第3怪 猿夢
私は、夢を見ていました。
私は時折、夢の中で自分が夢を見ていると自覚する時がありました。
いわゆる覚醒夢というやつです。
この時もそうです。何故か私は薄暗い 無人駅に一人いました。
ずいぶん陰気臭い夢だなぁと思いました。
すると急に駅に精気の無い男の人の声でアナウンスが流れました。 それは
「 まもなく、電車が来るで。その電車に乗ると、お前らは恐い目にあう。」
と意味不明なものでした。 まもなく駅に電車が入ってきました。
それは電車というより、よく遊園地などにあるお猿さん電車のようなもので
金髪マッチョ、おかっぱ頭、イケメンな中年、顔の長い男が一列に座ってました。
私はどうも変な夢だなと思いつつも、自分の夢がどれだけ自分自身に
恐怖心を与えられるか試してみたくなりその電車に乗る事に決めました。
本当に恐くて堪られなければ、目を覚ませばいいと思ったからです。
私は自分が夢をみていると自覚している時に限って、自由に夢から覚める事が
出来ました。
私は電車の後ろから3番目の席に座りました。辺りには生温かい空気が流れていて、
本当に夢なのかと疑うぐらいリアルな臨場感がありました。
「 出発します~」とアナウンスが流れ、電車は動き始めました。
これから何が起こるのだろうと私は不安と期待でどきどきしていました。
電車はホームを出るとすぐにトンネルに入りました。
紫色っぽい明かりがトンネルの中を怪しく照らしていました。
私は思いました。
これは子供の時に行った遊園地のアトラクションと一緒だ。
ちっとも怖くない。
とその時、またアナウンスが流れました。「 次は活けづくり~活けづくりです。」
活けづくり?魚の?などと考えていると、急に後ろからけたたましい悲鳴が聞こえてきました。
振り向くと、電車の一番後ろに座っていた男の人の周りに四人のぼろきれのような物をまとった小人がむらがっていました。
よく見ると、男は刃物で体を裂かれ、本当に魚の活けづくりの様になっていました。
強烈な臭気が辺りをつつみ、耳が痛くなるほどの大声で男は悲鳴をあげつづけました。
男の体からは次々と内臓がとり出され血まみれの臓器が散らばっています。
私のすぐ後ろにはおかっぱ頭の男性が座っていましたが、彼はすぐ後ろで
大騒ぎしているのに黙って前を向いたまま気にもとめていない様子でした。
私はさすがに、想像を超える展開に驚き、本当にこれは夢なのかと思いはじめ
恐くなり、もう少し様子をみてから目を覚まそうと思いました。
気が付くと、一番後ろの席の男はいなくなっていました。
しかし赤黒い、血と肉の固まりのようなものは残っていました。
うしろの男性は相変わらず、無表情に一点をみつめていました。
「 次は~タイキック〜タイキックです。」とアナウンスが流れました。
すると今度はムエタイの達人が現れ、うしろの長い顔の男を思い切り蹴りました。
さっきまで、無表情だった長い顔の男は、痛みの為ものすごい形相に変わり、
私のすぐ後ろで悲鳴をあげました。
すると、おかっぱ頭の男性や金髪マッチョの男性が笑いを堪えているように
感じました。こんな状況で笑えるのか?これ以上付き合いきれません。
しかも、順番からいくと次は3番目に座っている私の番です。私は夢から
覚めようとしましたが、自分には一体どんなアナウンスが流れるのだろうと思い、
それを確認してからそ の場から逃げる事にしました。
「次は蝶野~蝶野です~」とアナウンスが流れました。最悪です。
どうなるか、容易に想像が出来たので神経を集中させ、
夢から覚めようとしました。(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)
いつもはこう強く念じる事で成功します。
急に「ガッデム」という蝶野の音が聞こえてきました。
今度は蝶野が私の顔に検査機みたいな物を近づけてきました。
たぶん私をビンタするのだろうと思うと恐くなり、
(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)と目を固くつぶり一生懸命に念じました。
「 ウイーン 」という音がだんだんと大きくなってきて、顔に風圧を感じ、
もうだめだと思った瞬間に静かになりました。
なんとか、悪夢から抜け出す事ができました。
全身汗でびしょびしょになっていて、目からは涙が流れていました。
私は、寝床から台所に向、水を大量に飲んだところで、やっと落ち着いてきました。恐ろしくリアルだったけど所詮は夢だったのだからと自分に言い聞かせました。
次の日、楽屋で会う友達全員にこの夢の話をしました。
でも皆は面白がるだけでした。所詮は夢だからです。
それから1年間が過ぎました。月亭方正になった私はすっかりこの出来事を忘れ
落語なんぞに勤しんでいました。 そしてある日、急に始まったのです。
「 次はタイキック~タイキックです。」あの場面からでした。私は
あっ、あの夢だとすぐに思いだしました。
すると前回と全く同じでタイ人があの男性の尻を蹴り飛ばしています。
やばいと思い (夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)とすぐに念じ始めました。。。。。。
今回はなかなか目が覚めません。(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)。。。。。。。。
「次は蝶野~蝶野です~」
いよいよやばくなってきました。蝶野が近づいてきます。
(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ、覚めてくれ)
ふっと静かになりました。どうやら何とか逃げられたと思い、
目を開けようとしたその時、
「 邦正、アウト~」とあのアナウンスの声がはっきりと聞こえました。
次の瞬間、思い切りビンタをされ、私は気を失いました。
それから、現在までまだあの夢は見ていませんが次に見た時にはきっと
心臓麻痺か何かで死ぬと覚悟しています。
こっちの世界では心臓麻痺でも、あっちの世界はビンタ地獄です。。。。。。
崩壊カイダン 空野雷火 @contowriter
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