最終話「いつの日か」

 夏休みなんて、いつも遅くやって来て「あっ」と言う間に去って行く。

 今年は、いつもよりも早く過ぎたけど……忘れられない夏休みだった。


広志「さよならくらい言ってけよな。あ!そう言えば、ホンマの名前聞くん忘れてた……フリードリッヒ? いやいや、それはないわ」


 居なくなった日。『世話になったな』と言う書き置きだけが、机の上に残されていた。

 宇宙船の隠し場所まで走ったけど、すでに何もなかった。

 父ちゃんも母ちゃんも、安夫も秋男も、誰も犬が居た時の記憶は無かった。買ったハズの犬小屋までも、無くなっていた。

 アイツと離れても僕の記憶が残っているのは、友達だったからだと信じている。


 そうそう、僕以外にも記憶が消えていないと言うか、消すのを忘れられていたと言うか……もしかしたら、面白いから残したんじゃないか?と言う地球人が居る。

 神主の爺ちゃんだ。


 安夫や秋男と居る時に「火星人の犬は、どうした?」って言ったもんだから、さぁ大変!


 「広志は犬なんて飼ってないし、それに火星人の犬って! 神主はボケた! 金星人だと本気で思ってる!」


 と、安夫が言いふらした。


 あの後、大人達が集まって老人ホームをススメたりとか、色々大変そうだった。

     ・

     ・

     ・


 それにしてもアイツ、結局何しに来たんやろ?

 地球征服? ないない。

 観光かな?


先生「コラ、広志! 夏休みボケか!」


 それから僕は、無意識に空を眺めるようになっていた。

 地球人は今のところ、月まで行っている。いつか火星に降りる日も来るだろう。


広志「今度は、いつ遊びに来んのかなぁ」

     ・

     ・

     ・

夏子「広志くんのお弁当美味しそうね」

広志「あ! えぇ~っと……」

夏子「今日、転校してきた・米・山・夏・子!」

広志「ゴメン」

夏子「見て、私のお弁当も美味しそうでしょ?」

広志「ん!? ド、ドッグフー……えぇ~!!」


 彼女は笑いながら、目で『何か』を要求しているようだった。


おわり

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ワンダフル @londebell

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