2018年3月27日 鷹を飼う

一日一作@ととり

第1話

鷹は偉大な生き物だ。気高く美しく、勇ましい。人は鷹のように生きるべしというのが、我が一族の家訓だった。鷹は空高くを飛ぶ、太陽のそばを通過し、岩山に消える、あの向こうに鷹の巣があるのだと、父はいった。


その年は獲物が少ない年だった。冬に雪が多くつもり、春になっても獲物が少ない。鷹も人も不自由していた。鷹は二羽の雛を育てていた、二羽は同時に卵から生まれるのではない、一羽のほうが数日早い、その数日が雛の成長に大きな差を与える。獲物が豊富な年であれば、二羽とも成長できる。しかし、獲物が少ない年の場合、大きな雛だけに餌が与えられる。小さな雛は予備なのだ。獲物は大きな雛が力に任せて奪い、餌がもらえず、嘴でつつかれ、やがて死ぬ。それが獲物が少ない年の小さな雛の定めだった。


イサダはヤギの群れを追っていた。賢い犬たちが、ヤギの群れを囲んで群れがばらばらにならないように見張る。イサダは空想が好きな少年だった。ヤギを見張りながら気持ちは遠くの空に飛んでいた。岩山を越えると平原が広がっていて、その先には都会がある。イサダはまだ都会に行ったことがない。都会は人が多くて、硬い岩山のような家が建っていて、地面から離れた高い所にまで人が住んでいる。車がたくさんあって、地面は硬い。


鷹が舞う岩山を見ながらイサダは都会を想像した。人々が鷹の巣のように岩壁に張り付いて暮らしている。都会は素晴らしい所だと兄のイサジはいう。イサジは父とともに都会によく行く。そして珍しい話をイサダにいって聞かせる。イサダは兄が苦手だった。乱暴で威張ってて、イサダが何も知らないのをいいことに、作り話やでっち上げをさも本当のように話す。だから都会の話も大半が嘘なのかも知れないとイサダは思っている。


遠くから父と兄が帰ってくるのが見えた。イサダはヤギたちをまとめて、家に戻る準備をする。嘘やでたらめが混ざってると思っても、兄のする都会の話を聞きたい。家に戻った兄は大事そうに布切れを持っていた。「兄さん、それは何?」とイサダが聞くと、「鷹の子どもだ」といった。「鷹?」イサダは目を輝かした。布切れに包まれた鷹の雛は、おびえてちいさく、ちじこまっていた。まだ白い羽が多い、幼い雛だった。「岩山の巣から落ちたんだが、うまい具合に枝に引っかかったんだ。巣には戻せないし、拾ってくるしかなかった」父はそういうと、家の一番暖かいところに箱を置いて、鷹の雛を入れた。


鷹の雛はしばらく兄のイサジが面倒を見ていたが、そういう世話が性に合わないのか、すぐ飽きてしまった。そこでイサダが鷹の世話を引き受けた。鷹はイサダに良くなつき、どんどん大きくなった。

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