side A 合コンと言うか修羅場
この世に神様が居るのならば俺は只一言物申したい。
『貴様は鬼か』と。
まぁしかしこればかりは神が悪いというよりも親友山田が全面的に悪い、だがしかしその諸悪の根源たる人物は必至に無実を証言して居る訳なのですが、
詰まる所今は、某居酒屋の男子トイレで作戦会議中だった。会議の内容、もとい尋問の内容は、『合コンのメンツ』についてだ。
「んで、被告人山田。……何故アイツが居るっ」
歯をギリギリと噛み合わせながら俺は出来る限り精一杯の強面顔で親友を問い詰める。
「だからそれは俺が知りたいっての!! 俺だってまさか一ノ瀬がいるなんて思っても見なかったし!!」
必死に弁明を続ける親友の様子を見る限り、恐らくコイツは白なのだろう。
因みに今日の親友は長めの髪をオシャレにセットし、服装は派手だが浮きすぎないという如何にも美容師が着ていそうなファッションだ、対する俺は……誰得なのか一切謎のなので描写は控えさせてもらう。
「どんな顔して話せってんだよ……」
ここは知らないふりをするべきか、それとも弟のためを思って問い詰めるべきか、どちらにせよ気まずさはハンパじゃない。
正にカオスだ。
「とりあえずは知らないフリするのがお互いにとってベストじゃねぇか? ちょっと何者かのイカれた陰謀的な何かを感じるが……」
そう言って親友は思案顔を浮かべる、しかし言動から推測してロクなものではないと思うので華麗にスルーでオッケーだ。
まぁ、取り敢えず、目下の所は知らないふりで通すとしよう。
変に納得した俺は気休め程度の変装に普段愛用しているブルーライトカットメガネを懐から取り出して掛ける、そんな俺のメガネ姿を親友の山田は細い目で見つめていた。
「……お前メガネ似合わないな」
殴るぞ。
「おい、俺の記憶が正しければこの黒縁メガネはテメェの誕生日プレゼントだと記憶してるんだが?」
「伊達眼鏡デビューの大学生wwww」
「……後で埋める」
ヘイSiri、この近辺で人を埋めるに適している森は? ん? 『早まらないで下さい』? ははは、ちょっとしたジョークだよ。
「取り敢えず俺は行くからな、そのメガネつけるかつけないかゆっくり考えてから戻ってこーい」
「余計なお世話だ!!」
そんな俺の言葉を背中に受けて親友山田はトイレを去って言った。
……さて。
「……そんなに俺メガネ似合わないかな」
トイレの鏡に映った俺の顔はなんだか冴えない顔だった。
********
「それじゃ自己紹介から始めよー!!」
「おー!!」
「「……お、おー」」
居酒屋の個室内で元気な声が二人分、そして覇気の無い声が二名。
内訳は言わずもがな、元気のある方が山田、そして一ノ瀬ではない方の女。元気ないのがその他である。
席は出口側の方の席に俺と山田、山田の向かいに一ノ瀬ではない方、そんで俺の向かいには……
「「…………」」
最近では見慣れた顔、我が元彼女にして現在弟の彼女であるところの一ノ瀬優奈だ。
……山田、少しは配慮してくれ。
「そんじゃ俺から行くわ、てか俺の連れと佐藤は知ってると思うけど、あー、山田真司です、どうも宜しく!!」
「テンション高いのに内容薄くない?」
「うっさい! こんなんで充分だろうに!!」
お隣の山田と佐藤さん? はどうやら知り合いらしく、盛りに盛り上がっていやがった、あちらサイドとこちらサイドの温度差は砂漠の昼夜の気温の様に違う
「それじゃ私! 名前は佐藤由香里です、向かいのコイツとは所謂幼馴染という奴で御座います。不愉快な事に」
「おい! 最後のは余計だろ!!」
「はいはい、……それじゃ次、優奈!」
「ひゃ、ひゃい!!」
佐藤さんに名前を呼ばれた一ノ瀬は変な声を出しながら立ち上がった。てかなんだひゃいって、……可愛すぎんだろうがっ。
「……一ノ瀬優奈、です。……はい」
「「終わりかい!!」」
なんだ二人とも、さっきからテンション高すぎないか? ヤッパリグルなのかコイツら……。
そんな事考えているうちに今度は俺の番である、
……さて、どうしたものか。
「えーゴホン。……佐野渉です、諸事情ありまして普段使わせてもらってるペンネームでの自己紹介でした!!」
よし! こんなのでいいだろう!!
「「「……ジー」」」
「な、何でしょうか?」
何で自己紹介の後に俺以外の三人から冷たい視線向けられなきゃ行けないのだろう、てか一ノ瀬までそんな目で見ないでくれ、心がブレイクしちゃうから! ハートブレイク必須だから!!
凍てつく視線を全身に受ける俺は冷や汗を掻いていた、そして沈黙。
「「「「…………」」」」
仮にも合コンであるこの場では致命的なほどの沈黙を最初に破ったのは、佐藤さんだった。
「……もういいか。えと、今日の集まりさ、ほんとは合コンじゃ無くて優奈と太一くん? の為の集まりだから」
と、佐藤さんは言った。
それから続けて、
「もう面倒だからこの際ぶっちゃけるけどさ……」
そこから先は聞いてはいけない気がした、何故かは知らないが先ほどの汗とは違う汗がジワ、と背中から吹き出して来た。
「……優奈はまだ太一くんの事」
ダメだ、それを聞いては戻れなくなる。
「やめて由香里!!」
そんな一ノ瀬の大きな声は佐藤さんの言葉を途中で遮った。
「私には……、そんな資格なんて無いよ……」
「ちょ、優奈!?」
そんな意味深な言葉を吐いた後、一ノ瀬は出て行ってしまった、佐藤さんもそれに続いて出て行ってしまった為、今現在個室にいるのは俺と山田だけだ。
いたたまれない空気の中、山田はもうぬるくなってしまったビールに口をつける。
「……ヤッパリ、お前は一ノ瀬とヨリ戻さないほうがいいよ」
「いきなりなんだよ……」
山田に続いて俺もぬるくなったビールに口をつける、ぬるくなって苦味をましたビールはとてつもなく不味い。そして何故か少ししょっぱかった。
山田も俺と同じことを思ったのか顔をしかめさせている。
「だってよ、本当に好きなら何で今お前はそんな苦しそうな顔で泣いてんだよ」
「……は? 泣いてなんか」
手のひらで顔を覆って顔を隠す、心臓の鼓動が嫌に早い。まるで何かを訴えている様に。
「今日は解散、だな。それともこれから二人で飲み直すか?」
「……付き合ってくれるか?」
「おうよ、親友だろ。何処に行く?」
「……カラオケ」
俺がそう言った時山田の顔が少し歪んだ気がしたが多分なにかの勘違いだろう。
「俺イチオシのバーがある。そこにしましょう、と言うかして下さい」
俺は山田が土下座する所を初めて見た。
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