第11話 一難去って
カルト教団との戦いは終わった
ギルドを襲撃した連中は、賞金に目のくらんだ冒険者たちの執念によって撃退。
副司祭は、血走り殺気立った冒険者たちににらみつけられて逃走。
協会に立てこもって教信者たちと徹底抗戦の構えを見せた。
協会を完全に包囲したは良いものの、副司祭と言うのは基本ハイプリーストと呼ばれる高位の魔法使いしかなれない官位である。
彼も地位に見合った実力を兼ね備えていたため、なかなか踏み込めない状況が続いていた
だが、街中をパーティーとともに暴れまわったコースケが到着すると、その状況は一変。
なんだかよくわからないが、ものすごい剣術とものすごい魔法を駆使して教信者たちを蹴散らし、加えて無意味に協会の建物を半壊させ、副司祭を消し炭(生存)にしたことによりこの事件は幕を閉じた
結果、残ったのは半壊した協会と、帰ってきたら自分の協会と信者たちが壊滅していた司祭様の「なんじゃこりゃー!!」と言う叫び声だけだった
後から話を聞くと、もともと司祭様は副司祭や狂信者たちの悪行を見抜いており、その証拠を提出するために中央に赴いていたそうだ。
その証拠を持って中央から役人と兵士を連れてきて平和的に逮捕する手はずだったのに、帰ってきたらこの有様。不憫でならない。
ちなみに、結局副司祭を打ち取ったのはコースケ一行で、報奨金も彼のものとなってしまった。
だが、今回の件でさらに増えたコースケハーレムの装備を整えるために使ってくれたため、大部分はこの街に還元されたので良しとしよう。
一方の俺は中央から少しばかりお叱りを受けた。
緊急時の賞金給与は状況が状況だけに仕方がないとの裁定が下されたのだが、狂信者が20人、副司祭が1人の計150万イェン。
日本円にして約1500万円が中央の負担として支払われたことについて、レポート提出を申し付けられたのだ
加えて全額ではないものの、街の修繕費に協会の新築費用。
超高難易度の依頼の達成報酬の捻出など、かなりの額が今回の事件で消費されたため、例のサディスティック女王の上司からの私的な念話がかかってきて、小一時間の説教を受ける羽目となった。
「それはそれとして……お前ら飲んでるかー!?」
「「「おーう!!」」」
あれから数日が経って今現在――と言うより事件から休まずずっとなのだが、冒険者たちは朝から晩まで酒を浴びるほど飲んで騒いでいた。
コースケと言う脅威が去ったうえに、依頼がなく飯を食うにも事欠いた数日の反動が来ているのだろう。
加えて臨時収入が結構いい額が懐に入ったやつが多いらしく、それはもう遠慮なしに金を使い倒してくれている。
俺はと言うと、昼はお祭り騒ぎの冒険者どもを横目にしっかり仕事をこなしつつ、夜には合流して宴会を楽しんでいた。
「しかしみんな、よく飽きませんね。もう何日も騒ぎ通しじゃないですか。まあわたしはみんなに奢ってもらってウハウハですが」
「そう言えば司祭様の護衛に着いてたのってパプカとゴルフリートのオッサンだったっけ? あのオッサンが護衛任務に就くのって想像できないな……」
「普段はやらない仕事ですね。報酬も相当なお偉いさんじゃなければ安いですし。今回はたまたま中央に用事があったので、ちょうどいいやと受けただけです」
「パプカとオッサンが中央に用事ってことは……」
「ええ…………お母さんがらみです」
「ああ……」
パプカの母親は現在中央で働いている冒険者らしい。
しかもゴルフリートと同様、世界に6人しかいないオリハルコンと言う最上級のランクを保有している。夫婦そろって化け物だ。
そして実のところ、ゴルフリートと奥さんはあまり上手くいっていないらしい。
中央と片田舎、別れて暮らしているのにはそれなりの理由があるのである。
「はぁ……やっぱりそろそろ離婚ですかねぇ」
「うーん……あんまり飲み会の場で話したい話題じゃないな」
「あ、そうですね、すみません。まあ今まで通りなあなあで離婚しないかもしれませんし……む、お酒切れたんでもらってきますね」
パプカはトテトテとカウンターにジュースを取りに行った。
そしてパプカと入れ替わるように、見覚えのある赤い髪の美女が俺の元へとやってきた。ジュリアスである。
「なんだ、ポンコツ冒険者じゃないか」
「その呼び方はやめてくれサトー! それに、もう私はポンコツではないぞ? 実はその証拠を見せに来たんだ」
フフンと胸を張るのは良いのだが、その言い方だとこれまでの自分がポンコツだったと認める発言と取られてしまうのに気が付いているのだろうか。
ジュリアスは腰のポーチをまさぐると、取り出したものを俺の目の前へと突き出した。
冒険者における身分証明書。いわゆる冒険者カードである。
「ん? わざわざ見せなくても、ジュリアスが冒険者だってことは知ってるぞ? だからわざわざポンコツに冒険者ってつけてるんじゃないか」
「本当にプライベートでのサトーは傍若無人だな。だが違う、見てほしいのはここだ」
そういって指さした場所には『冒険者ランク・シルバー』と書かれていた。
――ん? シルバー? 確かこのポンコツのランクはブロンズだったはずだ。
「……ああ、表記ミスか。明日の朝にでもギルドに来いよ。直しといてやるから」
「なんで昇格したという発想が出てこないんだ! 昇格したんだよ! 狂信者を倒した功績が認められて!」
今回の事件の際、ギルド内にジュリアスが居たのは覚えている。
隅っこでちびちび酒を飲んでいた友達のいない様子は印象的だ。
もちろん戦いに参加したのだって覚えている。
素人同然の狂信者に追い回されている滑稽な姿には笑わせてもらった。
事件が終わった後、冒険者の討伐結果には驚いたものだ。
ジュリアスも1人、討ち取っていたのである。
そりゃ俺は雨のように降る矢を浴びないために隠れていたので、冒険者たちの活躍をすべて見れたわけではないので、俺が見ていないところでジュリアスが敵を倒していてもおかしくないのだが、そんな姿は想像すらできない。
と言うわけで、他の冒険者の話を聞くと、なんでも剣を抜いた拍子に両手からすっぽ抜け、その剣が二階の植木鉢に当たって落下。
見事狂信者の脳天に直撃してノックアウトとなったらしい。
――ピタ○ラスイッチかな?
「あの事件の後すぐに申請に出して、今日ようやく昇格が決まったんだ! これでポンコツとは呼ばせないぞ!」
「そうか、お前もとうとう…………まずはおめでとうと言わせてほしい。いや、お前の言う通りもうポンコツとは呼べない立派な冒険者だな。今まで馬鹿にしてすまなかった」
「あ、ああ……なんだ? ちょっと不気味なぐらいに素直な賞賛だな……い、いや! それでもうれしいぞ、ありがとう!」
「で、
「………………まだだ」
やっぱりポンコツじゃないか。
「おや? ポンコツ冒険者のジュリアスじゃないですか」
パプカがジュースを片手に、もう片方にはスルメを持って戻ってきた。
「その呼び名は定着しているのか!? 冒険者の連中にもたまに言われるぞ! まさか広めてはいないよな、サトー!?」
「モチロンデスヨ?」
「なんでカタコト!? くそぅ……みんなして馬鹿にして……この先覚えてろよ! どんどん働いて目にもの見せてくれる!」
こちらとしてはジュリアスに依頼を渡したくはない。
ポンコツポンコツとしつこく言っているのには、単純に彼女の反応が面白いからとか、システム上剣士になれないのに未練たらしくしてる様を馬鹿にしているとか、それだけが理由ではないのだ。
彼女はそれはもう……仕事ができない。
ブロンズの仕事なんて街の清掃や犬の散歩。討伐以来だって魔物でも最下級の弱い奴を狩る程度。それすら失敗するならポンコツと呼ばれても仕方がない。
犬の散歩を失敗するって意味が分からない。
そんな彼女がシルバーランク……世も末である。
「そう言えば低ランクの依頼は募集しているのですか? お父さんがあちこち駆けずり回って、オリハルコンとミスリルの依頼は大分消化できているはずですが」
「ああ。あの『歩くマッチポンプ』が街から居なくなったから、ちゃんと低ランク任務の数も回復し始めてるよ」
コースケ一行は装備を整えたのち、男性冒険者たちの拍手喝采と、救われた街の若い女性たちの黄色い声援。
それに対する男性冒険者たちの呪いの言葉を一身に受けながら街を去った。
なんでも副司祭が「ここで私を倒しても第二第三の教団がお前の前に現れることだろう」とかなんとか言ったらしく、新たな手掛かりを得るために旅を続けるとのことだ。
もう二度と来んな!! と言う心の声を押しとどめ、きちんとした社交辞令を元にコースケを見送った俺は、とりあえず入り口付近に塩をまいて清めておいた。
「でもあいつ、定期的に来るんだよなぁ。中央的には、被害総額を上回る利益があるとか何とかで、ほとんど放任してるらしいけど……現場の俺たちにしてみれば迷惑以外の何でもないし」
「低ランクしか受けられない冒険者にとっては死活問題ですしね」
「うん。長期滞在でもされた時には、低ランク冒険者の集団移動が行われたケースもあると聞くな……さすがにそんなことにはなってほしくはないが」
確かにそんなことが起きてしまうと、コースケが去りほかの冒険者が再度集まってくるまではギルドの運営は相当な打撃を受けるだろう。
そうなればギルドの事務員である俺やルーンは最悪の場合解雇。そうでなくとも減俸、違う地域への派遣など恐ろしいことが待ち受けていることは想像に難くない。
安定を望む俺としてはそんな展開は望まない。
コースケにはぜひともほかの地域でその猛威を振るってもらい、ココには数年単位で近づかないでほしい。
「まあでも、旅立ってすぐに戻ってくるということはないでしょうし、しばらくは安泰ですね」
「そうだな。街の平和が守られたことや私のランクが上がったことを考えれば、少しだけだが感謝の言葉を送ってもいいかもしれないな」
――――何だろう? すごくフラグな気がする。
最近のフラグは立ったそばから回収されていくから嫌なのだ。もう少し心の準備をしてから回収してほしいものだ。
ドオォンッ!!
そして旗の回収作業が始まった。
地響きを交えた巨大な爆発音が酒場どころか街中に響き渡った。
衝撃に耐えかね、パプカは酒をこぼし、ジュリアスは料理に顔面を突っ込んだ。
その場にいた全員がすぐさま外へと駆け出して空を見上げると、煌々と夜空を照らす赤色の爆炎が辺りをまぶしく照らしていた。
爆炎の発生場所は街の外のようだが、ここまで衝撃が来るということは相当な威力だったに違いない。
「さ、サトーさん! 大変です!!」
爆炎を呆然と見ていると、ふいにルーンが俺の元へと駆け寄ってきた。
仕事着でない私服を身に着けるその姿は、普段とは違った可愛さを演出している。
「ああルーン、今俺も見たとこだよ。全くこんな夜中に誰があんな爆炎を……」
「違います! いえ、あの爆炎も大変ではあるんですが……ちょ、ちょっとこれを見てください!」
そう言って差し出されたのは数枚の紙。
仕事柄普段から目にすることの多い、クエストの発注書である。
クリスタルエンシェントドラゴンの撃退。オリハルコン
『湖に出現したクリスタルエンシェントドラゴンを追い払ってください。勝つのは多分無理なので、追い払うだけで結構です』
魔王直属ダンジョンの探索。オリハルコン
『新たに出現したダンジョンを探索してほしい。なお、モブモンスターとしてリッチーが普通に出現するので注意』
『
俺は体中に汗が流れるのを感じた。
「ま、まさかこれって……」
「大変だ―!! 城門にモンスターの群れが襲撃してきたぞー!!」
「街中で山賊が暴れてる! 誰か来てくれー!!」
「さっきの爆発で南の民家に火が付いたぞ! 誰か手伝ってくれ!!」
街のあちこちから悲痛な叫び声が巻き起こる。
俺は知っている。そして冒険者たちも知っている。
これらの原因が誰のものなのかを知っている。
だからこそ俺たちは同じ台詞を叫ぶのだ。
「「「「またかあの野郎!!!」」」」
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