名乗る名前なんか無いってかぁ?」

「バカという自覚はあるんだな」


 フッと人を馬鹿にしたよにクールな少年の口元が釣りあがる。


「あぁぁああ!! お前、ほんとにムカツク奴だなあ!」

「それはこっちのセリフだ」

「あぁ!!お前またぁぁあ!!」


「うるさいぞタケル!!グランド三十周にされたいのか!!」


 先程よりニーナ先生の声に凄みが増していた。


 そうしてニーナ先生の怒声と共に、剣聖科A組の馬車は着々と山の麓に進んでいった。

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