08 親友は金髪チャラチャラリア充(但し過度の美少女ゲーオタ)②

「で、アイト。お前はいったい誰が一番好きなんだよ」

「ちなみにケースケは?」

「質問を質問で返すなよ。でもそうだな……」


 別にこのケースケの答えで、好感度が変わるわけではない。ただ気になるだけで、興味本位だ。ついつい気になる女子の評価を気にしてしまう、男子高校生の性かもしれない。


「七海だな」


 ケースケは考えるように俯いた後、もったいぶらずに答えた。


「なんで?」

「なんで、と言われてもなあ……そうだな、知ってる通り美少女だとは思うし、あのフワフワした感じはいかにも女子って感じだろ。あの女子力で男子を目指してるって言うんだから、ギャップ萌えも兼ね備えてる。頭も悪くないし、料理だって普通にできる――」


「ひょっとしてケースケ、七海ちゃんのこと好きなの?」

「やめてくれ。断じてそれはない」


 ケースケがやたら語気を強める。それは違うと目が語っていた。だとしたらまだ新クラスになって一か月経ってないのに、よく観察してるなあ。ストーカー並みの情報量だったぞ。


「アイトはどうなんだ?」


 ケースケは一度咳ばらいをして、話をそらした。ただ別に焦った様子もなく、七海ちゃんに好意を寄せているわけではなさそうだった。よかったよかった。


「もちろん全員だよ」


 ハーレムメンバーを全員均等に愛する。これはハーレムラブコメ主人公入門の基本の『き』だ。主人公の中には最終的に一人に絞る者がいるが、俺はそれとは違う。だってそんなの、全員がハッピーエンドを迎えられないじゃないか。


「……『一番』は誰だって聞いてるんだが」

「ケースケ、女子にモテないからって俺を困らせる質問をするなよ」


 ついでに俺もモテてないけどな! 悲しい事実が自分の心も傷つけた。


「ちげーよ。アイトお前、頭脳は良いのに頭はわりーな」


 ケースケの人を小ばかにするような口調。しかもその違いは一体何なんだよ。同じだろ。


「ラブコメ主人公の親友キャラってこんな感じの質問するだろ、それをやってんの」

「自覚はあるんだ」

「そりゃ意識せざるを得ないだろ。まさか俺がアイトの引き立て役になるとはなあ。まあ、剛田とアイトが逢った時からそんな気がしてたけどさ……」


 俺と恋が逢った時って、一年生の初めじゃないか。


 ラブコメ主人公には必ず最低一人、モテない友達がいる。役割はケースケが言った通り主人公を引き立てることで、主人公が女子とイチャコラしていると「なんでお前が○○さんと⁉」などと喚く、迷惑かもしれないが物語内では意外と重要なポジションにあたる。


 しかもその働きを認めてもらえることはごくわずかで、エピローグでは完全に空気と化し、終いには生存すら忘れられることもある、不遇にも不遇な男たちである。


 それゆえに自らがモテたり恋人を作るようなことは無く、悪く言えば主人公が青春を送るための生贄。もちろん幸せになれる例外だってあるのだが、多分それは一割程度だ。


 それを知っているにも関わらず、この男は自らを『親友キャラ』と名乗ったのである。この事の重大さは、美少女ゲーやラブコメアニメなどを見る諸君にしかわからない。今の首相はケースケに国民栄誉賞を与えるべきだと思う。


 ……という日本規模の壮大なジョークはさておき。


 親友キャラには他にも仕事がある。ただ喚くだけの簡単なお仕事のみではない。主人公の悩み(のろけ)を聞くと言う、地味に心が痛まることもしなくてはならないのだ。


 ただこれがエセ主人公の場合、本当の悩みを聞かされることになる。当然、親友キャラ本人はそれには気づいていないわけだが。


 ということでエセ主人公こと俺は、ケースケに本当の悩みを相談したいと思う。


「そんな親友キャラに相談なんだけどさ」

「なんだよ、いきなりのろけ話か?」

「……まあそんなところ」

「はいはい聞いてあげますよ、どんと来やがれ」


 いや、のろけ話ってそんな覚悟して聞くものじゃないと思うんだけど。大してビッグニュースではないし。


「どうしたらあの子たちの好感度上がるかなあ?」


 こんな感じの、ひたすら青春にひた走る俺のかわいい恋愛相談だけだ。


「もうカンストしてんだろ?」


 ケースケは俺をラブコメ主人公と勘違いしている。だが実際していないのが事実である。カンストどころか、多分平均値ちょっと上くらい。


「うーん、今のまま好感度を保ちたいというか……ほら、継続は力なりって言うだろ?」


 好感度を保ちたい、というのはもちろん言い訳である。保ってたらいつまでもラブコメが始まらないハーレムコメディーだ。


「それで俺に何か好感度の上がるようなイベントを考えてほしいと」

「うん」


 ケースケに相談したのはただ親友キャラだからではない。美少女ゲーマスターとして二次元の女の子と数々のイベントをこなしている我が師に聞けば、何か良い答えを得ることができると考えたからだ。


「テスト勉強なんてどうだ?」


 そんな俺の期待に応えるかの如く、ケースケは数秒で答えを出してくれた。


「テスト勉強って、来週の月曜日にある真剣模試のこと?」


 真剣模試とは全国の高校で年に数回行われる試験である。我が高校では二三年時のこの成績と定期テストの結果が推薦にかかわってくるため、二年からは本気で対策する人も多い。俺も推薦を狙っているため、今回から力を入れている。


「ああそうだ。まあ、テスト勉強というよりは……『テスト勉強という名のお泊り会』だがな」


 ケースケがにやりと笑みを浮かべた。


「つまり、勉強目的で合法的に家に呼ぼうってことだね。さすが師匠だ、考えることが汚すぎる……!」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「だけどさ、普通お泊り会って同性同士でやるものじゃない? 引かれないかな?」


 友達が少なすぎた俺にとって、お泊り会というリア充的行為は一度しか行ったことがない。もちろんお相手はケースケであったし、一日中美少女ゲーをプレイしただけ。お泊り会の思い出としてはそれくらいしか思い浮かばない。


「あのなあ、喜んで来るに決まってんだろ。お前、本当に学園ハーレムラブコメ主人公かよ?」


 ケースケが鼻で俺を笑った。


 だから違うって何回も言ってるんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だがラブコメは始まらない!~一ノ瀬愛人と彼のハーレムの物語~ 小林歩夢 @kobayakawairon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ