第21話 新たなる同僚
「どっせい!!」
「ふはははっ! さすがオリハルコン! 相手にとって不足なし!!」
『女神の加護を受けた拙者とリュカン氏を相手にここまでやるとは、アッパレでござるゴルフリート氏!!』
「ちょっと皆さん! もっと手加減してください!!」
ゴルフリートとリュカン・エクスカリバーの決闘は熾烈を極めた。
木々をなぎ倒し、民家を大破させ、通りがかっただけの村人を吹き飛ばす。
人外同士の戦いは、周りへの被害を拡大させるだけでなかなか決着を見なかった。
「無駄ですサトー。お父さんはバトルジャンキーですから、多分聞こえてすらないと思います」
「しかし、ゴルフリート殿を相手にこうまで拮抗するとは、リュカン……と言うよりエクスカリバーの実力は尋常じゃないな」
女神チートを与えられし召喚者。
その実力はチートと呼ばれるだけあって反則級だ。
その中でもエクスカリバーはかなり上位に入るチート能力を持つ
『
とか言う、多分ルビと日本語が合致していないスキル。
自分が考えた能力を具現化すると言う、はっきり言って何でもありな能力を持つ。
むしろそんな相手に一歩も引かない、オッサンの方が異常なのだろう。
「これ以上公共物に被害を与えた場合、中央に要請して捕縛対象になってしまいますよ!」
「中央が怖くて冒険者やってられるか!!」
「そんな者たちでは我を止めることなど叶わぬ!」
『サトー氏! 中央から派遣する冒険者は美少女を希望するでござる!』
ダメだこいつら話し聞かねぇ。
次々と破壊されていく村。
オッサンに修繕費要請するにしても、中央への報告は避けられまい。
全然俺の失態ではないのだが、あのドS上司は『減棒!』と怒鳴り散らすことだろう。
先日のアグニスの一件ですでに相当な給与カットが行われているため、これ以上給料を下げられると、むこう1ヶ月はもやし生活に突入してしまう。
頭痛にこめかみを押さえていると、いつの間にやら木の上から降りてきたパプカが一歩前に出た。
「仕方ありませんね。わたしが一肌脱いであげましょう。今度の飲み会はサトーのおごりですからね」
「……そのときに私の財布が無事だったならおごりましょう」
パプカは気を良くしたのか、フフンと笑ってから息を大きく吸い込んだ。
「お父さん! これ以上調子に乗ると、お母さんに言いつけますよ!!」
実は何度か聞いたことのあるパプカの魔法の言葉。と言うか鶴の一声?
直後、青ざめたオッサンの拳がリュカンの顔面にめり込んで、彼は吹き飛んだ。
「りゅ、リュカンさーん!?」
頭から地面へ激突したリュカンはそのまま動かなくなり、一方のオッサンはリュカンに目もくれずにパプカの元へとやってきて――――土下座した。
「頼むパプカ! それだけは止めて!!」
「アンタどんだけ奥さん怖いんだよ……」
オッサンの表情は恐怖で染まり、パプカはその姿を見て満足したのか、視線を俺に移してドヤ顔で親指を立てた。
* *
『減棒』
「なんでですか!!」
中央のドS上司に連絡を入れて事情を話すと、想定していたとおりの発言が飛び出した。
しかしこちらも生活がかかっているため、反論しておかないといけない。
「ちゃんと被害は最小限に留めました。確かに彼らの被害は小さくないですが、ゴルフリートさんには被害の修繕費用を払ってもらいますし、リュカンさんには無給で修繕に協力するように取り付けたんですよ?」
『ええ、そうね。確かにそのあたりの対処は問題ないわ。でも問題はそこじゃないのよ』
「……と言うと?」
『例の転生者のことよ。アンタ――私にそいつのこと黙ってたわね?』
例の転生者とはエクスカリバーのことである。
ジュリアスの一件のとき、俺はやつを簀巻にして滝に捨てた。実はその際、中央へ報告はしていない。
一応の言い訳として、直後にコースケが街へ来襲したため、報告書を作成する暇が無かったというのもあるが、書類は燃え尽きて提出はできず、ジュリアスや俺とルーンに精神的ダメージを受けた以外、被害がなかったのだから問題ないと考えたのだ。
『ま、前の街での出来事の報告自体は別に問題ないわ。形式上、そっちで決済できてるわけだしね。でも、せめてその召喚者の存在は報告すべきだったわ』
「も、申し訳ありません」
『中央は結構召喚者の扱いにピリピリしてるのよ。できるだけ情報を管理して、不測の事態に備えたいわけ』
「不測の事態……ですか?」
『キサラギのおバカの件もあるから神経尖らせてんのよ。だから、召喚された人間はある程度の監視対象になってるわ。アンタや私もね』
それはちょっと初耳です。
もしかして今こうやって働いている最中も、誰かから監視されているのだろうか。
「でも流石にこれ以上減棒というのは……」
『あ、さっきのはノリで言っただけ。アンタの給料はこれ以上は下げれないほど最低給になってるから減棒は無理ね』
「ちょっと! 今どんだけ下げられてるんですか!!」
次の給料明細を見るのが怖い。
『ともかく、ジュリアスのときと同じように『
前回の通り、エクスカリバーはリュカンと契約書での契約をしていた。
今度は完全に両者合意のもとでの契約だったため、リュカンは破棄したがらなかったが、流石にこのままトラブルの元凶を放置して置くわけにも行かず、没収という形で強制破棄させることになったのだ。
もちろん、あのすごく恥ずかしい詠唱を再びルーンとさせられる羽目になった。
大変に遺憾である。
でもあれをやらないと効果を発揮しないんだよなぁ。誰が考えたんだ、アホか。
パプカの話では詠唱は必要ないらしいが、逆に詠唱を必要とする魔法もあるそうで、
「でもあれをやると書類が燃えてしまって、もう手元にないんですよ」
『燃える……? あれはそういった魔法じゃなかったはずだけど……まあいいわ。文面の控えは保管してあるんでしょう? それを送ってちょうだい。あ、判子の印だけは押しておいてね』
「わかりました。次の郵便で配送します」
『けど、その召喚者の話、聞けば聞くほど規格外よね。曲がりなりにもオリハルコンと渡り合ったんでしょ?』
「最終的には負けてしまいましたけどね。確かに、後衛職のリュカンさんをあれほどまでに強くするというのは聞いたことがありません」
獣人がいかに身体能力に優れていようが、リュカンは後衛職である。
これがゴールドランクやプラチナランクなどの前衛職であれば、もしかしたらオッサンを凌駕してしまうのではなかろうか。
『よほど使い手と相性が良かったのね。何か共通することでもあったの?』
「両方共オタクです」
『……ちっ! これだから召喚者は』
アンタも召喚者だったはずだがな。
「ではそろそろ仕事に戻ります。ルーンにすべて任せてる状態なので。あと、こちらの支部の人員をもっと増やしてください。ワンオペは嫌です」
『前向きに考えて善処しとくわー』
絶対やる気ねぇなこいつ。
『あ、忘れてた。その召喚者のことだけど、処遇を言い渡しておくわ』
処遇? 中央のドS上司あてに着払いで配送してやろうと思ってたのだが。
『そっちの支部で保管しておいて。ちゃんと目のつくところに置いておくこと』
「――――は?」
* *
『サトー氏、おはようでござる! 今日も一日労働に励もうではないか!』
「お前は黙るということを知らないのか」
ドS上司によるエクスカリバーの処遇。
結果として、エクスカリバーは俺が管理するギルド。
その壁に装飾品のように飾られることになった。
武器とは言え、一応の召喚者。つまりは生きた人間である。
その為形式的ではあるが、ギルド所属の事務職。俺の同僚という扱いになったのである。
もちろん、剣に事務の仕事が出来るわけがない。
その為、『超強力な武器の貸出』という意味不明な役割を押し付けて、ギルドで管理することになったのだ。
こんなウザい武器を借りる奴など、リュカン以外にはいないため、実質彼専用の武器としてその役割を果たしていた。
「くそう、なんでこんなことに……ジュリアスがいない間まで俺のストレスは溜まるのか」
『元気出すでござるサトー氏。いつかきっと良いことがあるでござるよ』
「だから元凶のお前が言うな!」
壁にかけられているがゆえに、仕事中否が応でも目に入る。
加えて他の冒険者に避けられているため、絶えず俺に向けて話しかけてくるのだ。
仕事中にオタク談話などやってられるはずもない。
どんなに無視していても、めげずに話しかけてくるものだから、ツッコミだけで体力が持って行かれてしまうのである。
「またせたなカリバー氏。今日も一日、この世の深淵について語り合おう」
『おお、リュカン氏! おはようでござる!』
おまけに毎日リュカンがギルドにやってくる。
仕事を受けることは少なく、大半はエクスカリバーとオタク談話をしにやってくるのだ。
毎日毎日、ご苦労なことである。
「凡俗なる民よ。今日は久しぶりにクエストを受けようと思う。何か良い依頼はあるか?」
「エクスカリバーを装備していただけるのなら、プラチナランクのクエストがありますね」
『うむ! 拙者たちのベストコンビにはちともの足りぬでござるが、たまにはそういったクエストでも良いでござる』
「我らが力、思う存分発揮させてもらおう」
この二人ならば、ミスリルランクの仕事すらこなせるだろうが、形式上リュカンはブロンズである。
プラチナランクですら、かなり特殊な手続きを経てクエストを受けさせているのだ。
あまりに高ランクの仕事を任せてしまうと、慣れていない分思わぬ形でクエストを失敗する可能性があるとの中央の判断である。
でも、その内コースケみたく、特別処置が取られるかも知れない。
召喚者の中でも更に特別な存在。認めたくないが、それがエクスカリバーなのだ。
リュカンはエクスカリバーを手にし、書類にサインを書き込むと、早速ギルドを出ていった。
俺はギルドの入り口で彼らを見送る。そしてその背中へ、塩を撒きながらこう叫ぶのだった。
「二度と戻ってくんな!!」
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