渋いあなたが好き

 鮮やかな色彩雫、重さと華やかさを併せ持つエルバンと来て、次にご紹介するのは趣向を変えまして渋めのこちら。

 プラチナ万年筆の古典インク『CLASSIC INK』です。


 古典インクは染料系に属するインクです。

 古典と名のつく通り、万年筆黎明期に流通していたインクの製法を守っているとのこと。もちろん現代に合わせて改良はされていると思います。

 古典インクの特徴は、他の染料系には無い、耐水性と保存性の高さ。

 一度乾けば多少の水気でにじむことはありません。

 でも顔料系とは違うんですよね。ボソボソボソ……(僕一回干からびさせてしまったことあるんですが、それでもペン先詰まったりしなかったので……)

 また、インクのpHが酸性であることも特徴のひとつです。

 酸性のインクは、長期間入れっぱなしにすることで、ペン先のメッキを剥がしたり、鉄ペンを腐食させてしまったりします。

 なので、鉄ペンでの使用は避けるか、定期的に洗浄したほうが良さそうです。もっとも、検証者に依っては「日本製の鉄ペンなら大丈夫」とされている方もあります。

 使用の際は、ちょっとだけ心に留めておいてください。


 さてさて、そんな古典インクのひとつ、プラチナ万年筆の『CLASSIC INK』さん。

 全6色のラインナップで黄や紫など、メジャーから一歩外れる色も含まれています。純粋な黒やブルーブラックはありません。

 おそらくその理由と思われるのが、色の変質性。

 書いた直後は色鮮やかなインクは、乾くにつれて黒へと変化していきます。

 インクの濃いところは黒く、薄いところは渋めの色に。乾き上がりの濃淡の美しさは、『CLASSIC INK』ならではと言えるでしょう。

 書きながらインクの色の変化を楽しめるうえに、最終的に渋い色合いに落ち着くので、普段遣いがしやすいですね。

 これ、先だってご紹介した、うちの魔女さんと非常に相性がいいのです。あの子、インクフローがたふったふなので。

 魔女さんの大容量コンバーターにめいっぱい入れて、ばりばり書きたい。そんんなインクです。



 ……ここからは余談になります。

 皆さま、万年筆のインクをなめたことはおありでしょうか。

 僕はあります。

 インクの無くなりかけで、出が悪くなった時などにちょびっと。

 ほとんどのインクは、ただ苦いだけです。なめてもあんまり楽しくありません。当然ですね、食品ではないのですから。

 その点、CLASSIC INKは違います。

 インクの先をひとなめすると、舌に広がる深い味わい――渋味しぶみと酸味が織りなす絶妙なコントラスト。

 これは明らかに我々に訴えかけています。「俺は食いものじゃねぇ」と。

 一味違う、とはまさにこのこと。おっこれは飲んだらやべぇぞ、と動物的直感が僕に告げています。当然ですね、食品ではないのですから。

 前述したとおり、古典インクは伝統的な製法で作られたインクです。ということはですよ。我々のご先祖――万年筆黎明期の愛好家たちも、折りに触れ、この風味を味わっていたということになるのではないでしょうか。

 連綿と続く万年筆の歴史に思いを馳せながら、趣深い古典インクに舌鼓を打つ。

 そんなひと冬の過ごし方があっても良いのかもしれませんね。




注)万年筆のインクは食品ではありません。阿呆の真似をして食べたり飲んだりしてはいけません。もう一度言います。インクは、食品では、ありません。

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