弟の彼女が元カノな件
sideA ぶっちゃけた話
ぶっちゃけた話、俺は割とモテていた、
……事があった。
自分で言うのも何だが、昔の俺は割と顔面偏差値高めの男子だったのだ、それも中学時代の話ではあるのだが。
それはもうテンプレラノベ主人公なんて目じゃないほど激モテであった。
中学時代の俺は、いわばリア充の頂点に君臨する、『リア王』だった。
つまり何が言いたいかと言いますと、
「さーて、彼女探しにナンパしよーっと!!」
自宅の玄関でそう雄叫びをあげる、因みに二階には今日も今日とて弟の彼女、もとい俺の元カノが遊びに来ている。
話が逸れたが、つまりはそう言う事。今井太一、これから人生初のナンパチャレンジを実行したいと思います。
「まぁ俺ってばモテるからなー、そんな俺がそこら辺の女に一声かければコロッといっちゃうに違いねぇ!!」
俺は大声でそう叫ぶ、二階にいるであろう二人に聞こえるように、元カノに、『俺もう全然お前の事好きじゃねーから!!』アピールするために。
……あぁ、つら。
「さっきからうるさいんだけど……」
玄関で落ち込む俺の後ろからそんな声が聞こえた。ギョッとしながらゆっくりと振り返る、
その声の持ち主は、
「私への気持ちもう無いからアピールとかいちいちしなくていいから、というか言われるまでもなくそんなこと分かってるし今更そんなこと言われたところで痛くもかゆくも無いんだからね!!」
何故か目を真っ赤に晴らして俺を睨みつける、俺の元カノ、
一ノ瀬優奈だった。
「というかたしかに昔の太一はカッコよくてそりゃモテモテだったかもしれないけど、今の太一にはまったく、これっぽっちも魅力のみの字も無いんだからね!!」
「……は、はぁ」
一ノ瀬はそう言いながら俺に手鏡を渡してくる、いまいち状況が理解できない俺は手鏡を受け取ってそれを覗き込む、
そこに映っていたのは、
「ううぅぅ……そのままの格好でナンパなんかしても絶対成功しないわよ」
「確かに、こりゃ酷い」
そこに映っていたのは、昔の様に短く整えられた髪ではなく、ボサボサで寝癖すら直していない、清潔感をまるで感じない伸び切った髪と、これまた伸び放題の髭たち、思わず苦笑いしてしまう。
「……せめて髭くらい剃って行ったら」
「……ん、そうする」
一ノ瀬に手鏡を返した後、俺は立ち上がって回れ右して即座に洗面台へと向かう、何故だかわからないが顔が暑くなる、一ノ瀬の顔が見れない。
洗面台に着くなり鏡を凝視する俺の顔は、
「ははは、ばっかみてぇ……」
乾いた笑みを浮かべる程赤面していた、頭を掻きむしりながら目の前に映る情けない自分を凝視する様は最早狂気ですらある。
「結局忘れられない訳ね……」
分かっていたことだ、何しろ数年経った今でも一ノ瀬との思い出は色褪せてはいない、それどころか鮮明さを増していくばかりである。
よく男は根に持つタイプであり、女はきっぱり忘れられるタイプである、と母親から言われていたが、どうやらそうらしい。
「でも何で……」
電動髭剃り機の電源を入れ、伸び切った髭たちを刈り取っている際、俺は思うのだった。
目を赤く晴らしながら俺に罵倒する一ノ瀬の表情、あれは。
「どう考えても……いや、考えすぎか」
何しろ一ノ瀬優奈は演技上手な女だ、その程度の感情など容易にこなして見せるだろう。
ふと、洗面代の脇に置かれたハサミに気がつく。
「ついでだし、髪も切るか……」
ついでに髪でも切るかと思いつき、振られてから一度も切っていない髪を切ってやろうと決意を固める、因みに言うと、俺は物心ついた時から自分で髪を切っていた、なので髪を切るのは割と得意分野だ。
「そういえば一ノ瀬の髪も……」
またこれだ、何かにつけて俺の脳内には一ノ瀬が染み付いている、まるで寄生虫の様に。
「はぁ、とりあえずナンパしにいこ……」
そんな最低発言を吐き出しながら俺は厚ぼったい髪にハサミを入れるのだった。
********
「なぁ一ノ瀬、俺の髪……って、寝てんのか」
ヒゲを剃り、髪を切り、スッキリとした俺は一ノ瀬に意見を求めようとリビングへと向かった。今にして思えば、一ノ瀬は弟に会いに来ているのであって、リビングにいるはずが無いのだが、生憎と一ノ瀬はそこに居た、我が家のソファーで眠りこけているが。
「ったく、風邪でも引いたらどうすんだ……って俺はコイツの彼氏か」
まぁ、元彼氏ではあるが。
弟の部屋に運ぶために二階の部屋へと尋ねてみるが、弟はいなかった。
「しょうが無い、か」
そう呟いた後、俺はリビングへと戻り、未だ眠りこけている一ノ瀬を担いで自分の部屋へと運ぶ。久しぶりに感じた一ノ瀬の体温はどこか安心した。
「弟よ、すまん……」
弟への罪悪感を少しでも減らすために口に出して謝ってみるも、何処からかくる罪悪感は減るどころか、胸のドキドキに上乗せされて増えていく。
「お、俺の部屋で寝かせるだけだからっ」
全くもって何をしているのだろう俺は、昔こっぴどく振られた女の為にここまでしてやる義理は無いだろうに。
部屋について自分のベッドに優しく下ろす、一ノ瀬がまだ起きていないことを確認した後、これまた優しく毛布をかけてあげる。
「た……いち、ごめ……ね……」
「一ノ瀬?」
起きているのかと確認してみるも、一ノ瀬は寝息を立てて眠っている、どうやら寝言だったらしい、……ん、寝言!?
「ななな、なんで寝言で俺の名前を!?」
驚愕するも、眠っている一ノ瀬は起きない、先程治ったはずの胸のドキドキがまたも鼓動を再開する。
「と、とりあえず行くか!!」
両頬を強く叩いて目を冷ます。そして俺は部屋を出て行った。
『行かないで……』
俺が部屋を出る際に発した、そんな一ノ瀬の声を聞かなかったフリをしながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます