恐怖の温泉
名に蛇を冠するダンディーな戦士をみんな知っているだろうか?
俺は今、その戦士を本気で尊敬している、つまり何が言いたいかと言うと、
(……いやこれ、無理ゲーじゃね?)
基本的に考えてお湯の中を音を立てずに移動するなど無理だ、潜水して脱出も最後には見つかってしまうからとても無理、まず息が続かない。
俺の命は今風前の灯、中央に鎮座されます岩が無ければ今頃俺は血祭りに上げられていただろう。
そしてタイムリミットもある、普通にのぼせそうだ、視界がフラフラする。
『うわ、鏑木さんのおっぱいお湯に浮いてる』
『ハッハッハ、これが所謂おっぱい浮き輪という奴だゼ☆』
岩の反対側からそんな会話が聞こえる、おっぱい浮き輪? ハッ、そんなの別に……
『アレ、なんか岩の向こう側から音聞こえたような』
『うっそー、私と優奈ちゃんの他に誰かいたっけ?』
……何故だろう、意識が段々遠のいて行く、と言うかおっぱい、見たい。
そんな最低な考えを思った後俺は湯の中に沈み込む、その音で恐らくは優菜と鏑木に俺は発見されよくて血祭、最悪処刑まである。
そんな時、
「あー混浴最高、パイオツカイデーのねーちゃんいますかー」
「「…………」」
この最低なセリフとチャラい声、紛れもなく山田である。普段であれば一発食らわせてからさらにもう一発食らわせてやるとことなのだが今回はナイスなタイミングである。
俺は残りかけの意識と、震える体に喝を入れ恐る恐る岩の影からその様子を探る。
「ま、待てお二人さん、その女性が持つにはあまりに大きい石は何ですか!? なぁ、落ち着いて話合おう、暴力では解決できないことってこの世にはかなり多くあると思うんだ」
「あー私こいつ嫌いなタイプだわ、結論。死刑★」
「賛成、親友の幼馴染でも容赦しないわ」
「おいマジで待てって!」
目のまえの親友は俺を守ろうと自身を犠牲に俺を助けようとしている、気が付くと俺の目からは熱い雫がこぼれていた。お前のことは忘れない山田。
山田が身を挺して時間を稼いでいるうちに俺は逃げ出す準備をするためになるべく水音を立てないように出口の方へと進んでいく、なぜだか背中に一人の男の熱い視線を感じた気がした。恐らくこう言っているのだろう。
『止まるんじゃねぇぞ』
なんてかっこいい男なのだろか、
「あ! あそこに今井太一が」
「「え」」
「さらば!!」
「「「は!?」」」
その時起きたことを俺は忘れない、親友山田の華麗な逃走を、優菜と鏑木と俺の綺麗なハモリを、当時とは違う優菜の透き通った肢体と、暴力的な鏑木のおっぱいを。
まぁ、なんというか。
山田後で埋める。
************
混浴って素晴らしいものだと思っていた、時期が俺にもありました。
俺が一体何をしたというのだろうか、もしこの世に神様がいるのだとしたらその神様はきっと鬼畜ドSド変態の糞神なのだろう。
だってそうでもなければこうはなっていないはずだから。
「「「…………」」」
なぜ俺は今混浴の風呂で元カノ二人に挟まれながら湯に浸かっているのだろうか。
しかも何故沈黙が続いているのだろうか、圧倒的気まずさ、今まで体験したことの無い気まずさに嫌な汗が先ほどから止まらない。
それは右隣の優菜も同じなのか先ほどから下を見て目を合わせようとしない、それでも何故か俺の隣を離れないのだから不思議だ。
逆に俺の左隣の元カノ、鏑木ほのかは先ほどから俺の顔を見てずっと何かを言いたそうな表情だ。正直どうすればいいのかわからない。
そんな果てしない気まずい沈黙を最初に破ったのは
「たーくん、久しぶり」
顔は笑っているのに目は全然笑っていない鏑木だ、これは下手に話しかけると殺されかねない、と俺の昔の記憶がそう告げている。
「は、ははそうだね五年ぶり、くらいかな?」
「ううん、三日ぶりだよ。夢の中で私とデートしたじゃんたーくん」
「そ、そうだったね」
バシャ、と右から水音が聞こえた、右隣では優菜が顔は伏せたままで肩を震わせていた、得体のしれない迫力があって今話しかけたらこちらもただでは済まないような気がしてならない。
両隣の鬼神のごときオーラをまとう女二人、あ、俺死んだな。何鏑木ほのか怖すぎ、夢の中であった? なにそれ美味しいの?
「もうたーくんったらその日は寝かせてくれなかったじゃん、次の日お仕事だったのに寝不足で大変だったんだからね?」
「それはごめんね?」
疑問符が止まらない、夢の中で寝不足とは高次元過ぎて話についていけない。
この女はさっきから何を言っているのだろう。
そしてさっきから右から聞こえる水音が大きくなってきている、まるで死神が俺の命を刈り取りに来ているかのようだ。
やはりこの世界の神はいかれている、
「てかたーくんその隣の女誰、私と約束したよね、半径一キロメートルに私以外の女を入れないって」
「いやそれ何処の無人島?」
「じゃぁ、私以外の女を視界に入れないで」
「………」
一言でいうとやばい、この鏑木ほのかは当時からかなりのメンヘラなのだ、当時三か月続いたのが奇跡でしかない、と言うか三か月でようやく逃げ切れたのだ。
付き合って最初に言われた言葉が、『他の女と一緒の空気を吸わないで』だ。
俺のメンタルは初日で崩壊した。
「あ、あのほのか? 急にどうしたの?」
「話しかけないでミジンコ」
「え……」
さすがの優菜も顔面蒼白、それは仕方がないだろう、この鏑木ほのかと言う女は自分以外の女は異性が絡む限りごみ以下でしかないのだから。当時のトラウマが次々とよみがえって俺の精神は今現在の異常な状態と相まって崩壊寸前である。
「だいたいあんたたーくんの何なの、元カノとか言ったら頭カチ割るけど」
「いやいや、元カノですけど何か」
「へー、遺言は? あ、やっぱりいいこれから死ぬ人の言葉聞くだけ無駄だし」
「天下の国民的アイドルのほのりんの本性がそれってわけね」
そして唐突に始まる鬼同士の喧嘩、もうやめよう、考えることを。
そんな時俺の頭に衝撃が走った、最後に視界をとらえたのは恐怖で青白い親友山田の顔だった。
************
目が覚めるとそこはホテルの一室だった。後頭部に微かに残る痛みが何なのかわからない、ただ確かなのが昨夜の出来事が夢ではなかったということ。
それが本当だと認識できたのは、隣で気絶している傷だらけの親友山田の姿。
とりあえず手を合わせておいた。
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