王様ゲームという地獄

 王道ラブコメとかで見かけるヒロイン達と主人公が楽しそうに王様ゲームをして胸ドキドキ展開に心打たれていた昔の自分を殴ってやりたい。

 と、唐突に物騒な考えが頭を過ぎる、しかしそれは仕方がないことだと皆に言いたい。

 おそらく俺は気まずい空気を作る天才なのだろう、周りを見渡してみる。ここは弟の部屋で現在この部屋には弟、優奈、鏑木がニコニコと微笑んでおり、俺だけが冷や汗をかきながら苦笑いをしている。


 そしてみんな一斉に死の呪文を唱えた。


「「「「王様だーれだ」」」」


 俗に言う、これはよくあるラノベで用いられた王様ゲームのワンシーンである。

 ことの発端は俺と優奈が二度目の迎合を果たした後の話、


「ターくん、会いにきたよ!」


 そう言って入ってきたのはメイクと服を完璧に仕上げている鏑木だった、それはまだいい、問題は。


「兄さん、人の彼女と見つめあってどうしたの?」

「こ、これは別に……」

「ターくん私との約束忘れたの? 他の女と同じ空気を吸わないでって約束したじゃん」

「いやそれどこの国!?」


 はたから見れば俺と優奈が見つめあっているように見える光景、実際見つめあっていたのだが、を見られてしまったのがよりにもよって鏑木と、弟であると言うことだ。

 あまりの気まづさに咄嗟にその場から逃げ出したくなるが、それは出来なかった。


「ねぇ、その女、だれ?」


 目の前には般若がいた、顔は微笑んでいるのに目は全く笑っていない、先日の温泉で山田が向けられていた視線が今度は俺に向けられていた。

 今回は以前よりもさらに迫力が増しており、これが仮に漫画の世界ならば、鏑木の背景に、ゴゴゴゴ、と言う擬音が付いていただろう。


 おそらく俺は死ぬ、そう思った次の瞬間。


「ちょうどいいし、この四人で王様ゲームしようよ」


 なにがちょうどいいのか全くわからない王様ゲームの提案を、弟が宣言する。

 正直睨み殺されるよりはマシなので愛しの弟の提案に乗らせていただいた。



 ***********


 王様ゲームのルールはいたってシンプル、今回の場合は一から三の数字が付いた

 三本の割り箸と、四本中一本のみ王と書かれた割り箸がある、それをみんな一斉に引き王様を引いた人が一から三番の人になんでも命令できるというものだ。

 この至ってシンプルなルールだが、今の俺にとってはこのゲームは修羅場を引き起こす原因でしかない、そもそも王様ゲームとは付き合っていない男女が距離を近づけるために用いられるゲームなわけで現在付き合っている二人が混じる王様ゲームはなんの意味もない。

 のだが、


「僕が王様だね」


 俺以外のメンバーはなぜかやる気に満ち溢れていた。

 今回の王様は弟、俺の持っている数字は三番だ、一から三なので選ばれる確率は低いとは決して言えないが、さすがにしょっぱなから……


「んー、そうだな。三番が愛の告白をする」

「ぶふぅぅぅ!?」


 盛大に吹いた俺を弟は嬉しそうに笑っていた、


「……てか愛の告白って何をすればいいんだ?」

「え、さっき兄さんが人の彼女にしようとしてたじゃん」

「「ぶふぅぅぅ!?」」


 今度は俺と優奈が盛大に吹く、いきなり何を言っているんだこの弟は。

 空気がピりついた、俺の真正面から異様な視線を感じる。


「……ねぇ、それって本当?」


と、般若鏑木、


「冗談だよ?」


と、表情を変えずに弟。


「……」


 肝が据わっている弟、バーサーカーを目の前に動揺するそぶりを一切見せない弟に俺は少し弟が恐ろしくなった。

 そのあとは被害が一番少なそうな弟に愛の告白をたのだが、


「なんか、きもいね」


 鏑木に睨まれても動じなかった男が俺の愛の告白で動揺してしまうという事実にショックを受けた、のだが、身内と言うこともありそのダメージは長くは続かなかった。少し気なったのはその時弟が心なしか微かに震えていたのだが恐らく寒気でも走ったのだろうと考え、それで少しショックを受けたのは別の話。


「あ、次は私だ」


 次に王様を引いたのは優奈だ、どうすればいいのか分からず箸を持ったまま困り顔で考える優奈、そんな表情も好きだったなーと見つめてしまうが、今この場に弟と鏑木がいるのだと気づき即座にやめた。


「じゃぁ、一番が王様と十秒間見つめあう、とか?」

「僕だね、まぁいつもしてるしね」

「じゃぁ、たーくん私たちも見つめ合おう?」

「あ、あとででお願いします」


 今鏑木と見つめあったら石にされてしまうのでは? と言うほどの圧力を感じた、そんなこと考えながら苦笑いを続けていると命令が終わっていた。


 それから何回かゲームは続き、途中鏑木に襲われそうになったり犯されそうになったりしたが何事もなくゲームは進んでいき、メンバーはどうかと思うがそれなりに長く伝承されているゲームクオリティーのおかげもあってか俺はその空間を気が付けば普通に楽しんでいた。

 今思えばそれが間違いだったのかもしれない。

 何回目かのゲームで次でラストにしようとの弟の提案をうけた後のゲームで事件は起きた。


「お、最後は俺が王様か」


 今までなれなかった王様に最後になれた喜びもあって、


「じゃあ、二番が王様に愛の告白をする」


 その瞬間、鏑木は不機嫌になり、優奈は顔を赤くした。そして、弟は僕を見て不敵に笑っていた。

 命令を言い終わった後で気が付いた、この命令は悪手だということに。先も言ったカップル同士で行う王様ゲームにはこういうトラブルもある。


「わ、私が二番」

「こ、この命令は無効! さすがにやばい」

「いや、やりなよ。もともと王様ゲームを提案したのは僕だし、兄さんの行動を読み切れなかった僕が一番悪いからこれはそのバツってことで」


 出来た弟を持つと時に厄介だ、とこの時思った。

 よく言えば理解のある、悪く言えば感情的じゃない言葉に俺は追い詰められてしまった。

 そんな中、優奈は下を向きながら俺の正面に座る、そして顔を上げて目を合わせ、


「す、好きです……こ、これで終わり!!」

「うん、これでゲーム終了だね、どうだった僕の彼女の告白」

「ま、まぁまぁだよ、ちょっと飲み物とってくる……」


「あ、じゃぁ私たーくんについていくよ」


 冷静になるため俺は一度下に降りた、今は自分の感情をうまくコントロールできる気がしない、だからになるため俺は下に降りて行った。

 リビングに入り、俺は思い切りテーブルに頭を打ち付けた。

 そして今の感情を言葉に、


「元カノの告白がそんなにうれしかった? たーくん」

「めっちゃよかったぁぁぁ!! えぇぇ!?」


 目の前には儚げの表情を浮かべる鏑木がいた。

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