姫月は嗤う

霧零

壱、「────淡月」

「日本古来から重宝される、墨。それを、何とも素晴らしきもの、と私は表現する。

墨は、書写や書き初めだけでなく、絵等にも使われる。


私は今回、絵での墨に着目した。


絵での墨は、白と黒二色だけのつまらないものと思われがちだが、実際はそうではない。

水と墨の配分によって、墨は形を変える。

水が多ければ墨は薄く灰色に近づき、最後には白になり、墨が多ければ黒色が増す。

そうした色の組み合わせは、二つの色に水も加えれば、正に無限大とも言えるほどに増える。

更に毛筆特有の柔らかさに比し軟らかさ、速さに対し遅さ、風に同じく雨などの、非常に沢山の表現を可能にしている。」


そのような文献を発見し、直ちに外へ出た。

家屋の中とは大違いな程の、澄んだ空気。

上を見れば、周りの光に邪魔され星は映らず、月が光り輝いてるものかと思ったが。


まるで、先程の文献の墨のように、淡さや物悲しさ、そこに隠れた笑顔を垣間見ることが出来る。

私はその月を、「淡月」と呼んだ。

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