第4話 思わぬ出会い

 スープがなくなると、自然に散会となった。多くの者は「部屋」に戻り、またあるグループは花札をするために、ちょっと広めの「小屋」に集まる。俺は、腹がいっぱいになって満足しながら、今日はゆっくり眠ろうと、賭けには加わらないことにした。

 帰ろうとすると、小城牧師から野中さん、と呼び止められた。

 「なんですか」

 少々眠気が来て、とろんとした目を向けると、彼は少しためらいながらも、はっきりした声で言った。

 「会っていただきたい者がおります。少々、お時間をいただけませんか」

 「いいですよ」

 俺は何の考えもなく、満腹感に酔いしれながら言った。

 小城牧師は、設営テントの方へ行ったが、やがて一人の女性を伴って戻ってきた。

 「家内の純子です」

「あ、どうも……」

「主人がお世話になっております」

 俺たちは会釈を交わした。純子さんは、まだ若いきれいな女性で、どこかおびえているように見えた。手を組んだり、擦り合わせたり、落ち着かない。小城牧師が、沈黙した我々に助け船を出した。

 「今日のスープは、純子が作ったんですよ」

 「そうですか。大変美味しかったです。ありがとうございました」

 俺がまた頭を下げると、純子さんは少しビクッとしながらも、にこっと笑って、どういたしまして、と礼を返してくれた。

 「純子、言っていいのかい」

 小城牧師が、小声で言うのが気になった。何かあったのだろうか。純子さんは、軽くうなずいた。

 「スープは、純子が作りました。あなたのお皿も、純子が選びました。純子は、あなたのスープを注ぎ、少し多めに具を入れたそうです」

 「はあ、なんのために、そんな、わざわざ……」

 小城牧師は、純子さんをもう一度見た。純子さんは、ぎゅっとこぶしを握りしめてうつむいたが、やがて微笑んで俺を見つめた。

 「野中さんのことを知っているから」

 「え?」

 そう言われても、純子さんの顔は思い出せない。困っている私に、純子さんは優しく言った。

 「私、村田陽介の娘です」

 そう言われて、俺はくらくらと世界が回って崩れ落ちるように感じた。

 この女性は、俺が殺した父親の、子供だった!そして、そうだ、あのお嬢ちゃんが……絶命した父親を腕の中で見つめていたあの女の子が、ここにいたのだ!

 俺は、思わず純子さんの足元にひれ伏した。純子さんは、さっと俺を助け起こした。ひざががくがくして、うまく立っていられない俺のために、小城牧師が椅子を持ってきてくれた。座って、深く息をつくと、ようやく事態が飲み込めてきた。

 「純子さん、俺は、あなたのお父さんを……」

 「分かっています」

 純子さんは、俺の肩に手を置いた。そのぬくもりは、昔の妻の手のように懐かしさを感じる、久しく感じたことがなかった、俺を慈しむような感覚だった。

 「みなさんは、あの後……」

 「家族は離散しました。兄弟は母に引き取られ、私は父方の祖母に引き取られて、そこで育てられました。それが、この教会だったのです。私は、昔は悪夢とあなたを責める気持ちで、夜も眠れないほどでした。……でも」

 純子さんは、うなだれる俺にそっと語りかけた。




 

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