初めてのでぇと3
決してやましいことはない、そのはずなのに。
「こ、これは……」
「いいね、そんなにラブラブで、僕だってまだ優奈に膝枕してもらってないのに」
「別にそんなんじゃ」
「え、いいじゃん。むしろ僕はうれしいけどなぁ
……兄さんが元カノに未練がないってこになるからさ」
その時俺は初めて弟に悪意を感じてしまった、なんてことない言葉なのにこんなにも人を傷つけることが出来るのだと、自らが小説家でありながらその時初めて実感したのだ、そんな時、
「たっくんは具合が悪いだけで私が無理やりこうさせた、それが今の状況。はい、これでおしまい」
「え……」
鏑木は手をパシンと叩き弟をまっすぐ見つめる、ただそれだけなのになぜだか俺は救われた気がした、思えば俺は鏑木と言う女の子を誤解していたのかもしれない、相手の悪いところだけに目が行っていいところを見ようとはしなかっただけで、本当の鏑木はこんなにも気配り上手で優しくて、怖いものが苦手なごく普通の女の子だったのだ、それなのに俺は、
「ふーん、まぁいいや。……優奈、僕ちょっとトイレに行ってくるね」
「それじゃ私もトイレに、ごめんたっくん少しお留守番しててね」
そういって弟と鏑木はトイレに行き、何故か俺は元カノである優奈と遊園地に二人きりになった。
自己嫌悪にさいなまれながらもふと立ったままの優菜に気がつく
「と、とりあえず座れば?」
「ありがとうお兄さん」
そういって優奈は不気味なほど微笑みながら俺の隣に腰掛ける、懐かしい匂いに少しドキッとしてしまうが今では弟の彼女で、そして俺の元カノ。
そんな優奈にお兄さんと呼ばれることに少し違和感を感じてしまう。
「えと、そのお兄さんって呼び方変、かも」
「私はお兄さんの弟さんとお付き合いしてますので呼び方はお兄さんでいいと思います」
そういった優奈に俺は違和感を感じた。
「なんか怒ってる?」
「別に怒ってなんかいないですよ? 変な人」
そういって優奈はクスクス笑う。笑ってはいるのだが優奈の目は笑っていない、そりゃ仮にも元カレなのだから少しはわかっているつもりだ、優奈は怒っている時人の目を見ない、そして何かを我慢するかのように両手をギリギリと握りしめるのだ。
今この時のように、そうだ、優奈は怒っているのだ。
「怒ってるなら謝る、ごめん」
「別に怒ってないので謝らないでください」
「ゆ、優奈?」
「名前で呼ばないで!!」
大声で叫んだ優奈の声は周りにも当然聞こえていて、他のお客さん達の視線が集まる。
だが優奈はそんなこと気にせずにまっすぐと俺の目を見て、
「私は今裕司君の彼女なの! 太一とは関りもないし関わる気もない、ただの彼氏のお兄さんってだけ! 大体太一だってほのかと仲良くしてたじゃない、アイドルで可愛いもんね、羨ましい、私は私で楽しんでるんだからこれ以上私に関わらないで!!」
「ちょ、声大きいって」
「知らない、嫌い、どっか行け」
そういった後優奈はそっぽを向いてしまって険悪な雰囲気に包まれる、だが今の俺の感情はそんな雰囲気よりも怒りが勝っていた。
「てかそれを言うならそっちはどうなんだよ、弟と付き合いだしてから様子変だし俺に干渉してくるし、勘違いさせるようなことばっかり言って、普通に考えて元カレの弟と付き合うか? 気まずすぎてはげるわ!」
「は、はぁ!? 最初に変な態度とってきたのそっちでしょ? それなのに私が悪いみたいに、てか私だって色々考えたんだからね!」
「「はぁ、はぁ、はぁ」」
お互いに言い合いの後は息を切らして深呼吸、正直優奈とこうして面と向かって言い合いするのは初めてだ、付き合っていた当時些細な喧嘩はあったがこうもしっかりとした喧嘩はなかった、それはつまり、俺は優奈の気持ちをちゃんと知ろうとしていなかったということで、
「太一と別れたあと、正直きつかった。何も手につかなくて毎日泣いてた。それを助けてくれたのが裕司君だったの」
「は、そんな話あいつ一言も」
「私が言わないでって頼んだの」
「ていうか振ったのはそっちじゃん、それなのになんで」
「……言いたくない」
「は、はぁ!? 今更別に」
「言いたくないの! はいこの話おしまい、私は太一のことをお兄さん呼び、太一は私を名字で呼んで!!」
なんだが話を無理やり終わらせられたが、いまだ俺の中のモヤモヤは残ったままで、なんで俺が降られて、そしてなんで弟とつながりがあったのか、少なくとも俺は当時家に優奈を連れ込んだ覚えはないし、弟にも合わせたことが無い。
ならば何故? そんな考えだけが頭をぐるぐる回る。
「それと、最後に元カノからのアドバイスだけど、
……鏑木さん、かなり演技上手だから気を付けなよ?」
「そんな事あるわけないだろ、……二人とも遅いな、ちょっと見てくる」
その時の俺は優奈の言葉の意味を理解していなかったのだと後になり思い知る。
去り際にポツリ、優奈が何かをいっている気がしたがその言葉は俺の耳に届かずに遊園地のBGMにかき消されてしまった。
「……相変わらずだね、太一は」
************
side鏑木 ほのか
いったいどうしてしまったのだろうか、なぜ私はあの時太一をかばうような発言をしてしまったのだろうか。寄りにもよって共犯者である今井裕司に向かって。
「あぁ、気持ち悪い」
トイレの鏡に映る自分の顔が醜く見えてしまって仕方がない、お化け屋敷では少し取り乱してしまったが、まだうまくやれているはずだ。
今の私は今井太一の理想の彼女像を演じている、すべては今井太一を惚れさせるために、だがあの時私の口から飛び出た言葉は紛れもなく私自身の意思で発したものだ、本当に私らしくない。
トイレから出るとぶっきらぼうな顔をして私を睨みつける今井裕司の姿があった、何か文句でも言われるのだろう、それも仕方がない、私は先ほど失態をさらした、
「鏑木さん、君の仕事はあくまでも兄を惚れさせること、その過程で僕を好きに使ってもいいとは言ったけどさっきの言葉は少し違うんじゃないかな?」
「好きな男の子をかばう普通のセリフだったと思うけど?」
「そうじゃなくてさ、僕はさ、今まで兄の周りによって来る女を今までさんざん見てきたけど、そのビッチたちと今の鏑木さん、同じ顔してたよ?」
「……それは」
「まぁ、兄が魅力的なのは仕方がないけどさ、……お前だけには兄は渡さない」
「本当に兄バカ」
「なんとでも言え、僕は兄さんのために存在してるんだから」
そういって私に悪意をぶつけてくる、正直人の悪意には慣れているしこんなことで傷ついたりしない、こんなのあの日に比べれば、
「二人とも何やってるの?」
そんな声で一瞬正気に戻る、その声の主の正体がこの場に一番いてはいけない人だから、
「あぁ、兄さん。いま鏑木さんに兄さんをよろしくって話してたところ」
「はぁ? なんでそんな事お前に言われなきゃ」
「僕は兄さんが大切だからね」
「き、きもいぞ……」
「た、たっくんは弟に愛されてるんだね!」
「あいつ昔からブラコンなんだよな……」
あぁ、やっぱり彼が好きだ。
この隠しきれない鬱陶しい気持ちは隠せそうもない、それでも私はこれからも演技上手な女の子でいよう。
「ッ!?」
一瞬、誰かの気持ち悪い視線を感じた気がして振り返る、でもそこには誰もいない。ホッと胸をなでおろすと心配そうな顔で覗き込んでくる彼の顔があった。
「どうかした?」
「……な、なんでもない。い、いこ!!」
気が付かないふりをしてその場から逃げるように去る、
たった今感じた視線を私は知っている、あれはあの時の……。
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