第4話 お返事します

 もう十分お腹いっぱいなんですが、せっかくの大ネタですのでお返事しましょう。もちろん、エア返事です。


◇ ◇ ◇


 ドリス・マーティンズさま


 メールを拝見いたしました。とても困難な状況下におられるようですね。切羽詰まっているお気持ちは、とてもよく分かります。しかしながら日本においては、マイナンバー制度導入以降、ドリスさまが望まれているような資金移送のための口座貸しがとても難しくなっております。残念ながらご期待に沿えそうにありません。まことに申しわけありません。


 その代わりと言ってはなんですが、ドリスさまの書かれた文面をより訴求力のあるものに改良するお手伝いをいたします。それにより、貴女に救いの手を差し伸べてくれる方がきっと現れることでしょう。


 まず、書き出しがどうにもよろしくありません。タイトルが全く意味不明ですし、危機が迫っている状況にありながら定型の前書きから始めるというのでは臨場感が全くありません。タイトルも含め窮状を切々と訴えかける書きぶりにしなければ、よからぬ意図を隠していると勘ぐられてしまいます。


 タイトルは、困難な状況が分かるよう直裁的な表現にいたしましょう。


『どないしてん難民キャンプから出れへんねや! 助けてくれ!』


 ……くらいでしょうか。次に書き出しですが。


『親愛なる、水円様。

 主イエスキリストの名のもとに、あなたにご挨拶いたします』 


 日本はキリスト教徒の比率がとても低うございますので、これでは怪しい宗教関係者の勧誘メールだと思われるだけです。宗教色を加味するなら、きっちり庶民的に行きましょう。


『水円のおっちゃん、毎度おおきに! ビリケンさんの足ぃ触ってる?』


 ……くらいにしないと。


 次は……と言いたいところですが、無料サービスはここまでとなっております。さらなる添削が必要であれば、一文字一千万円でお請けいたします。邦文として約五百字ほどですので、ご主人に五十億円ほどご用意いただき、あなたが寄付者であると分かる形で慈善団体に寄付してください。慈善団体のサイトにあるドネーターリストにあなたの名前と寄付金額が掲載されれば、喜んで全文添削を承ります。


 良い返事をお待ちしております。



 水円 岳 拝


◇ ◇ ◇


 シンプルに書くと「おととい来やがれ」で終わってしまうので、少しだけ体裁を整えました。

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