弍、「久しいと、美月」
淡月とは、これ如何に。そう自嘲し、背後を見た。
すると、一人の少女が、口角を盛大に上げて笑っていた。
「……何?」
彼女は、知り合いの美月だった——
「はははッ! 面白いことを言うなぁ?」
正に男性とも間違われる口調で喋るその女性は、私へと近付いてきた。
そして、一つ。囁いた。
「……久し振り……だろう?」
「黙れ、美月」
「ははッ! 相変わらず冷たいな友よ!」
傍から見れば、私が冷たいと感じるであろうが、私はこの女にされた事を、一生忘れない。
「まあまあ、あんなちっぽけなことは忘れておけ。今は久しい再開を祝おうではないか。」
「……ちっぽけなんかじゃない」
正直、この美月という私と同い年の少女は嫌いだ。溜まりに溜まった鬱憤を言えばキリがないが、そもそもこの少女の全身から溢れる異様な雰囲気が、私は嫌いだ。
普通の人間とは思えないような異質の雰囲気を醸し出させているこの少女は、何を考えているかがまったく分からない。目的さえも、読めない。
正に、意味不明、という言葉が似合う少女である。
「そういえば、何故貴様は月に心を通わせるのだ? あそこまで魅入るというのは中々だぞ?」
「……黙れ美月。大嫌いなお前に月が入っていることが許せないんだ」
「……それは、姫月か?」
直球で残酷な質問だ。それに対し、私には黙り込むことしかできなかった。
「どうした? 姫月がどうかしたか?」
そして、トドメの言葉を言う……と思っていたら、
「……いや、すまんな。度が過ぎた」
唐突に謝罪の言葉を放った。
「……お前は変わったのか?」
その行動に違和感を覚え、その違和感の解消のために尋ねた。
すると、一瞬顔に暗い表情を浮かべ、だが直ぐにいつもの偽の笑顔に取り繕った。
「やだなぁ。私は前のままさ」
「……そうか」
そいつは、少しバツが悪そうにして、背中を向けた。
そうして、背後からでもわかる異質な雰囲気に加え────
──少しばかりの哀愁を漂わせ、去っていった。
美月は、何も分からない。
だから、美月なのであろう。
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