第12話 番外編 ちなみに俺はウインナー
※番外編につき、時系列が違います
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中央から離れた片田舎。
東の国境の中継地点として小規模で存在するその街は、主要産業を冒険者ギルドと冒険者による消費によって賄っていた。
人口が少なく産業が育ちにくい街や村などは、冒険者に頼った産業構造をしていることが多い。
今日、ギルドの権限が強い理由の一端である。
この街の特徴は3つ。
冒険者ギルド、協会。そして銭湯である――――銭湯?
「なんで銭湯? ここ、異世界だよな?」
見上げるのは昭和の趣をそのまま残す銭湯である。
中央で過ごしていた頃は、風呂と言えば石造りでライオンの口からお湯が出るのが普通だった。
あちらこちらで日本風の物件や物を見かけはしたものの、ここまで周辺の風景と合致しない不自然な建物は初めてだ。
これからお世話になるギルドへの挨拶も済ませ、俺は新しい我が家に向けて歩みを進めていた。
ギルドからやや離れた一軒家。
安月給の事務職員でも借りられるほど安い家賃のその家は、屋根に穴が開いているわけでもなく、壁がはがれているというわけでもない。
なぜそんな低価格設定にしてあるのかと、首をかしげたくなるほど立派な家だった。
これほどいい家を紹介してくれたのは我がドS上司。
――あのサディスティック女王にしては気が効くじゃないか。
てっきり俺は誰も使わない呪われた幽霊屋敷みたいなのを想像していたが、さすがに就職記念にそこまで鬼畜な所業をするやつではなかったようだ。
中央から持ってきた荷物も家の前にきちんと積み上げられている。業者さんは俺より先についていたのだろう。
「さて、まずは荷物の運び入れだな」
「…………あのう」
いざ作業をしようと腕まくりをしたとき、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、ふわりとした白みがかったクリーム色の髪の毛をおさげに肩にかけ、透き通るような声を特徴に持つ女の子がいた。
「えっと…………」
「始めまして。新しくギルドに来られた方……ですよね? 私、ギルドの受付をやっています、ルーン・ストーリストと言います。引っ越しのお手伝いに来ました」
「ああ、新しく来たサトーだ。こちらこそよろしく――あれ? でも今日ギルドに挨拶に行ったときは居なかったような……」
「その……とある理由からここ数日閑古鳥が鳴いていまして。人数もいらないので何人かは休日になってるんです。ちょうどいいのでお手伝いをと…………あの、ご迷惑でしたか?」
馬鹿な! 街に来て可愛い女の子が出迎えてくれるなんてご褒美以外の何物でもない。これからお世話になる同僚兼、もしかしたらいい感じの関係になれるかもしれない恋人候補。
これを迷惑と吐き捨てる人間が居たら見てみたいものだ。
「いや、すごく助かるよ。さすがに引っ越し作業を一人では大変だと思ってたから」
俺のその一言に、「良かったぁ」とホッと胸をなでおろすルーン。
なにこの子、可愛い。
「けどサトーさん、よくこの家に住もうと思いましたね? もしかしてサトーさんって強力なプリーストなんですか?」
「……は?」
「この家、ずいぶん昔に堕天したプリーストが所有していた物件で、今もその呪いが残ってて強力なゴーストがたまるスポットになってるんですが……業者の方から聞いてないんですか?」
幽霊屋敷だった。
聞いてないも何も、この家を手配したのはあのサディスティック女王。『大丈夫大丈夫! ぜーんぶ私が手配しておくから安心して! ほら、就職祝いってことで!』と言われて全部任せてしまった俺を呪いたい。あいつが関わったことでプラスに働いた出来事があったかを考えればすぐにわかることだろうに。
「……それって、住んでる人間に何か悪影響とかあるのか? 具体的にその……ケガをするとか、病気になるとか」
「確か、数年前にハイプリーストのジョブを持つ冒険者の方が住んだことがありますが……住み始めて三日後には冒険に出て行方不明になっていたはずです」
死に直結してんじゃねぇか!!
ていうかハイプリーストって、副司祭レベルの上級ジョブだぞ!
それでもダメってどんだけ強力な幽霊屋敷なんだよ!
俺は積まれた荷物をかき分け、私物である念話機を取り出してすぐさまあのろくでもない上司に念話をかけた。
『はい、鬼畜なドS上司です』
「どこで見てやがるてめぇ! つかふざけんな! なんつー物件紹介してくれてんだ! 殺す気か!」
『キャンキャンうるさいわよアンタ。でもその様子だと家に着いたのね? で、ご感想は?』
「殺意が沸いた」
『やったぜ☆』
なんでだよ。
滅茶苦茶楽しんでんじゃねぇかこの女。語尾に星マークつけてくれやがった。
一体どうやって発音しているんだ。
『と言う冗談はさておいて、大丈夫よ安心しなさい。何もそんな危険な場所に面白半分で送り出したりしないわ。アンタ、私がそんな女に見える?』
「見える」
『――ちょっと私に対する認識を詳しく聞く必要がありそうね。次の給料査定、覚悟しておくといいわ――――で、その家のことだけど、アンタの荷物の中にとあるアイテムを入れておいたわ。多分念話機と一緒の箱だから見てみなさい』
俺は言われる通り、念話機が入っていた箱の中を見渡した。
そこには見慣れない木箱が入っており、彼女が言っているのはこれのことだろう。
恐る恐る木箱を開くと、そこには一枚の紙きれが入っていた。
呪
そんな一文字が書かれているお札だった。
『呪い返しの札よ。身に着けていればどんな強力な呪いでも完全に跳ね返してくれるわ。四六時中身に着けておかなければならないけど、その分効果は抜群よ』
「マジかよ、呪殺用の札かと思った。持ってるとむしろ呪われる類の札だろ」
『なによさっきから文句ばっかり。この私が信じられないって言うの?』
「うん」
『給料査定』
「ごめんなさい」
もう泣いても良いよね。
「つーか、こんな札を用意するくらいなら普通の家を紹介してくれよ。わざわざ遠回りだろこんなの」
『何言ってんのよ、それじゃ私が面白くないじゃない』
やっぱりそれが目的なのかよ!!
念話機を切ると、ルーンが憐みのまなざしをこっちに向けていることに気がついた。
やめろよ! 俺をそんな目で見ないでくれ!
「ま、まあ……一応のアイテムもあることだし、とりあえず荷運びだけでも済まそうか。何枚かあるみたいだし、一枚ルーンにやるよ」
「あ、ありがとうございます……」
* *
男の一人暮らし、かつ中央では寄宿舎暮らしだったこともあり、運び入れる荷物は大した量はない。
大した時間も経たず、すべての荷運びは完了した。
しかし、むしろ大変なのはこれからだろう。外見はどうってことなかったが、中はほこりにまみれたひどい状態だ。
「ちょっと待ってってくださいね。窓を開けて…………っと、”ウインドブレス”!」
ルーンが魔法を詠唱すると、部屋の中の大量の埃が捲き上げられて窓の外へと飛ばされてゆく。
しかも驚くべきことに、部屋で強力な風が巻き起こっているにもかかわらず、俺やルーンには全く埃が当たっていなかった。
”ウインドブレス”は上級の補助魔法である。
通常の攻撃魔法である”ウインド”の上位互換で、ち密な風のコントロールが必要なため、上級職の魔法使いでも才能がなければ使えない魔法だ。
通常は仲間が放った炎系の魔法に補助を加え、炎を巧みに操作したり威力を上げたりするものなのだが、使い方を考えればこんなこともできてしまうらしい。
「凄いなルーン。”ウインドブレス”なんて、すごく難しい魔法なんだろ?」
「えへへ……これでも一応ゴールドの冒険者ランクを持っているので」
ゴールドランクと言えば、一流の冒険者と呼ばれるに足る実力者だ。
これほど高ランクな人間がギルドの事務職員として在籍しているのは珍しい。
「俺は魔法関係はサッパリだからなぁ。やっぱ派手な魔法が使える人って憧れるんだよ。ランクもブロンズだし」
「憧れなんて…………私は小さなころから冒険者の両親と一緒に各地を回ってましたから、親の背中を見ているうちに自然と覚えることができただけです」
ルーンのおかげで、順調に部屋の掃除が終わっていく。
埃をすべて吐き出した室内は、人一人暮らすには十分すぎる広さとタンスやベットなどの家財道具一式が備わっていた。
なんだ、呪いから目を背ければいい物件じゃないか。
――本当に呪い成分だけで台無しなんだよな、この家。
俺は箱から出した服をしまうためにタンスを開いた。すると、
そこには見事な骸骨がしまわれていた。
「…………ルーン、この家に住んだハイプリーストってどうなったんだっけ?」
「えっと……行方不明になったと聞いてます」
その彼……いましたけど。
タンスの内側の壁には、異世界の言葉で「タスケ」と書いてあった。
ははっ、なんだろう? このガイコツさんの名前かな?
俺はそっとタンスの戸を閉めた。
「このタンスは処分してもらうことにしよう」
「……? あ、そうだ。サトーさん、この街の銭湯にはもう行かれました?」
「ああ、あの妙に昭和チックな風呂か」
「ショウワ……? それはよくわかりませんが、良ければこの後一緒に行きませんか? さすがに汗と埃で体がベトベトですし」
銭湯……風呂? 男と女が?
「良いね! ぜひ行こう!」
「は、はい。そんなにお風呂好きなんですか?」
「ああ好きだね! 3食のおかずにしても飽きない程度には大好きだ!!」
「おかず……?」
「あ、いや……この家には風呂ないしな。ぜひ行こう。そのあと飯でも行こうぜ。今日のお礼に奢らせてくれよ」
「はい。じゃあごちそうになっちゃいますね」
ああ、可愛い。中央にだって美人は居たが、みんな性格がきつい連中ばっかりだった。
これは癒される。
田舎暮らしもそう悪いものじゃないと、目の前の女の子がいるだけで思えてくるよ。
――と、銭湯にやってきた俺はまず初めに違和感を覚えた。
俺は確かに暖簾をくぐり、番頭さんに挨拶をして、脱衣所を通って風呂場に入った…………入ったはずだ。
にもかかわらず、俺の隣にはルーンが居た。
俺は腰にタオルを一枚巻き付けているだけ。
一方のルーンは小さな面積しかないタオルを胸辺りから下半身にかけて前を隠しているだけ。
その素肌は暖かい空気に包まれて桃色に染まり、蒸気が演出するのは大変エロティックな肌の湿り気
……すごく目のやり場に困る!!
肌が触れるほど近くに裸のルーンがいるにもかかわらず、俺はその方向に体も視線もほとんど向けることができずにいた。
風呂場に入った途端、その場にいた男たちが色めき立った。興奮に満ちた男たちの目がルーンの体へと突き刺さる。
畜生! あいつらが見るなら俺も見る! この男たちだけにいい思いをさせてたまるか!
「あ、あの……そんなにじっと見られると、さすがに恥ずかしいです」
パーフェクト。この恥じらいも大変グットです。俺はこの日ほど、生まれてきてよかったと感じたことはない。
速攻で体を洗い、浴槽にザブンと体をつける。
非常に気持ちの良いお湯であるが、今はそれどころではない。
今俺がすべきなのはルーンの裸体を見る事なのだ!
おさげ髪をほどいたルーンは、その長い髪の毛をゆっくりと泡に包み洗い上げている。女の入浴は長いと聞くが、こういう丁寧さが原因なのかもしれない。
しかし……ええい。風呂の湯気が邪魔!
ブルーレイディスクでも特典付き初回限定盤でも買ってやるから、誰かあの湯気を取ってくれ!
周りの男たちも俺と同様ルーンの裸体をガン見している。
俺に正義感と倫理観と実力があればこいつらの非道なる視線を止めるのだろうが、今の俺にはすべて備わっていないのでしょうがない。
何も言わないでおいてやろう。
「あの……隣いいですか?」
「は、はい! いやむしろ喜んで!!」
体を洗い終わったルーンは俺の隣へと座った。
湯船に波紋が走り、甘い香りが俺の鼻をくすぐる。なんてこった……今この湯船のお湯は、同量の金貨よりも価値があるかもしれない。
――――いやさすがに無理があるか。
ムッキムキのオッサン達が浸かっているのだから、むしろ金をもらっても手にしたくないお湯である。
「あ、あの……ルーンさん? その、こういった経験はあんまりないんだけど……こっちの地方ではこれが普通なのか?」
「あー……そうですねぇ。中央の浴場にも入ったことはありますが、確かにそちらよりも開放的かもしれませんね」
き、聞いたことがある。
田舎は都会に比べて性におおらかであると。
やはりこの世界でもそうなのだろうか? 混浴がまかり通るような、そんな素晴らしい世界がここなのか!?
「ふぅ……そろそろ上がりましょうか。随分長湯をしてしまいました」
気が付くと結構な時間が経過していたようだ。俺の体は湯気を上げ、体中が真っ赤に染まっている。
まだまだこの世の楽園を見ていたいが、これ以上は体がもたないだろう。
「ああそうだな。じゃあ上がるとする……っ!?」
湯船から上がったルーンを追いかけるように立ち上がった瞬間に地面が揺れた。
地震慣れしている日本人の俺でさえもよろめいてしまうほどの揺れは、滑りやすい風呂場を歩いていたルーンにはひとたまりもなく、足を滑らせ宙を舞っていた。
危ない! 脳内でそう叫ぶよりも早く俺の体は動いた。
背中と腰を両手で支え、ルーンの体をフワリと床へ軟着陸させる。
ケガもなく、ルーンはキョトンと俺の顔を見つめていた。
「あ、ありがとうございます、サトーさん」
「ケガが無いようでで安心したよ。けど今の自身は何だったんだ? 一瞬だけ揺れてすぐにおさまっ…………た?」
俺は重要なことに気が付いた。俺の右手は今なおルーンの方を支えていたのだが、床に着地させたときに左手は離れ、とある物を掴んでいたのだ。
ああ素晴らしき…………ルーンのタオル。
なめらかな柔肌を小さな面積で死守していたタオルが、今俺の手中にあった。
俺の目は見開く。死んだ魚の目と揶揄される薄眼を目玉がこぼれて落ちそうなほどに見開いて、俺はルーンの体を凝視した。
胸! ――は両手で隠れているから見えないか……
ならば男として、胸以上に見る機会のない最大最強の
俺は目線を胸から腹へ、そしてさらに下へと…………ん?
唐突だが、ウインナー、フランクフルト、ソーセージの定義の違いをご存じだろうか?
ウインナーは羊の腸に詰まった物、フランクフルトは豚の腸。ソーセージは牛の腸に詰まったものだと定義されていた。
ただこれは昔の定義で、現代では人工の腸が使用されているため動物の種類で定義することが難しくなっているそうだ。
現代っ子である俺は別の定義を教わった。太さで表せるその定義は、20mm未満ならウインナー。20mmから36mm未満ならフランクフルト。ちなみにソーセージは一般的にそれらすべてを表す総称であるらしい
つまりウインナーは細くて、フランクフルトは太いわけだ。
そう。フランクフルトは太いのである。
「あの、ルーンって――――男?」
「え? そうですけど……そうでないと男湯に入れないですし」
暗転
* *
「――さん? …………サトーさん! 大丈夫ですか? のぼせちゃいました?」
「はっ!? なんだ? 天国と地獄を一瞬で垣間見た気がしたぞ」
気づけば俺とルーンは銭湯の外に出てきていた。あまりにショッキングな出来事に、脳みそが一時的にショートしていたらしい。
「脱水症状かもしれませんし、水分を取った方が良いですよ? 牛乳飲みますか?」
「ああ、ありがとう――――くそう、なんでこんなに牛乳はウマイんだ……」
「……え? 泣いてます?」
泣いてなんかいない。男の子だもん。
頬に伝わる一滴は、きっと汗に違いない。風呂あがりなんだから仕方ないだろ。
不意に、俺の肩を大きくごつい手が掴んだ。その手は俺の背後にいた、身の丈2メートル近い顎ひげを蓄えた堀の深いオッサンであった。
先ほど風呂場で俺とともに興奮していた、男たちの中の一人だ。
「兄ちゃん…………ソレでも良いと思うようになるもんだ」
何言ってんだこのオッサン?
オッサンはその言葉だけを残してすぐにその場を後にした。
女湯から出てきたやたらと装飾品が目立つ幼女に「お父さん」と呼ばれたその男の背中は、身長以上に広く感じた…………ように思うのは勘違いだろう。忘れよう!
「そう言えば、さっきの地震なんかおかしくなかったか? 一瞬揺れたと思ったらすぐに収まったし」
「えっと……多分、さっきのは地震じゃないと思います」
「地震じゃないって……じゃあなんなん――――だっ!?」
先ほどの揺れと同じような地震が起きた。また一瞬大きく揺れると、すぐにそれは収まった。
さっきと違うことは、街中から悲鳴のような大声が複数巻き起こったことだろうか。
「ぎゃー! 誰か来てくれ! 地面から大量のゾンビが湧き出たぞー!!」
「フライングリザードが南門を襲ってるぞ!
「ああー!! 犬が逃げたー! 誰か捕まえてくれ! 依頼で預かってる犬なんだ!!」
――最後のは何か違う気がするが、なぜか街のあちこちから上がる悲鳴の数々は、それぞれがかなり大変な内容だった。
「……この街はいつもこんななのか?」
「いえ……実は今、この街にはキサラギ・コースケと言う冒険者の方が滞在していまして……中央から来たサトーさんならご存じかもしれませんが……」
キサラギ・コースケ。
中央にさえ轟く要注意人物の筆頭。行く先々でトラブルを巻き起こし、解決して去ってゆく。
『歩くマッチポンプ』と言う二つ名を持つ、意味不明な主人公体質を持つ男。
研修で教わったことは二つ。
①関わらない②余計な手出しをしない。
ギルドと言う巨大な組織に危険視される人間が、今まさにこの街にいるのだ。
随分と厄介な時期に来てしまったものである。
「……ん? と言うことは、今聞いた悲鳴は全部そのコースケってやつが原因ってことなのか?」
「正確にはキサラギさんがいることによって、間接的に発生した無関係の事件がほとんどです。キサラギさんが直接関わっている事件となると、この程度の規模じゃ済みません」
「さっき聞いた内容でも十分大規模だと思うけど……ちなみに、かかわっていた場合はどんなことが?」
「家が燃えたり消し飛んだり。ひどい場合は数百人単位でけが人が出ます。あ、でも不思議と死んじゃう人はいないんですよね」
なんて恐ろしい人間だ。ぜひ俺が仕事を始める前に街を出て行ってもらいたいものだ。
ドオォン!!
ひときわ大きな爆発音が体を襲った。発信源と思われる場所からはモクモクと煙が立ち上がり、火の手が上がっているのか夜にもかかわらず明るく空が染まっていた。
「…………なあ? コースケが直接かかわっている場合、家が燃えるんだっけ?」
「はい」
「消し飛んだりもするって?」
「はい」
「…………あっちの方向、俺の家があった方じゃなかったっけ?」
「…………はい」
――俺の家は燃えていた。
家から火の手が上がっているというよりも、もはや火の中に家があると表現した方が正しいだろうその光景に、俺の心は変に冷静だった。
そう言えばドS上司からもらったお札って、呪いを跳ね返す効果を持っていると聞いた。
もしかしたら、このお札の効果によって、家の呪いだかコースケのマッチポンプだかが防がれたのかもしれない。
残念ながら、俺の私物は守ってくれなかったようだが。
俺は燃え盛る自宅を前に思った――――この街でやっていける気がしない!
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