side B 合コンというか修羅場(その後)
居酒屋から飛び出した私はただひたすらに走った、走って、走って、走って、
……捕まった。
私が飛び出した原因を作った張本人、佐藤由香里に。
「なんで逃げるのよ!!」
大分走った筈なのに親友は息一つ切らさずに私を睨みつける。そういえば親友は中学高校と陸上部に入っていたのだった、それなら疲れていないのも納得である。
そんな親友に比べて私は、
「ゼーゼー……だ、て……はぁはぁ、ゆか、り、はぁ、が!!」
「……取り敢えず息整えな」
そうでございますね。
「すーはぁーすーはぁー。……もう大丈夫」
「体力ないのに走るから……」
それもこれも全ては親友がへんなことを言い出すからだ。あの場所でアレを言い出すのは流石にきつい。
それに、
「太一のあんな顔、初めて見た……」
今にも死んでしまいそうな、すっかり青ざめてしまったあの顔を私は初めて見た。
それを見て私はハッキリとわかってしまった。やはり彼の心に私は一ミリたりとも存在しないのだと、わかっていたことではあるけれど、それがハッキリとしてしまったのだから、
「もう、無理だよ……」
そんな弱気な言葉がポロリと口から溢れる、俯いてアスファルトを見つめていると、アスファルトに黒いシミができる。
今私は泣いていた。
「……優奈」
そんな私の背中を親友は優しく撫でてくれる、これでは遠くから見ると私が具合が悪くて吐いているものだと勘違いされてしまいそうだが、それを言う程野暮では無いので、今は親友の不器用な優しさに甘えるとしよう。
「なんか、ゴメンね。私がへんな事言うから……」
親友は申し訳なさそうな声音で私にそう告げる、だがあの場はあれでよかったのかも知れない、そのお陰で早く気がつくことができた。
これでようやく……
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ、むりだよぉぉぉぉ!!」
「うわ! いきなりそんな声で泣かないでよ!!」
私は泣きながら親友の胸に飛び込んで思い切り泣き続ける、親友の服に涙と鼻水が飛びまくっているが、今回だけみのがして欲しい。
「あぁもう、泣いてもいいけどあとでクリーニング代ね……」
酷い、それでも親友なのか。
********
それから私たちは親友イチオシのバーへと向かっていた、向かっている際、私は目を赤く腫らしているのを見られたくなくて親友の背中に顔をくっつけて歩いていた。
多分、と言うか確実に目立っていた。
「ねぇ、そろそろ離れてくれない? 恥ずかしいんだけど……」
「ヤダ、私は傷心中なんだぞー」
「絡みウザ★」
そんなやり取りをしていると件のバーへとついた様だ、そのバーは二階建てと言う珍しい作りで、一階にはバーカウンター、そして二階には軽いしきりがつけられた個室の様なものが設けられている。
なんというか途轍もなくオシャレな所だった。
「あーマスター。この子に失恋テキーラ、そんで私はソルティードッグ」
「あいよ、……珍しいね、お客さんが連れとここにくるなんて」
「まぁ、今日はたまたま」
一階のバーカウンターに腰を降ろした私と親友だったが、どうやら親友はここのマスターと仲がいいらしい。
因みにマスターの外見はダンディーとだけ記しておく。
「あいよ、失恋テキーラ」
「……あ、どうも」
そう言って出されたカクテルは透き通る様な青だった。
と言うか『失恋テキーラ』って露骨すぎでは?
とは思いつつも一口飲んでみる。
「う……強い」
「そりゃ、テキーラだからね。その味が失恋の味らしいよ? マスター曰く」
何というか、とても酔いそうな味だ。基本的にアルコールの味しかしないのだが、仄かに感じる甘さと、テキーラ独特のクセが合わさってなんとも言えない味がそこにある。
「そのカクテル人気は無いんだけど、名前が名前だからそういう人が面白半分で頼んだりするんだよ。ちなみに今上にいるお客さんも同じのずっと飲んでるから多分失恋したんじゃないかなぁ……」
と、マスターは苦笑いで言った。
そうか、私以外にも失恋した人がここにいるのかと思えば何となく心が軽くなる。
「ちょっとマスター聞いてよ!」
「ハイハイ……」
そんな事を思っていると、隣では親友による愚痴り大会が開催されていたので、私は知らないフリをしてカクテルをチビチビと飲み続ける。
正直言って美味しいとは思わないが、なんだか『失恋テキーラ』を飲んでいると全て忘れられそうになってくる。
恐らくは強すぎるテキーラのアルコール度数のせいで思考回路が緩くなっているからだろう。
「……はぁ、なんかもう、疲れた」
自然とそんな言葉がアルコール臭い息と共に溢れた。そして『失恋テキーラ』を一口含む。
「……私も疲れたわ」
と、右隣に座る親友の逆、つまり左隣からそんな声が聞こえて来た。
驚いて私はその声の主の方に視線を送った。
……そしてカウンターの向こうに立つダンディーなマスターの顔面に『失恋テキーラ』を吹き出した。
「あァァォア!!!! 目がぁー!! メガァァァァ!!!!」
そんなマスターの断末魔すら耳に入らない程私は困惑していた。
だってその声の主は、
「……あ、変装するの忘れてた」
「鏑木ほのか!!??」
「ピンポーン、みんな大好きほのリンでっす☆ ってやってられるか!!!!」
そう言った後、国民的人気アイドルグループ、『rouge《ルージュ》』のセンターメンバー、愛称ほのリンこと鏑木ほのかはカウンターに思い切り頭突きした、ハッキリ言ってシュールだった。
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