裕二
まず、兄のいいところから話そう。
第一にやさしい、それはもう善人悪人問わず全て対等に接してくれる懐の広さ。
第二に容姿がいい、神が完璧に作り上げたのではないかと錯覚してしまうほどに、この顔を好きではないという女がいるのであればそいつはきっと女じゃなくゴミカスだ。
第三に主人公気質、第四に文才がある第五に意外とかわいらしい部分もある、など、挙げればきりがない。
本当になぜ兄はこんなにも尊いのだろう、もはや国のトップは兄で良いまである。
結局何が言いたいのかというと、この僕、今井裕二は兄である今井太一のために存在し行動原理はすべて兄のため。兄の幸せのためであれば実の親であろうと道具として使う、そもそも継母と父を再婚させたのは僕の計らいだ、二人を運命的に出会わせて自然と恋に落ちるように誘導する。人をコントロールするのは意外にも簡単だ、実際今まで僕がコントロールできなかった人間は一人を除いてほかにいない。
「それにしても、兄の理想的な女性に仕上げるのはなかなか難しいな」
兄にふさわしい女性にしてやろうと兄が一番好きだった元カノ、一ノ瀬優奈を育成中の僕は頭を悩ませている。
冒頭でコントロールできない人間が一人、というのは訂正する必要があるのかもしれない。
僕の至高の兄、今井裕二、そして兄の最愛の元カノ、一ノ瀬優奈。
特に一ノ瀬に関してはまぁ余計な事ばかりしてくれる、勝手に拗らせて僕の計画を台無しにしてくれる、本当に面倒な女だ。
まったく兄はどうしてこんな女を好きになってしまったのだろう、正直性格はあれだがまだ鏑木とかいうヒステリック女の方がましだと思うのだが。
試しに鏑木のマネージャーと接近して事を起こさせてみたはいいもののそれがうまくいったかどうかでいうと何ともいえない。
変に頭が回る鏑木の事だ、きっと今回のことも僕が手をまわしていると思っているのだろう。まぁ、それは正しいけれど。
今現在、兄にとってのヒロイン候補は二人、一ノ瀬優奈と鏑木ほのか。
正直どっちもナンセンスだが、ふさわしさでいえば今は鏑木か、
「あーあ、僕が女性だったら全力で兄さんの理想の彼女になってあげるのにな」
いっそのこと性転換でもしてしまおうかと思ったが一応またの下についているこれも今後何かに使えるかもしれない、性転換は最終手段にしよう。
色々と思考を巡らせる、兄さんのいない自室にて、兄さんの皮脂の匂いがべっとりとついた枕に顔を埋めながら。
ん? 不衛生?
失敬な、仮にこの行為で顔にニキビができたとしても兄さんの皮脂が原因でできたニキビなら僕は愛せる自信がある。
そう、僕は兄さんに恋をしているのだ、それもその辺の薄っぺらい恋じゃない、僕は兄さんの幸せのためなら喜んで死ぬ、それくらい思っていないと恋とは言えないとすら思っている。
その点ではこの間の鏑木はかなり高得点だ、兄さんをかばって死にに行くなんて。
鏑木とは話が合いそうだ。
そうだ近々退院するとのことだったじゃないか、色々やらかしてくれたりしたが今回の一件で全てチャラにしてあげよう。
そうと決まれば何かご褒美をあげないとな・・・・・・
************
色々考えた結果、僕がたどり着いた結論。
一ノ瀬優奈ではなく、鏑木ほのかを育成する。
そうと決まれば早速実行しよう。
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