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山下との同居は、当初思ったよりもかなり長引いた。新居がなかなか見つからなかったのである。仕事に慣れることができず、まとまった時間がとれない上、部屋探しのシーズンはすでに終わりに近づき、条件に合う部屋はもうほとんど残っていないようだった。山下が歓迎してくれるおかげでなし崩し的に甘えてしまい、奇妙な同居状態のまま5月を迎えようとしていた。
控えめに言って、山下はいい同居人だった。人当たりがよく、俺の感じる気まずさを可能な限り取り除こうとしてくれる。その一方で、必要以上の関わりは避け、お互いに生活を自分の寝室でほぼ完結させるよう努めてくれている。
しかし、1ヶ月近くも同居が続くと、少し変わったところも目につくようになってきた。
どうやら山下は潔癖症のケがあるらしい。キレイ好きという範囲を少々逸脱して頻繁に掃除をしている。自分が使ったものや場所は、使用後すぐに掃除しないと気がすまないらしい。俺が寝室をどれだけ汚そうと放っておいてくれるし、共用スペースを俺が使っても嫌な顔1つしないが、気を遣ってくれているのかもしれない。
それと関連するのかは知らないが、山下は自宅でほとんど風呂に入らない。ユニットバスだった(燃えた)俺の家と違い、トイレと分かれた風呂がちゃんとついているが、山下が使っているところは見たことが無いように思う。どうやら外で入ってきているようだ。潔癖症なら銭湯などは苦手なんじゃないかという気もするが、そこは気にならないらしい。
そういえば、トイレもあまり使っていないようだ。水道代の節約だろうか。
このことに気がついてから、俺も風呂やトイレはなるべく外で済ませてくるようにしている。
山下は滅多に自分の寝室から出てこない。俺がいるときだけかと思ったが、そうでもないようだ。俺が会社へ出発するときも帰ってきたときも決まって部屋にいるので、気になってそれとなく聞いてみたところ、在宅で仕事をしているらしい。何の仕事かまでは聞かなかった。一時的な同居生活でそこまで踏み込まれたくはないだろう。
食事も寝室で済ませているようだ。これは俺も同じ。ただ、山下はそもそも自炊を全くしないらしい。キッチンの食器類はそれなりに使われた形跡があったが、逃げられたという彼女によるものかもしれない。山下の出すゴミをちらっと見た限り、コンビニ弁当やカップ麺ばかり食べている。俺が寝るくらいの時間になるとそっと外に出かけているようなので、その度に買い込んでくるんだろう。寝室に冷蔵庫があるなどと言っていたが、ほとんど使っていないに違いない。
ともあれ、これらはすべて瑣末なことに過ぎない。山下との生活は概ね快適だし、彼がどれだけ乱れた生活をしていても俺には関係がない。きっと彼女に逃げられて失意の日々を送っているんだろう。俺みたいなのをわざわざ住まわせている時点で、人恋しいと言っているようなものだ。知らない男と暮らしたところで慰みになるとは俺には思えないが。
まあ、ゴールデンウィークになればまとまった時間がとれるし、きっと新居も見つかるはずだ。
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