sideA B 温泉と言う名のカオス。
sideA (太一の場合)
端的に言ってソレは男にとってのパラダイスだ。
と、いきなりこんな事言われても理解ができないようでありますので懇切丁寧に解説して行こう。
……まぁ、結論から言うと親友山田がぶっ倒れた。件のバーでしこたま飲んだ後、帰りのタクシーに乗る瞬間見事にリバース、俺は人目も気にせずずっと親友の背中をさすっていた。
そんでもって現在、何故か俺は親友とホテルにいた。
いやまぁホテルと言ってもラのつくホテルでは無いし、普通のビジネスホテルである。
ただここのビジネスホテルの特徴を代表して一つ挙げるとすれば、
「……混浴、だと」
ホテルの最上階に割りとデカめの温泉がある。
付け加えると混浴の。
だからなんだ、嫌なら部屋の風呂に入ればいいじゃ無いか?
は、馬鹿め、何のために俺がタクシー代五千円払ってここまで来たと思ってる。
「今井太一、男になります……」
俺は決意した。
しかし言い訳をさせて欲しい、別に俺は混浴と言うことを最初から知っていた訳ではない。
それに一見混浴と聞けばムフフな展開を期待するだろうが、ぶっちゃけリアルの混浴などおじいちゃんおばあちゃんの憩いの場でしか無い。
いいか、リアルの混浴に夢をみてはいけない。
そう心に言い聞かせて、俺は暖簾を気合を入れてくぐった。
********
sideB (女子達の場合)
何故こうなってしまったのか、最初はただバーで『失恋テキーラ』を煽っていただけだと言うのに。
とあるホテルの最上階、結構有名な温泉の脱衣所にて私は世界に絶望していた。
「いやぁー、アイドルともなるとこう言う場所は滅多に来られないからさ。優奈ありがとちゃん☆」
「……あ、はい」
何故私はバーで知り合った初対面の人物、付け加えると現役アイドルであるお方と深夜に温泉に来ているのだろう。
……ちなみに親友であるところの由香里はバーにおいて来た、マスターはおそらく朝まで愚痴を聞かされるだろう。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。
ここで一番大事なこと、それは……
「鏑木さん、大きいですね……」
私は鏑木さんことほのリンのある一点を見つめてそう呟いた。
そう、胸である。
「えぇー、別に優奈もないわけでは無いじゃん。推定Cと見た」
「や、やめてください!?」
鏑木さんがスカウター的な感じで私の胸を凝視する、シンプルにやめて欲しい、それ以上続けたら何かが破壊されるだろう。
「もー、いいじゃ無いの。おっぱいで男が釣れる訳でも無いし」
「帰りますよ……」
「ご、ごめんて」
そんなくだらない会話をした後、私と鏑木さんは温泉へとレッツゴーしたのであった。
扉を開けた瞬間、視界は蒸気で真っ白になる、その数秒後、私の視界にはあっと驚く光景が広がっていた。
所謂露天風呂というその温泉、有名と言われるだけあって素晴らしいものだった。
中心に自分の家のお風呂の広さとは比べものにならない程どでかい湯つぼ、恐らく五十人で入っても全然余裕があるだろう。
何よりすごいのがホテルの最上階から眺める夜景、それを眺めているだけで嫌なこと全て忘れられそうだった。
「うわぁ、噂通り凄いね、ここ」
流石の鏑木さんもこの光景には驚いたようだ、横に目をやると鏑木さんの瞳は輝いていらっしゃる、まるで子供のようだ。
……まぁ、体は全然子供じゃ無いけど。
見れば見るだけ劣等感に苛まれるそのダイナマイトボディーと自分の幼児体型を比べて私は一人モヤモヤするのだった。
********
sideA (チキンボーイ太一の場合)
混浴に夢を見てはいけない、あれは嘘だ。
一人夜景を見ながら黄昏ていた俺を襲ったのは二匹のホモサピエンス(メス)そしてどうやらその二匹、俺の知り合いらしい。
何故だろう、先程から冷や汗が止まらない。
不幸中の幸いだったのは、湯つぼの真ん中にどでかい石がある、と言うことだ、そいつのお陰で俺は事なきを得ている。
しかし、
「……何でアイツもいるんだ」
俺の恋愛事情でトラウマ的存在は二人いる、一人はみんなご存知一ノ瀬、そしてもう一人、ヤンデレアイドル様、鏑木ほのかだ。
一ノ瀬と付き合う前、まだ俺がイケイケだった時代の話、俺と鏑木は出会った、親友山田に連れていかれたアイドルの握手会にて。
当時俺が中学三年生だった頃の話だ、その時の鏑木はまだデビューしたてホヤホヤの出来立てアイドルだったのだ。
そして握手会が終わってすぐの事、何故か俺は鏑木ほのかに告白されていた。
もう一度言う、俺はアイドルに告白されていた。
あぁ、何を言っているのか理解できないかもしれないがつまりはそう言う事だ、結論から述べると俺はモテモテだった、
すいません、調子乗ってすいません。
その時の俺はアイドルと付き合えるとかぱネェ、とか軽い調子でオッケーを出したのだが、それが地獄の始まりだった。
鏑木ほのか、そいつは俺にとって悪魔だった。
基本連絡を返す習慣がない俺対連絡は秒で返す今時女子の対決だった。
連絡を返さなければ電話の嵐、そしてそれすらでなければ自宅に特攻してくる始末、まぁ、多分連絡をすぐ返すと言うのは当たり前なのかもしれない、少なくとも俺以外は。
とにかく鏑木と言う女は俺と言う男にとって相性が抜群に悪かった。
結局鏑木とは三ヶ月程で別れてしまったが、別れてからもちょくちょく連絡は来ていたりしていた。
その時の様子を親友はこう呼ぶ、『アイドルを汚した最低男の図』と
……山田あとで埋める。
とにかくだ、今俺は見つかるわけには行かなかった、見つかってしまった瞬間、恐らくとんでもないカオスに包まれるだろう。
それだけは避けなくてはならない、
だから俺はある作戦を実行に移す。
『岩に隠れつつ風呂から退散作戦』を。
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