第3話 校閲します
かな表記変換後も全く文章としての体をなしていないので、ちゃんと文意が取れるようになるまでぎっちり補筆、校閲しました。ちなみに、かっこ内はわたしの魂の叫びです。
◇ ◇ ◇
『難民のジレンマ』
(小論文か! もちっとましなタイトルにせえや)
親愛なる、水円様。
(日本人はこういう言い方せえへんねや)
主イエスキリストの名のもとに、あなたにご挨拶いたします。
(俺は無神論者や)
私はインターネットの要約サイトを介してあなたのことを知り、このメールを送信しています。
(俺はどこにもメアドを晒してへんで。嘘つくな!)
あなたは私の意図をご存じないと思います。
(知るかいな。超能力者じゃあるまいし)
ですから私からメールを受け取られたあなたは、またインチキなメールでメールボックスをあふれさせるつもりだなと立腹されたかもしれません。
(インチキそのものやんか。あまりに直球ど真ん中のスパムで、立腹する気も失せるわ)
確かに今、世界中にマネーロンダリングをするための詐欺的な醜い行為が溢れかえっています。しかし、私のお願いはそうしたものではありません。
(あんたが言ってる詐欺的な醜い行為そのものやないか。どあほう)
実は、私があなたを知らない、あなたが私を知らないということが重要なのです。(知人でもないのに声かけてくるやつは、ひゃっぱーろくでなしや。あんたは警戒せえへんのか?)
私は今、困難に直面しています。
(自力でちゃっちゃと解決せんかい)
あなたを信用して秘密を明かしますが、私は亡命を望んでおり、新政権の訴追を逃れるために現在難民キャンプに紛れ込んでいます。
(あんたなんかまるっきり信用できひんわ。携帯、パソコン、電子メールがさくさく使える難民キャンプやて? 豪勢やなあ。ずーっとそこにおったらええんちゃう? ごっつ快適やろ)
当国を脱出するにあたり、夫のフランシスがマドリッドの金融機関から多額の必要資金を私の銀行口座に振り込んでくれるはずでした。
(妻の一大事なら直接現地に乗り込まんかい! くっそ役に立たんダンナや)
英国政府は私の亡命を受け入れてくれるようですが、出国は手伝ってくれません。その上、新政権によって私の口座が凍結されたため、口座を使用することができません。
(難民キャンプに銀行の支店もATMもあらへんやろ。そもそも送金手段がおかしいんちゃうか?)
それで、あなたに資金移送用の口座をお貸しいただき、現地での資金調達を手伝ってもらいたいのです。
(いやや)
あなたは、私の話を信じられないと思います。
(信じる信じない以前の問題や。ぼろっかすのネタやな)
ですから、あなたに信用していただくため、またお手間をおかけすることへの謝礼として、資金につく利子を全てあなたにお支払いいたします。
(銭やるから言うこと聞けってか。めっちゃ態度でかいな。まあええねんけど、日本の銀行はどこも超低金利や。利子なんぞもろても、鼻くそにしかならん。報酬額はこっちで決める。ゴルゴ13のおっさんと同じで、全額先払い。それ以外は却下や)
もし、あなたが私を気の毒だとお思いになり、支援してくださるおつもりがあれば、このメールに返信してくださいませ。
(どないしてん同情なんかできひんわ。単なる金持ちのわがままやないか。難民キャンプで腐った根性叩き直してもらい)
折り返し、詳しい手続きについて、また資金に付いている利率についてお伝えしたいと思います。
(糞壺にわざわざメアドほる趣味ないねん)
かしこ。
(……くないわ)
ドリス・マーティンズ夫人
(夫人やないやろ。腐人やな)
◇ ◇ ◇
パソコンの液晶画面に向かって、全力でツッコミを入れている姿を想像していただければ。はい。
この手の詐欺メール。よくあるパターンは、現地国の要人が国外脱出に際して巨額の隠し資金を海外の口座に移したいので、あなたの口座を貸して欲しいと持ちかけてくるものです。今回のくそメールもそのパターンかもしれませんが、なにせ肝心なところがどうしようもなく木っ端微塵。なので、あえて逆パターン……すなわち夫が海外から送金した逃走用資金の引き出しを手伝ってくれというシナリオに乗せてみました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます