第2話
時間は戻って数日前
その日は高校入学式で、お決まりの長話を聞かされたあと、新入生は教室に戻ってきていた。
その中の一人が、俺だ。
自由時間だったからボーっとしていたが。そのわずかな安息さえ許されないのか、すぐに担任の教師が、教室に入ってきた。
「皆さん、今は自由時間の予定でしたが、急用があるので、先にそちらを済ませたいと思います」
続けて先生は言う。
「実は、このクラスにはもう一人生徒がいます」
それは何となく予想していた。なぜなら、俺の前の席だけが空いているからだ。
席順は完全ランダム制で、男子か女子かも分からないが、このクラスは確実に一人欠けている。
「入って」
教室の扉が開き、一人の女子が入ってくる。すると、クラス中がざわめく。
そりゃそうだ、その女子はなかなかに可愛い顔をしていた。だが俺としては、なぜこの女子だけ別に来たのかの方が気になるが。
謎の女子は教壇の前まで進んで止まると、勢いよく前を向き。
「皆が抱いているであろう疑問を解くために自己紹介をしよう!私の名は
確かに疑問は解けたが、新たな疑問がいくつか浮上してきたぞ。
すると、一人の女子が手を挙げた。
「呼び方は『マコトちゃん』でもいい?」
そこ?今の要ツッコミ情報の中で真っ先に訊くのがそこ?
名前も知らないがお前、感性どうかしてるだろ?
ここで篝が口を開く。
「ついでに言っておくと、趣味で魔法少女をしている。これまでに4回ほど世界を救った」
ワケわからない情報を追加するな!大体なんだ魔法少女で世界を救ったって。
そして何気に「『マコトちゃん』でもいい?」をスルーしている。
俺がそんなことを考えていると、一人の男子が手を挙げる。
「魔法少女ってなんですか?」
え?そもそも?その単語自体を知らない人っているの?まぁ、俺も何かと訊かれたら答えに困るが。
「魔法少女とは、魔法やそれに似たによって変身し、悪しきものと戦う少女のことだ」
この質問には答えるのか。ならなぜ「『マコトちゃん』でもいい?」はスルーした?」
すると同じ男子がまた質問する。
「魔法ってなんですか?」
だからなぜお前はそんなに無知なんだ。この中で知らないのは多分お前だけだぞ?小学校から行き直せ。
今度は別の男子が手を挙げる。
「変身ってなんだ?」
お前もか!他にもいた!よし、二人で小学校に行き直せ。
「その質問にも答えてやりたいところだがその前に、おい、そこの君」
そう言って篝が指差したのは、俺だ。
「俺が何か?」
「さっきからずっと口も開かずにこちらを睨み付けているな。思えば私が教室に入ったとき、君だけ表情を変えていなかった。何か言いたいことでもあるなら、私に直接言ったらどうだ?」
「別に睨み付けてません。もともとこういう顔です」
「そんなわけあるか。さぁ、私の前に来て、言いたいことを言え」
「あっそー、なら言わせてもらいますが」
俺は篝の前まで行き、彼女の肩をつかんで固定する。
大きく息を吸って。
「なんで入学初日から遅刻してるんだよ!そしてなんで偉そうにできる!父の所有するリムジンで来た?はっ、金持ちアピールか!んなこといちいち言うのは性格悪いやつだ!あーそうですね性格悪いんですね!
それとなんで『篝ちゃん』なんだ?なんで名字にちゃん付けなんだ?その場合、親しいのか?親しくないのか?『マコトちゃん』でいいか訊いてるやつがいるんだからめんどくさくてもその場しのぎでも答えろ!自己紹介についでっておかしいだろ!あとなんだ魔法少女って中二病か?頭イカれてんのか?世界を救ったって言うならいつ世界が危機に陥ったか秒単位で答えてみろ!全体的に総合的に発言が意味不明すぎるんだよ!」
「あ......あ......あ...」
「ほら、言いたいこと全部言ったぞ?」
「と、とりあえず二人とも、席に着いて」
「はい」
「は...い」
それから変える時間まで、俺や篝に話しかける者はいなかった。
ヒーローは裏切らない 秋野シモン @akinoshimon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヒーローは裏切らないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます