第10話 主人公補正





キサラギ・コースケ。16歳

元男子高校生。現召喚系主人公。

ナデポ、ラッキースケベ、召喚直後のメインヒロイン加入、パーティが全員美少女、特殊スキル及び剣士適正魔法適正など諸々保有、貴族とのコネクション保有、地球技術知識による商売繁盛などなど。

数え上げたらきりがないほどの主人公適性を持つ。

設定過多なこの少年は、その設定に負けず劣らず非常に強い。

冒険者ランクはプラチナだが、非公式の実力としてはミスリルとそん色ないとさえ言われている。

普通なら短期間でプラチナはありえないんだけれど、活躍が活躍だけに超特例措置が取られているらしい。

しかしこの少年、冒険者たちの中では非常に評判が悪い。

性格が悪いわけではない。

非常にコミュ力があり、むしろ誰とでも打ち解ける好感触な少年だ。

だがしかし評判が悪い。

原因は大量にあるが、まず挙げられるのが先ほど説明した大量の設定だ。

女の子の頭を撫でれば即惚れられる、通称ナデポ。

転んだ拍子に、女の子の胸に飛び込んだりスカートの中を覗き込む頻度が非常に高いラッキースケベ。

この二つを見るだけでも嫌われるのは仕方がないと言えるだろう。

特に男性冒険者たちにはなおさらだ。俺だって見てて腹立つわ。

ちなみに女性冒険者からの好感度は悪くない。

そこらの男性冒険者が胸を触ろうものなら、冒険者の腕力による鉄拳制裁が待っているだけだが、コースケのラッキースケベの場合は黄色い悲鳴を上げて平手打ちだ。

挙句頬を赤らめて何やらフラグのようなものがはためく始末。

もう一つ大きな理由があるのだが、これはその内詳しく説明する機会があるだろう。

コースケがこの場にいる時点では絶対に起きる事なのだ。







――3日前。

パプカの調査を終えたのち、酒場で楽しいひと時を過ごしていた際に、コースケは現れた。

暴漢に襲われたという女性を救い、例にもれずフラグを立てて場の男性諸君の額に青筋を立てさせると、その後ろから団体様がご来店。

後から入ってきたのは人間、エルフ、獣人と、色とりどりな人種の美少女たち。


他称、コースケハーレムである。


前回見たときよりも、さらに人数が増えている気がするのは気のせいではないだろう。

危うく、怒れる男性冒険者たちによる暴動に発展しかねない状況だったが、ギルドの宿泊施設に入りきらないという理由で、ハーレムを連れて酒場を出て行ったことでその場はなんとか落ち着いた。

――そして本日。

ジュリアスとの恥ずかしい出来事を朝一番に終えた日である。

さすがにこんな日はジュリアスも相談窓口には来なかった。

一応ギルド内に居るのだが、隅っこの方で一人寂しくちびちびと酒を飲んでうなだれている。

……あれ見ていて悲しくなってくるからやめてくれないかな。

ジュリアスが来ないということで、相談窓口にいるにもかかわらずぽっかりと暇な時間ができてしまった。

仕方がないので、ルーンから書類を何枚かもらって処理を始める。


――スカルドラゴンナイトの討伐。ミスリル

『森にて徘徊するスカルドラゴンナイトを討伐してください。なお、このモンスターは生前ミスリルの実力を持つ王国の聖騎士だった模様』


――エビルブラックマジシャンからの防衛。オリハルコン

『太古の大魔導士が堕天した姿。ミールの町に目撃情報あり。防衛任務のため遭遇しなくても報奨金は出ます』


――指名手配モンスター、ダンバラガンの浄化。オリハルコン

『リッチーのネームドが近くのダンジョンに出現。プリーストを中心としたパーティー推奨。注意、エンシェントプリースト(最上級職)以上に限る』


こ れ は ひ ど い


「ルーン、もしかしてこれ以下の依頼はないのか? こんな超難易度の依頼、実質オリハルコン持ちのゴルフリートさんしか対応できないじゃないか」

「い、一応あるにはあるんですが、最低でもプラチナランクの以上となってまして……ここ数日は受付は閑古鳥が鳴いています」


こんな田舎のギルドに来る連中はせいぜいゴールドランクの冒険者まで。そもそも仕事がないのだから、強力な冒険者はほかの地域に流れてしまっているのだ。

マグダウェル親子は例外で、もう一生食うに困らない貯金を持っているらしいので半分は趣味だろう。

実はこれこそが、コースケが忌み嫌われる最大の理由。

国中の冒険者たちの常識となっており、ギルド内でも有数の要注意人物とされるキサラギ・コースケが持つ特殊な能力。

名付けられて『歩くマッチポンプ』

彼が行く先々では、国を揺るがす大事件が起きる。なぜかと言うと答えは簡単だ。だからである。

小説でも漫画でも、主人公が何の事件にも巻き込まれず、一切の障害なく順調に魔王の城にたどり着いて、四天王と戦うこともなく魔王と対峙して、何の感動もなく普通に倒してしまったらどうだろう。

間違いなく第一巻で完結してしまう。

だが、基本はそうならない。

道中様々な事件が起きて主人公は巻き込まれ、四天王どころかその部下にさえも苦戦しつつ、修行回などを挟み込んで友情を肥やし、新しい仲間を受け入れては悲しい別れを経験する。

それが普通。

それが物語において当たり前の展開なのだ。

そしてコースケは紛れもない主人公体質。

召喚者や転生者は大体がこういった性質を持っており、事件が起きたら彼らが一枚かんでることが多い。

コースケの場合、ほかの連中よりも規模が大きく頻度が多く、非常にはた迷惑な奴なのだ。

だからコースケが出現した地域には高レベルの依頼しかやってこなくなる。

弱いモンスターは強いモンスターに駆逐されていなくなってしまうのだ。

一応の擁護をしておくと、こういった連中は意図的ではないにせよ起こした事件は必ず解決して去ってゆく。これがマッチポンプと呼ばれる所以だ。

ついでに言うと、コースケがこの地方にやってきたのは3日前らしい。つまりあの日、ドラゴンやらリッチーやら強力なモンスターが俺を襲ったのは運が悪かったわけでも何でもなく、コースケがいること自体に原因があったのである。


「今回は特にひどいな。これじゃ彼が居なくなるまで持ちそうにないし……中央へ応援要請は?」

「手配済みです。あと2、3日で到着するとのことです」

「2、3日……どっちかと言うと被害の後始末部隊だろうなぁ」


部隊が到着するころには大体の事件は解決しているだろう。

中央からの距離を考えると、派遣されてくる部隊編成は強力な冒険者たちではなく、事務方や土方と言った被害を修繕し対処する部隊になっているはずだ。

何せ『後始末部隊』と揶揄される専門の部隊が存在するほどなのだ。

本当にはた迷惑な奴である。


「分かった。じゃあとにかく簡単な依頼を大量発注しよう。出来るだけ街中で、犬の散歩とか家事手伝いとか」


筋骨隆々な男たちがエプロン姿で皿洗ってるとかシュールすぎる光景だろうが、少しでも仕事をさせないと宿に泊まる家賃すら捻出できなくなるような連中だ。

路上に転がり治安悪化に貢献されては困る。


「分かりました。じゃあ受付を少し閉じて、総出で外回り行ってきますね。お留守番お願いします」

「了解。悪いけど頼むな」



ギルド事務員がほとんど出払い、やけに静かなギルドで俺は受付窓口で書類にサインを書く仕事中。

普段ならこの時間帯でも飯を食う冒険者たちでにぎやかな場所なのだが、今は見るも無残な姿。

昨日まであった数少ない低難度の依頼はすべて消化され、誰も依頼を受けることができなくなっている。

依頼が受けれないと金が入らない。

酒は飲めないし飯も食えないのだ。

落ち込み沈む冒険者で埋め尽くされたギルドは悲惨の一言に尽きた。



「ちわーっす!」



そんな空気を払拭するかのごとく声が響いた。噂のコースケのご登場である。


「え、なにこの暗い空気。 気持ち悪っ!」


誰のせいだと思っていやがる。

その場にいた冒険者たちの意識が一致した瞬間だった。

彼らの心の中では「帰れ」と「死ね」コールで沸き上がっていることだろう。

相も変わらず美少女ハーレムを連れたコースケは、少女たちを酒場のテーブルに座らせ、食事を頼むよう促してからなぜか俺がいる相談窓口へとやってきた。


「おっすサトー。最近景気どうよ?」


お前のおかげで絶不調だよ。

あと呼び捨てにしてんじゃねぇよふざけんな。お前俺よりも年下だろうが。同じ日本人同士なんだから年功序列くらい守りやがれこの野郎。

――と言いたいところだが、俺は冷静な社会人。スマイルは崩さず、大人な対応をしよう。


「おかげさまで何とかなっていますよ。ところで何かご用ですか? クエストならちょうどいいのがいくつかありますが……」

「いや、今日はクエストのことじゃなくてちょっと相談したいことがあるんだけどよ。実は……」


この後コースケは今までの冒険譚や、自分に振りかかったトラブルを「やれやれ」と「面倒くさい」の単語をちょいちょい間に挟みつつ、俺に説明した。

最近聞く、各地で起こった事件はやはりこいつが発端だったらしい。

南方の大噴火は、とある魔剣を封印するために火口に投げ入れて起きたことだそうだ。西方でゾンビが大量発生したのは、カルト宗教に染まった団体とコースケが戦ったから。

そしてその余波として起きた事件が3日前のパプカの調査である。


「でな? その南と西の事件がどうにもつながってるらしくて、カルトの連中に吐かせた情報によるとこの街に本部があるそうなんだ」

「はあ…………つまり、その本部の心当たりがあるかどうかを聞きたいと?」

「そうそう! やっぱ話が早いなサトーは。さすが俺と同じ召喚者」

「そうですね…………この街は治安も良いですし、残念ながらそういった組織に心当たりはありません」


治安の良さだけが取り柄のような街だから、そんな組織があればすぐわかると思うのだが……この男がここに来たってことは、あるんだろうなぁ。

変なところで信用のある男だからなぁ。


「……実は、こないだ絡まれてた女の子の話を聞いたんだけど、最近冒険者でもない人間がやたらと街に出入りしてるって話なんだ。酔って絡む程度のトラブルしか起こさないから目立たないけど、どうにもきな臭く思うんだよ。で、あの時のチンピラにも話を聞こうと思ったんだけど、気が付いたらいなくなってたし。サトー、あのチンピラの顔覚えてるだろ? もしここに出入りしてたら俺に伝えに来てほしいんだ」

「ええ、わかりました……ちなみに素朴な疑問なんですが、先日の女の子は今どちらに?」

「あいつならそこでみんなと一緒に飯食ってるよ。実は一緒に冒険することになったんだ。あとでパーティーに登録しておくからよろしくな」


やっぱりか。

こいつと関わり合いになった女は大体コースケハーレムに組み込まれてしまう。

コースケが街を出発する際に、これ見よがしに顔を真っ赤にさせて涙ぐむやつもいれば、そのまま冒険者として「べ、べつにアンタについて行くわけじゃないんだからね! 目的地が一緒なだけなんだから!」とかツンデレ風に同行するやつもいる。

今回チンピラに絡まれていた女の子も例にもれず、そのままハーレムに加入したらしい。

このままいけば、魔王に挑むときにすごい人数のハーレムが形成されていることだろう。まったく――――爆ぜねぇかなぁ、このリア充。

おっと本音が……



「コースケってやつはいるかぁ!!」



不意に入り口付近が騒がしくなる。

見ると、そこには先日のモヒカンがトレードマークのチンピラが仲間を引き連れてやってきていた。

各々がすでに剣や斧を携え、明らかに戦闘意欲満々な様子である。


「あん? 俺に何の用……ってお前!! ――――――誰だっけ?」

「コースケさん。今話してた昨晩の男ですよ。と言うか、顔覚えてなかったんですか?」

「いや、一瞬でぶっ飛ばした雑魚だったし、そんなのいちいち覚えてないんだよなぁ」


哀れモヒカン。


「昨日はよくもやってくれたな。まあ? こないだはこっちも暴れるわけにはいかなかったからやられてしまった訳だが…………いや、なんだその目は。ホントだぞ! 昨日司祭が出払ったって聞いたからやっと本気出せるんだ! やめろよ! 「いかにも雑魚がほざきそうなセリフだなぁ」みたいな視線を送るのは! 畜生、馬鹿にしやがって! 野郎どもやっちまえ!」


いかにも雑魚がほざきそうなセリフだなぁ。

モヒカンの一声で外にいたチンピラたちは店内に入り込んで、コースケめがけて武器を振り下ろした。

それを軽くかわすと、無残に切り刻まれたギルドの備品である椅子が横たわっていた。

この椅子だってタダじゃないんだけど、ちゃんと弁償してくれるのだろうか。


「ヒャッハァー! マグダウェル親子が依頼を受けて町を離れているのは調査済みだ! 司祭もいない今、この街に俺たちの脅威となるやつらは冒険者どもだけだ! もちろん今から皆殺しになるお前たちには俺たちは止められないがな、ハッハッハー!」



一分後



そこにはボコボコに伸されたチンピラたちの哀れな姿があった。

ランクの上ではそこまで高くない冒険者たちだが、その強さは尋常ではない。

チンピラが数の上で圧倒していようとも、そもそもの質が違うのだ。

街中で人間相手に威張る程度の実力しかないチンピラと比べ、低レベルの魔物とはいえ死線を潜り抜けた屈強な冒険者。

このような結果になったのは必然と言えるだろう。


「おいコラモヒカン。誰の指示でここに来たんだ? 司祭がどうとかって言ってたけど、何の話だ?」


モヒカンの頬を引っ張りながら尋ねるコースケ。

抵抗のしようがないモヒカンはあっさりと聞かれたことについて話し始めた。

聞くところによると、コースケが言っていたカルト宗教組織とやらは、この街にある教会の下部の人間に成りすまして水面下で活動していたそうだ。

なんでも、世界征服をたくらむイタい組織であり、隠れ蓑にしていた教会の司祭が長期間出かけたことをチャンスと感じ、手始めにこの街を占領しようと動き出したとのことである。

到着してたった数日で平和な街を戦場にするとは……やはりコースケの『歩くマッチポンプ』と言う通り名は伊達じゃない。


「そういった話なら、とにかく街の皆さんに避難を呼びかけなければなりませんね。まずは事務員を呼び戻して対策を――――ひっ!?」


外回りに出ている同僚たちを呼び戻すべく、外に出ようと扉へと手をかけると、その手の指の間を縫うように弓矢が飛んできた。

続けて降ってきた矢の雨を目の当たりにした俺は、すぐさまギルドに戻って扉を閉めた。


「いつまで経っても出てこないからまさかと思ったが、冒険者風情にやられるとはな! やはり金で雇われるようなチンピラはあてにならん!」


窓からそっと外を見てみると、そこにはチンピラたちの数倍規模の人間が武器を構える姿があった。正面の建物の屋根の上、何人かの射手が弓を構えるその中央に、連中の親玉らしき男の姿がある。

神職のローブを着こんだその男は、俺も道すがら挨拶をかわす程度に顔見知りの、協会の副司祭だった。


「…………あの、副司祭様! この騒動の首謀者はあなたと言う事でよろしいですか!? それだとギルドの人間として、手配の対象にせざるを得ないのですが!」

「ああ、サトー君か。すべては君の言う通りだ! もう数年前から計画していたことなのだよ! 冒険者諸君や君のようなギルドの人間には大変申し訳なく思うが、ぜひここで果ててもらいたい!」


マジかー……優し気で結構いい人だと思ってたんだけどなぁ。人は見かけによらないということなのか。


「バーカ! ハイそうですかと受け入れるわけないだろうが! 南や西で面倒くさいことに巻き込んでくれやがって! ぶっ飛ばしてやるからちょっと待って――ぐえっ!? な、なにすんだよサトー。服引っ張んなよ」

「まあまあちょっと落ち着いてくださいコースケさん。彼の話を聞くと、街中でも敵が暴れまわってるようですし、出来ればあなたにはそちらの迎撃に回っていただきたい」

「はぁ? でも結構な人数いるぜ? 言っちゃなんだけどアンタらだけじゃ……」

「大丈夫です。あなたの実力には見合わないかもしれませんが、彼らだって冒険者なんです……たまには、彼らにもカッコつけさせてあげてください」


俺の言葉にニヤリと笑うコースケ。こちらの意図を組んでくれたかは定かではないが、コクリとうなづいて了承してくれた。

ギルドの裏口を指さして、コースケとハーレムを外へと誘導する。


「では、街の人たちをよろしくお願いします。勝手を言って申し訳ありません」

「何言ってんだ。俺とお前の中じゃないか……おまらこそ、無理するんじゃねぇぞ? すぐに敵をぶっ飛ばして戻ってくるからな!」


俺はコースケと熱い握手を交わしてその後姿を見送った。俺よりも年下とは思えないほどにしっかりとした背中に、こういう人間が魔王を打倒してくれるのだろうなと期待を込めた。







――――――――さて


「さあ皆さん! ボーナスタイムです! ここまで大規模な侵攻を受けたということで、彼らにはギルドから指名手配の賞金を懸けさせていただきます! 一人当たり5万イェン! 首謀者を捕らえた場合は50万イェンです! ここ数日の度重なるストレスを発散するもよし! 依頼を受けられなかった分をここで補填するもよし! 存分に暴れまくってください!!」

「「「おおおおー!!」」」


被害が出るであろうと予想できる場合、ギルド職員は独断で賞金を懸けることができる。

緊急性のある状況ですぐに冒険者を動かすための制度であり、ある程度の規定額がある以外は職員の裁定にゆだねられる。

今回の場合は最大規定額は50万イェン。

日本円で換算するなら500万円の大盤振る舞いだ。

コースケ達のようなを排除したのはこういった訳がある。仮に賞金をコースケパーティーが獲得してしまうと、そのお金のほとんどはこの街では消費されない。彼は各地を飛び回るタイプの冒険者であるため、出された賞金を持ったままこの街を去ってしまうのだ。

この街の産業の一端である冒険者ギルドは、依頼の報奨金を街で消化していることで成り立っている。

冒険者と言う生き物は宵越し銭を持たないのでそれはもう気持ちよく街に還元してくれるのである。

だからこその邪魔者排除。ここ数日働いてこなかった冒険者たちに金を与え、そして街で使い果たしてもらうのだ!

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