自宅訪問
弟と元カノが付き合って2ヶ月ほど経った、別にそれがどうと言うわけではないのだが普通の彼女にしては彼氏の家に通いすぎではないか、と最近俺は思う。
「お、お邪魔します」
「あ、はい」
「兄さん後でお茶でも持ってきてよ」
「え、まぁいいけど」
その後弟と優奈は階段を上って弟の部屋へと去っていった。
それにしても、今日で4回連続の自宅訪問と同じような会話、そして相変わらず可愛い優奈の横顔に見惚れる俺。とても死にたくなってきた今日この頃、そんな地獄のような日々の中、俺は2ヶ月と言う決して長くない交際期間の中で一つ気になっていることがあった。
ズバリ弟と優奈がどこまで進んでいるのか、と言うことだ。
勘違いしないで欲しいのが、俺はあくまで身内が不純な恋愛をしていないかどうかを気にしているのであって別に嫉妬とかではない。
もう一度言っておく、嫉妬ではない。
俺自身普通の恋愛をあまりしてこなかったのでどこまで行けば致していいのかなど一切わからない、なので俺は知り合いのプレイボーイ、山田に聞くことにした。
そして彼の返答は想像を遥かに超えていた
『んー、人によると思うけど俺だったら初日だな』
「不純!?」
気付いたら俺はスマホのディスプレイを血眼で連打していた。
さて、冷静になって考えようあの弟が付き合って初日で合体するだろうか? 答えは否、そうではないと信じたい。
そもそも山田は信用できない、先の温泉の件で山田の信用は地に落ちた。
ぐるぐる回る脳を落ち着かせる為冷蔵庫からリンゴジュースをコップに注ぎ一息に飲み干す。
程よい酸味が俺の思考をほんの少しだけ冷静にさせた、
「とりあえず二階に行こう」
そして中の様子を伺おう、なんて考えが浮かぶのはあくまでも弟の為を思ってなんだからね。
*********
さて、いざ弟の部屋の前にたどり着いたはいいがこれからどうしよう。
まずは扉に耳をつけ壁越しに部屋の中を盗み聞く、だけど中から音はしない話し声もなければ歩く音もしないし嫌なほど静かだ、まるで最初から誰もいないように。
「え、そんなことある?」
確かに弟と優奈は部屋に入ったはずだ、それは階段を上ったことで確認済み、二階にあるのは俺の部屋と弟の部屋だけなのだからここにいないとすれば俺の部屋にいるということになる、もし仮にそうだとすれば何故か?
そんな推理小説の一小節のようなセリフを頭で思い浮かべながら弟の部屋の前で考え込んでいると、
「兄さんの部屋から小説借りるだけなのについてくるなんて優奈はかわいいね」
「は、はは、そうかな?」
気づいたら俺は弟の部屋に逃げ込んでいた、と言うか明らかにさっきの話声は俺の部屋から聞こえた、だとすればほんとに俺の部屋に二人はいたということになる、つまり俺の推理はあっていた……
そして今弟の部屋に俺がいるという状況、非常にまずい。
「いや、普通に出ればいいだけか」
冷静に考えるとそうだ、さてそうと決まれば……
ガチャ、
そんな不穏な音が聞こえた、音からするにそれは紛れもなく俺の部屋の扉があく音で、そして今俺が部屋を出れば確実に変な目で見られる。これが弟だけならば言い訳もしやすいが、今は優奈がいるわけでつまり
「……隠れなければ」
恐らくタイムリミットは五秒ほど、その間に俺はこの部屋のどこかに隠れなければならない、辺りを見回しすぐに目に入ったそこに潜り込む。
その数秒後、
「兄さんいなかったね?」
「そうだね、まだ下にいるのかな……」
さぁ、ここからが勝負だ。俺の隠された隠密スキル覚醒しろ。
二人分の足音が部屋に響き渡る、心臓の音でばれてしまうのでは? と言うほどに俺の心音は早くなっている。突如、俺の上でギシ、という何かがきしむ音がした。
「……ふーん、なるほど」
「え、どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ」
所謂俺は今、ベッドの下のスペースにいた、先ほど急いで滑り込んだからだろう、ベッドの足が少しだけ傾いているがさすがにばれるまい、と信じたい。
神よ、俺を助けたまえ、
「それより、さ、優奈。僕もう我慢できないよ」
どさ、と俺の上でベッドに倒れこむ音がした、
「ちょ、ちょっと待って!」
「だめ、今日は待たないから」
「そ、そうだ、まだ明るいし、ね! し、しかもお兄さんも家にいるわけだから!! 危ないって!!」
ちょっとまて、何が起きている。今俺の上で何が行われようとしているんだ。願わくば俺の想像通りではないことを祈るがたぶん恐らく、確実にそういうことでしょこれ。え、何、俺今から弟と元カノの行為真っ最中のベッドの下で待機しないといけないの、何その地獄。死にたい。
「……大丈夫、兄さんにはばれないって」
弟ってこんなエロイ声出すんだ、兄さん感動して泣いちゃうからやめて、せめて俺のいないところでしてくれ。
なんて思考で現実逃避をする、俺の目からあふれる涙、それの理由などとうにわかっていた、
そんな時、家中に呼び鈴が鳴り響く。その音が俺には天使の歌に聞こえた、と、ここに記しておく。
「兄さん……はいないから僕がいくか、ごめん優奈ちょっとまってて」
「え、うん」
そう弟の声が聞こえた後部屋から出ていく音がした。
それは少なくとも今は俺の真上で行為が行われない、と言うことではあるが、いまだベッドの下から出れないことに変わりはない。
「はぁ、危なかった」
上からそんな優奈の声が聞こえた、ほっとするような声音を聞いて俺は少し不思議に思う、付き合っているのだから致すのは当然なのでは? と。
もし万が一、優奈が弟と致すことを望んでいないのであればそれはまだ俺にチャンスがあるのではないのか、そんな甘い考えが頭をよぎる。
そんな最低な考えをしてしまう自分が心底嫌いになる、昔の女、そういって割り切れてしまえばどんなに楽だろうか。
「「はぁ」」
気が付けば俺は思わずため息をついてしまった、だがそのため息が誰かと重なったおかげで事なきをえた、のだが。
バフッ、
そんな音が俺の上部から聞こえた、それは音からするに優奈が枕に勢いよく頭をぶつけた音だった。
なぜそれがわかったか、
まず言っておこう、俺は昔から鼻炎持ちでハウスダストにめっぽう弱い。そしてベッドの下と言うハウスダストの住処のような場所で先ほどからバフバフされると、ほこりが舞い上がり、俺の鼻に大打撃を与える。
つまり。
「ぶえっくしょん!!」
「え!?」
最大火力のくしゃみをしてしまったわけで、それに当然優奈は気が付くわけで。
そこで今日俺と優奈は本日二回目の対面を果たしたました、今日ほど俺自身の体質を恨んだ日はない。
「だ、大丈夫?」
そういって優奈は鼻水まき散らす汚い元カレ、今では彼氏の兄にさりげなくボックスティッシュを渡してくれた。
「あ、ありがどう……ズビィッ」
「相変わらず鼻炎はなおってないんだ」
驚きつつもクシャっと笑う優奈に思わず見とれてしまう、あぁ、まだ好きなんだな。と自覚させるには時間はかからなかった。
それはダメなんだと頭の中の自分が叫ぶ、ただそれを抑えられるほど俺は大人ではなかった。
「優奈、俺はまだお前のこと……」
その次の言葉は、
「たーくん会いにきたよ!!」
鏑木ほのかと言うアイドルによって遮られてしまった。
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