03 キャラ見せみたいなもの③
「失礼します、にーさま」
「こんにちは、にーさま」
「ごきげんよう」
声の主たちに目を向けると、そこには一年生の三人の女の子が立っていた。
「お、どうしたんだよなるなる? お嬢も」
なるなると言うのは俺のかわいい妹たちのことで、名前はナナとルル。義理ではあるが、正真正銘の妹たちだ。
お嬢と言うのは城ヶ崎カレンだが、あだ名はそっくりそのままの意味。お嬢様のテンプレートだからお嬢。まあ、このあだ名で呼ぶのは俺と恋だけだが。
なるなるがお嬢の前をてくてくと歩いて俺の方へ来る。
お嬢は後ろからゆっくりとなるなるについて行く。
「キャッスルちゃん、なるなるちゃん! ごきげんよー!」
そう言いながら遥が三人に大きく手を振って出迎えた。たまに、と言うか昼休みはほぼ確実にこの教室に来るので、いつの間にか遥と七海ちゃん、恋と知り合いになっている。女子と言うのはなぜいともこう簡単に友達ができてしまうのか。ちなみに城ヶ崎だからキャッスル。遥は独特のネーミングセンスをお持ちなのである。
「げげっ……ハイテンション退魔師もいたんですの……?」
お嬢が一歩引いて嫌な顔をする。どうも出会った当初から遥のハイテンションさに苦手意識を持っているらしい。対する遥はそんなこと気にせず、にひひと笑っている。
「「こんにちは、遥先輩。それに皆さんも」」
そんな失礼なお嬢とは違って、我が妹たちは同時にお行儀よく頭を下げた。このシンクロ具合は双子の特性なのかな。オリンピックでシンクロナイズドスイミングのデュエットに出たら確実に金メダル獲れちゃうと思うよ。残念ながらこの子たち泳げないんだけど。
七海ちゃんと恋も軽く微笑んで挨拶を返す。
「お嬢、今日はいつもより早いね。もしかして俺のことが愛おしくて……何をしているのお嬢っていたたたたた!」
「誰があなたを愛しく思っているのかしら……?」
めきめきと両方のこめかみに指圧が入った。おまけにお嬢が俺の顔を握りながら辛らつな言葉を送る。ドМ歓喜のこの状況だが、そこまでマゾヒストではない場合、ただただ痛い。頭がつぶれそうだ。
「一応、一学年先輩なんだけどなあ」
「ええ、そうですわね」
よほど怒っているのか、いまだに手を放してくれない。いやあサディスティックだね。ハーレム要員にはかかせない人物だ。もちろんなるなるは妹だからハーレムメンバー外な。
どうも周りからはハーレムメンバーとして数えられているんだけど。義理とはいえど、妹に手を出す兄はいない。大切な家族なんだから、お嫁さんにする必要もない。
「残念ながらゴミムシ先輩に尊敬の念などありませんの。……ああ、これでは全世界のゴミムシに失礼ですわね、先輩。……あら、これだと日本中の先輩に失礼ですね。…………おい」
「ついに固有名詞すら無くなった!」
「ふん。でもそうすると呼び方が無くなるので戻しますわ……ゴミムシ先輩」
やっとこめかみから手を離すと、その後丹念にハンカチで拭いていた。菌扱いですか。あなたの友人のお兄ちゃんがばい菌ですか。すごく悲しい。
って結局ゴミムシの呪縛からは抜け出せないのかよ。
「ナナさんナナさん。これはいわゆるツンデレというやつですか?」
一連のコミュニケーションを眺めていたルルがぼそっと口に出した。コミュニケーションというか罵倒だけども。しかしこれで一応普段の会話が成立しているのだから、案外的を得ているかもしれない。
当然、プライドのあるお嬢も黙っていられない。
「私はツンデ――」
――レではありませんわ! と言うはずだったお嬢の叫びは、次のナナの言葉で阻まれた。
「ルルさんルルさん。にーさまの部屋の本棚の奥にしまってあった『ツンデレっ子大集合(全年齢版)』の、あのツンデレですね」
「かはあっ!」
え、何今の? 本来お嬢に行くはずの攻撃が最終的に全て俺に来なかったか?
案の定、恋と七海ちゃんの視線が痛い。うん、何を言いたいかは分かるんだけどね。ここは健全な男子高校生一ノ瀬愛人に免じて許してほしかったりしちゃったり――
「ツンデレっ子大集合ー!」
「やめてくれえ!」
空気の読めない遥が拳を突き上げて叫んだ。ほら、クラスの皆から俺が変な目で見られてるだろ! もうやだ、お婿に行けない……ん、そうしたら遥にもらってもらえばいいじゃないか。やったねこれで口実ができた。
「ナナのせいでにーさまのガラスのハートに傷が入ってしまったではないですか」
知らない間にルルが眉間にしわを寄せてナナを怒っていた。
「うっ……確かに今のは言い訳できません……すみませんにーさま」
ぺこりとかわいく頭を下げる。
いつもだったら何かしら言い返して喧嘩になるっていうのに。……今日は雪でも振るのではないだろうか。
「うん、大丈夫だから。お兄ちゃんのメンタルそれくらいじゃ壊れないから」
だてに学園ハーレムラブコメ主人公目指してないからな。
「それで、何か用があったんじゃ……?」
蚊帳の外だったことを気にしてか、七海ちゃんが突然口を挟んだ。あれか、嫉妬ってやつか。俺と話した過ぎて業を煮やしてしまったのか。モテる男ってのはつらいものだ。……恋は全くそんなの気にしていないようだが。いや、うん。ひたすら無言で菓子パンを貪られても……。
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